初めて会った日を覚えてる?
君はとてもぶっきらぼうで、私に見向きもしませんでした。

初めて話したのはいつだったかな?
私のお弁当を見て君がバカにしたように笑ったときかな?

初めて手を繋いだのは帰り道。
手汗がひどいんじゃないか?てすごく緊張したのを覚えてる。

初めてキスをしたのは私の誕生日。
君は「これが一番のプレゼントだ!」なんてキザなセリフを言ってましたね。



君が私にプロポーズをしたのは、出会ってからちょうど10回目の私の誕生日。
君はうつむいて、私の返事をただ静かに待っていた。
あのとき初めて君を可愛い。と思いました。

君の

声が好き
笑顔が好き
手が好き
温度が好き
不器用なところが好き
弱虫なところも好き
頑固なところも好き

ぜんぶ好き


君が好き



5年という月日はまだ幼い私たちの心を引き離すのに十分すぎる時間だった。


彼の口から転校という言葉を聞いたとき
私はこの世の終わりかのように泣きじゃくった。
彼もこらえきれずに大粒の涙を流し、二人で抱き合って泣いた。

彼はなんとか転校しなくて済むように手を尽くしたようだが、半人前の子どもが何を言ったところで無駄だった。


あの時私たちは永遠を誓った。

「いつか必ず結婚しよう」

なんの保証もないその言葉を私たちは本気で信じていたし、叶えるつもりでいた。


汽車に乗る彼の姿は涙でぼやけた視界ではうまくうつせずよく覚えていない。
たった5年。
私たちの愛はそんな月日に負けたりなんかしない。
そう思っていた。


5年後、私はほとんど彼のことを思い出さなくなっていた。
思い出しても今となっては笑い話にしてしまうようなものになってしまった。


彼はこの町に帰ってきているのだろうか?
ふと、そんなことが気になったりもしたけれど慌ただしい日常に彼の姿は消えていった。



あれほど本気だと思っていた恋は知らぬ間に思い出となり、あれほど愛おしいと思っていた彼はすれ違っても気付かないほどに遠のいてしまったのだ。
母はきっと私を守ろうと必死だったのだ。


幼い頃から母は教育熱心な方だったと思う。
小学生にあがる前から、漢字や算数のドリルを買ってきては私に勉強させた。
できたら大袈裟なくらい褒めてくれた。

母が笑ってくれるのが嬉しかった。
だから私は勉強した。

小学生にあがってから、母は私に習い事をさせるようになった。

ピアノ
習字
英語
体操

私の予定は習い事で埋まった。

周りの子達が楽しそうに遊んでいるあいだ、私は勉強をしていた。

おかげで高校受験のときも難なく志望した高校に入れた。

母は誇らしげに
「やっぱりママの言う通りにして間違いなかったでしょ?」
と言った。
私は
「そうだね。」
と、うまく笑えずに言った。


高校に入ってから、友達の明美に誘われてバスケ部に入った。
母は最初は反対していたが、勉強に支障をきたさないなら。という条件で入部を許してくれた。

バスケットは思ってた以上にハードだったが、それ以上に楽しかった。
高校から始めた私はもちろん試合に出れることはなかったが、それでも十分すぎるほど私は満足していた。

テストが近付くと部活は休みになる。
でも、私はそのあいだも暇を見つけては練習に打ち込んだ。
それほど楽しかったのだ。

勉強は寝る時間を削ってやった。

夜遅くまで明かりのついた私の部屋を見て、母は心配していたようだった。
眠そうにしている私に

「大丈夫?ちゃんと眠れてるの?昨日も遅くまで明かりがついてたけど…」

と、不満気に言った。
私が
「大丈夫」
とだけ返事をすると

「部活…辞めたら?疲れがとれてないんじゃないの?」
私は慌てて
「大丈夫だから!部活は楽しいから!」
と返した。


テストもなんとか終わり、また部活が再開された。
周りを見ては早く追いつきたい。と気持ちが焦ると同時に、同じようにプレイできている自分を想像してワクワクした。

練習が終わったあとも、自主練をした。
部長に何度か「オーバーワークにならないように」と注意をされた。

黙々と自主練をしていると、明美がやって来た。
「オーバーワークだよ。部長にも注意されたでしょ?体壊したら元も子もないよ。」
と言われ、切り上げた。

帰り道、明美は呆れた口調で
「あんたは夢中になると無茶するタイプなんだね。」
と言った。
自分でも、こんな自分は意外だった。

「うん。私もびっくりしてる。でも、練習した分だけうまくなってくのが楽しくて」

「まぁ、確かにかなりうまくなったよね。」

「本当⁉︎」
思わず前のめりになってしまうほど嬉しかった。

「うん。うまくなった。でも、最近はちょっとやり過ぎ。もう少し練習量は減らすべきだよ。」

「うん。わかった。」


でも私は練習量を減らすことはなかった。
上達していくことが嬉しくて、いつか試合にも出れるんじゃないか?と期待さえ抱いてしまった。

だけど私の体は私のやる気とはウラハラにボロボロになっていた。
見かねた明美が「しばらく練習量減らして。このままじゃ体壊れるよ」と、強制的に練習量を減らされた。
物足りなそうな私を見て、明美は笑って

「やる気ありすぎ!本当、無茶するよねー。」
と言った。
なぜだかその言葉が私を認めてくれてるような気がして嬉しかった。


けれど私の体は限界だったようだ。
私は倒れてしまった。
母はひどく心配していたが、診察結果が過労だとわかると怒りをあらわにした。

母は顧問の先生に電話をし、私の退部を勝手に決めた。

母はベッドに横になっている私に
「やっぱり部活なんかやらせるべきじゃなかったわ!こんなになるまで練習させるなんて…」

「違うの。お母さん。私が勝手に練習量増やしてただけなの」

「いいのよ。庇わなくても。あなたはそんなバカみたいに無茶する子じゃないもの」


その母の言葉がひどく悲しかった。
違う。違うのよ。お母さん。

明美に言われた言葉が頭の中を駆け巡った。

「本当、無茶するよねー。」

あの言葉がなぜあんなにも嬉しかったのか今ならハッキリ分かる。


「お母さん。私ね、無茶しちゃう子なんだよ。」


ちゃんと見てくれた言葉だったからだ。