私はオタクである。
部屋の中には漫画がどっさり、壁にはアニメのポスター、棚には所狭しと好きなアニメのフィギュアが飾ってある。

でも、それは秘密だ。

オタクというのは今では珍しくないが、まだまだ世間的には肩身が狭い。
オタクを見る世間の目はいまだ冷たさを残す。

しかし、私がオタクであることを隠しているのはそんな世間様を欺くためではない。
私が隠したい相手はただ一人。

相澤 悠太だけだ。


高校に入学して同じクラスになった相澤悠太に私は一目惚れをした。
気付けば彼を目で追い、その想いはどんどん大きくなっていった。

ある日、相澤がクラスの男子と話している会話を聞いた。

「ぶっちゃけオタク女子って引くよなぁー」

「あぁ…引く。二次元に本気になるとか、ありえねぇから」


ギャハハと笑い声が響く教室。私の心は焦りで満たされていた。


家に帰るとすぐさま学校に持って行ってたアニメグッズを机に閉まった。
シャーペン、ポーチ、キーホルダー…

本当だったら肌身離さずつけていたいのだが…三次元で生きていくためには仕方あるまい。


次の日から私はオタクであることを隠すことにした。
まだ自分がオタクであることが露呈する前でつくづく良かったと思う。

だが、困るのはグッズの入手方法である。
いくら三次元を生きるといっても、やはり私はオタクなのだ。
好きなアニメのグッズが発売されるとなるとなんとしてでも手に入れたいのがオタク心。

しかし地元で購入するとなると誰かに目撃されるかもしれない。
考えた結果、隣町まで買いに行くことにしたのだ。

一度家に帰りわざわざ制服から私服に着替えて隣町まで行く。
好きな人に嫌われたくないがために、なけなしのお金をはたいて電車賃を払うとは…我ながら乙女だと思う。


隣町のアニメグッズ専門店に着き、私はここで信じられない光景を目の当たりにする。



私の視線の先に見えたのは


相澤 悠太

私が想いを寄せるまさにその人物だ。


なぜ、相澤がこんなところに?
私は思わず身を隠しながら相澤の様子をうかがった。
相澤は私服姿で帽子を目深にかぶり、周囲をキョロキョロと落ち着かない様子で店内を歩き、やがて一つのコーナーの前で立ち止まった。

相澤はグッズを物色し、何点かを手にとり会計へと向かうと足早に帰って行った。


そう。相澤はオタクだったのだ。
「オタク女子は引く。」と言いながらも、自らがオタクだったとは。
私は腹を抱えて笑いたい気分だった。


オタクであることを隠したかった相手が、まさか自分と同じオタクだったとは。
相澤も私と同じように服を着替え、さらには帽子までかぶり、隣町まで来ていた。
相澤には相澤なりのプライドのようなものがあるのだろう。

それにしても…あんなことよく言えたものだ。思い出すと可笑しくてたまらない。

ここは一つ。惚れた女の粋な計らいで見なかったことにしておこう。
と、思いつつ私の頬は緩みっぱなしだった。



今日も相澤はいつも通り、どこにでもいる男子高生を演じている。
「アニメなんか小学生以来見てねーわ」
と言う声を背中に聞きながら

私はクスリと笑うのだ。
「か…彼氏が浮気してたぁ~!!」
そう言って泣き出したクラスの女子。

浮気…かわいいもんじゃないか。
なにをそんなに泣くことがあるというのだろうか。
まだまだ男を選び放題なのに。


私がこんな風に思うようになったのは
先日、父の不倫が発覚したからである。


まさか17歳の娘のいる親父が不倫なんかにはしるとは…

母は隠そうとしているが、両親の様子がいつもと違うことくらい見てれば分かる。


家に帰ると母が泣き腫らした目をしていることが増えた。

いつもは玄関まで父を見送る母がリビングで小さな声で「いってらっしゃい」と呟くようになった。

父はいつも通りの態度で「いってきます」と言って出掛ける。

男というのは、どうしてこう図太いのだろうか。
私は何も知らないふりをして日々を過ごしている。

母は懸命に笑顔をつくっている。
いったい母は私の知らぬ間にいくつのため息をつき、いくつの涙を流しているのだろう。

私が母にできることは、何も知らぬふりを続けることぐらいだ。


「お前はひどぉーい!とか言わねーの?」
同じクラスの聡が話しかけてきた。

「女はみんな浮気した男のこと、そうやって言うだろ?」

「まぁ…いいことだとは思わないけど、かわいいもんじゃないの」

「おぉ!大人!」

「別に。まだ若いんだし。大人になって家庭持ってるくせに他の女にはしるような男よりはいいんじゃない。」

「ハハッ!お前達観してるなぁ~」


達観などしていない。
私は今世界で一番、父という男が嫌いだ。
いい大人が情けなくないのか。
母と結婚したんじゃないのか。
この二人のあいだに産まれた私はどうなるんだ…。

そうだ。私はいったいどうなるんだ?

