ピコピコ…

延々と終わりのないようなゲームの画面を私は見つめてる。

とくに楽しいわけではない。
ただの暇つぶし。


このままではいけない。とは思う。
でも、何をキッカケに外へと出たらいいのかがわからないのだ。


別に引きこもりなわけじゃない。
用があれば、コンビニくらいは行く。
人と話すのも別に嫌いじゃない。
めんどくさいけど。


あぁ。明日。明日こそは。
と思いながら、ゲーム画面を見つめる。

私が描く「明日」はたぶん、明日ではない。

明日の今頃、また同じようなことを考えながら私はゲーム画面を見つめているだろう。


お金がない。
働かなくては、いけないのだ。
けれど私の体は動かない。


どうしてこうなった?
いつからこうなった?

自分以外の誰かのせいにできないかと探してみるが、もちろんそんなことに該当するような人はいない。


友人から久しぶりに連絡がくる。

「久しぶり!今なにしてんの?」

「とくに、なにも。」

「仕事は?」

「あー。今探してるとこ。」

「そっかぁ。大変だね。今、就職難だしね。」

「うん。まぁ、大変かな。」

「仕事決まったら教えてよ。就職祝いしてあげる!」

「あぁ。うん。わかった。」

「じゃあ、頑張ってね。」


嘘をついた。
めんどくさい。


私はようやく重い腰をあげて、履歴書を書いた。


次に友人に会うときに、

「なかなか決まらなくて大変だったよー」

とか

「やっと決まって、本当嬉しい!頑張った甲斐があったわ。」

とか。


そんなことを言わなくては格好がつかないから。
私は働くのだ。
誰もいない部屋に向かって
「ただいま」
と言ってみる。
もうこんなのは慣れっこだ。

テレビをつけて、夕飯を一人黙々と食べる。
食器の音がやけに響く。
「ごちそうさま」
と、また一人呟く。


一人でいるのは慣れている。

8歳のときに両親が離婚した。
私は父に引き取られ、以来父と二人暮らしだ。
父は仕事で帰るのが遅く、ほとんど顔を合わさない。
私が高校にあがってからは、ますます顔を合わせる機会が少なくなった。


冷蔵庫の中に小さなホールケーキが入ってある。
父が用意したものだ。
今日で18になる。

父は毎年小さなホールケーキとプレゼントを用意してくれていた。
ケーキの箱には「誕生日おめでとう」というメッセージカードが貼られている。


誕生日に一人、用意されたケーキを食べる。
実に寂びしいものである。

一人で自分の為のケーキを切り分ける。
ため息と共にテーブルにつくと



ガチャッ



慌てた様子の父がいた。

「お…おかえり…」

突然の父の帰宅に戸惑った。

「どうしたの?」
思わずそう聞いた。
父は走ってきたのだろう。息をきらしながら

「どうした。て、お前…今日、誕生日だろ」


父は「あぁー疲れた」と言いながら、椅子にもたれた。

誕生日だって仕事で帰りはいつも遅いくせに、なんだって今年はこんなに早く帰ってきたのだろう?と不思議に思っていると


「今年は一人でケーキ食べなくて済むな」

そう言って微笑んだ父の言葉にハッとした。


昨年の誕生日のあと、私は父にポツリと言ったのだ。
「一人でケーキ食べても嬉しくない…」


まさか、覚えているとは思わなかった。
あの言葉を覚えていて、今日こんなにも走って帰って来てくれたのかと思うと、私はたまらない気持ちになった。


父は「プレゼント」といって私にピンクの可愛い包みを渡した。
中にはクマのぬいぐるみが入っていた。

18の娘の誕生日にぬいぐるみなんて…
きっと父くらいのものだろう。

私は思わず笑ってしまった。
不器用な父の愛情が嬉しかった。


二人でテーブルについて、ケーキを食べる。
とくに会話もない。テレビを見ながら、黙々と食べる。そんな二人。そんな親娘。



ハッピーバースデー。
父のことが嫌いだった。

父もきっと僕のことは好きではなかったはずだ。



父は僕がやりたがることを、理由もろくに聞かずに反対することが多かった。
許しをくれるときはいつも決まって
「好きにしろ」
と吐き捨てるのだ。


高校の進路相談では大学に進学することを希望した。
理由はとくにないが、大学を出ていたほうが就職には有利だろうし
なによりやりたいことがなかった。
だから大学に行ってじっくり自分の将来を決める気でいた。


父は反対した。
「理由もないのに大学なんかに行くな。お前に使う金はもうないぞ。」

どうして父はこうなのだ。

僕は就職に有利であることや、もっと知識をつけるべきだと主張したが
父は賛成はしてくれなかった。


それでも昔からよき理解者だった母が父を説得し、僕は大学へと進むことができた。


それなりの知識と自信をつけた僕は就職にも苦労はしなかった。
すんなりと就職先は決まり、僕は晴れて社会人へとなった。


先輩に教えてもらいながら、僕は仕事をどんどん覚えた。
僕は調子にのっていた。

自ら選んだことはなに一つ間違ってはいなかった。
父に向かってふんぞり返ってやりたかった。

久しぶりに実家に帰り、僕は上機嫌で仕事の話をした。
「やっぱり大学行って正解だったわ!苦労知らずだもん。」
そんな話をする僕に父はため息をついた。
「お前はなんのために大学に行ったんだ」

僕はムッとしながら
「俺は間違ってなかった。大学に行ったから、就職先だってすんなり決まったし仕事だってうまくいってる」

父は呆れた顔で
「なんの役にも立ってないくせに、仕事ができた気でいるな。」
と吐き捨てた。


父は僕のことが嫌いなのだ。そうに決まってる。
一体僕が何をしたというのだ。
仕事も真面目にこなしてるし、迷惑だってかけてない。
何が不満だというのだ。


しかし、父の言っていたことはすぐに解った。


僕は仕事でミスをしてしまったのだ。
そのせいで会社の取引が無くなってしまった。
僕は何もできず、ただうろたえていた。


先輩が取引先へと出向くさいに僕もついて行こうとしたが
「お前は来るな。お前のミスは俺のミスになる。今のお前じゃ来ても足手まといだ。」
先輩にハッキリと告げられ僕はただ待つことしかできなかった。


取引は先輩のおかげで再契約することになった。
僕は先輩に頭を下げ、何度も謝った。


「いい社会勉強になっただろう。お前は学歴はエリートだけどな、社会に出たらそんなもん関係ないんだよ。どんだけ大層な学歴背負ってても仕事ができない奴は必要ないんだ。社会に属するってのはラクじゃないぞ。」

そう言って先輩はニカっと笑うと

「ちなみに俺、中卒だから」

と言った。



あぁ。本当だ。
僕はいったい何をしてきたんだろう。