母はきっと魔法使いなのだ。

幼い頃本気でそう思っていた。


母の手は不思議な力を持っている。


お腹が痛いとき、母が撫でてくれると自然と痛みはなくなった。
眠れない夜、母が頭を撫でてくれるといつのまにか朝になっていた。


私の痛みや不安はすべて母の手が癒してくれた。



母の手はいつも温かかった。
大きくはないけれど、いつも私を包んでくれる優しい手をしていた。


母は76歳になった。
相変わらず母の手は温かく、私のすべてを受け入れる。

深く皺が刻まれた母の手に私はクリームを塗る。

温かい手。
私を守ってきた手だ。
5歳になる娘と買い物に出掛けた。
すると、いつも通る道にうさぎのぬいぐるみが落ちていた。

「ママー。あれもらっていい?」
「ダメよ。きっと誰かが落としたのよ。」

そう言って、道の端のほうにぬいぐるみをよせた。


きっと娘くらいの子どもが落としたのね。
かわいそうに。取りに来るといいんだけど…。

・・・・・・・・・・・・・・


「キャハハハハ!まぢうける!!」

いつものメンバーでゲーセンに行った。
数あるUFOキャッチャーの中から一つ選び、景品が取れるまで自腹でやり続ける。
というくだらないゲームをすることになった。


じゃんけんで負けたケンタは
「まぢかよー」
と言いながらお金を投入する。

ケンタが3千円ほど投入したあたりで、やっと取れた。

ケンタが取ったのはうさぎのぬいぐるみだ。

「これ、誰かいるー?」
「いや、いらないからー!!」

私たちはゲラゲラ笑いながらも、ぬいぐるみを持って車に乗り込んだ。
何分か車を走らせたころ

「てか、このぬいぐるみ邪魔なんだけどー!」
「いらないし、捨てちゃえば?」
「捨てちゃえ!捨てちゃえー!!」

そう言って車の窓からうさぎのぬいぐるみを投げた。


うさぎのぬいぐるみは歩道に転がっていた。




親子が通る数時間前のおはなし。

四年付き合った恋人に別れを告げられた。
他に好きな人ができたそうだ。
悲しかったし、悔しかった。

しかし彼の放った一言で百年の恋も冷めたのだ。


「あいつは、俺がいないとダメなんだ」

おいおい。冗談だろ。そんな二次元にのみ許されたセリフをドヤ顔で言われても笑う意外の選択肢がないのだが…

彼はなぜか頬を赤らめ、なぜか自分が傷付いたような顔をして私の言葉を待っている。

私の中を様々な思いが渦巻いたが、ハッキリ言えることがある。

お前のような男がいなければ生きていけない女など存在しない。

ということだ。

喉まで出かかったこの言葉をグッと押し殺し私は笑顔でその背中を見送った。


男というのはどうも自分を過大評価しているように思える。
自分は役に立つと思い込んでいるのだ。


CASE1

仕事でミスをして落ち込むA子に、恋人であるB男は「どうした?俺に話してみろ。」と得意気に言うが、B男の返した言葉は「失敗くらい誰にでもあるよ。そんなに落ち込むな。」である。
まるで子ども騙しなセリフなうえに、なんの役にも立ちやしない。
落ち込んでいるA子は得意気なB男に気をつかい愛想笑いを浮かべるハメになる。

この手のタイプは相談事をされないと、頼りにされてない。と分かりやすく落ち込む傾向にあるため非常に面倒くさい。


CASE2

仕事に行きつまり悩むA子に仕事内容がサッパリ分からないB男が「なに悩んでるの?」と声をかける。
この時点で相当面倒だ。
仕事内容を説明しなければいけないうえに、話したところでB男から返ってくる言葉は「大変そうだな。たまには休めよ」ぐらいのものである。
そう思うならお前に無駄に説明した時間を返して欲しい。と心底思う。


女というのは、力こそ男には劣るものの精神力は強靭なものである。
なんせ女性は子どもを産めるのだ。
想像を絶する痛みに耐えるのは母体のみ。そこを耐え抜く精神力が備わっているのだから、男の助けなどほとんど要らないのではないか?と思う。


だが女は自分を弱く見せる演出を心得ている。

女は男が思っている以上に賢いのだ。


女にとって必要なのは、弱さを強要するような男ではない。
自分をか弱い女へと変えてくれる男なのだ。


私に別れを告げたあの男が、女にフられたと電話をしてくるまで

あと三ヶ月。