両親が離婚したら、私はどうなる?
どちらかを選ばなければいけないのか?
冗談じゃない。来年受験だというのに。

…ちがう。

どんな父親だろうと、私の父親なのだ。
私の両親はあの二人なのだ。
私はただ、あの二人の子どもでいたい。

さまざまな想いが生まれては消え、頬をかすめる風が吐き出した白い息を運んだ。


「ただいまー。」

家に帰ると珍しく玄関に父の靴があった。

「おかえり」

出迎えたのは父だった。

「お母さんは?」

父は少しの沈黙のあと、話しはじめた。

「お母さんな、出て行った。ごめんな。」

あぁ…ついに母が出て行ってしまった。
父に愛想をつかしたのだ。

「お母さんな、好きな人ができたらしい。」
父の言ったことが信じられなかった。

「お母さんな、他の男の人のところに行ったんだ。仕方ないよ。お父さん、あんまり構ってやれなかったからなぁ…。お母さんを責めるなよ。ごめんな。」


父は力無く笑った。
大きな背中を小さく丸めて、慣れない手つきで私の夕食の準備をはじめた。



母はなぜ泣いていたのだろう?
なぜ私になにも言わず出て行ったのだろう?


ひどぉーい!

女はみんな浮気した男のこと、そうやって言うだろ?

僕の好きな人は

僕の友達のことが好きだ。


幼馴染みに好意をよせるとは、なんともありがちな話だが
漫画のように両想いだなんて
そんなおいしい展開にはならない。


小さい頃から一緒で、気付けばもう高校三年生だ。
そんな僕らに今さら甘い関係など望めるわけがないのだ。


アイツは僕の友達のことが好きだ。
口には出さないが、見てれば分かる。

会話をしていても気付けば目で追っている。

他の女子と楽しそうにしている姿を見かければしょげた顔をして
話しかけられようもんなら、その日一日機嫌がいい。


そんなバレバレな態度に世話をやいたのが、この僕だ。

二人の仲をとりもとうと接点を作ったのが、高校一年のときだった。
それから付き合うまではいかないが、仲がいい友人。
という微妙な距離感で二人はいる。

だが、互いに意識しているのが僕には分かる。


もういっそのことさっさとくっついてしまえ!と何度思ったことか。

その度、恋人となった二人を想像してはやり切れぬ思いにかられた。


五月。
アイツの誕生日がある月だ。

「お前もうちょっとで誕生日じゃん」

「そう!今年は何くれるのかなぁー?」

毎年、なんやかんやでプレゼントをあげている。

ぬいぐるみだったり、写真立てだったり…

今年は何をあげようか悩んでいると、花屋が目にとまった。


いやいや。花なんてガラじゃない。
とは思いつつ、足を踏み入れる。


「どんな花をお探しですか?」

「と…友達にあげる花を…」

店主はクスリと微笑み

「恋人ですか?」

「い…!いえ!恋人ではないですけど」

「でも、女性にあげるんですよね?」

なんでもお見通し。といった感じで、店主は一つの花を選んだ。

「きっと今のあなたにピッタリだと思いますよ。花言葉は…」


手持ちのお金がなくて、ずいぶんと質素な花束になってしまったが、かっこつかないところが僕らしい。


次の日の日曜日。アイツの家に行った。

ピンポーン

ガチャッ

「あれ?どうしたの?」

「これ。」

「え!!花⁉︎」

「もうプレゼントなんてあげつくしたから。これでいいだろ。」

「ハハッ!なんて花?」

「リナリア」

「ふーん。サンキュー」

「じゃーな。」


僕はなるべく素っ気なく立ち去った。

帰り道はどこかワクワクして、浮かれていた。
これが僕なりの精一杯の告白だ。


気付かれてはいけない。
でも
気付いてほしい。


花言葉は


「この恋に気付いて」

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