テレビのオカルト番組を見ていてつくづく思う。
なんだって幽霊ってのは、こうも脅かすことが好きなのだ?と。


そんな俺にまさに今、悲劇が起きている。

帰宅すると、隣の部屋のドアの隙間から見知らぬ女がこちらを睨んで立っている。
いわゆる幽霊というやつだ。
実際、幽霊を目にするのはこれが初めてである。
俺は金縛りにでもあったようにその場から動けずにいる。


やばい。マヂ怖ぇー。なんで睨んでんだよ。てか、誰だよ⁉︎

女はニヤリと笑った。

え?なんで今笑ったの?さっきまで睨んでたよね?なんで笑ったの?なんで?

分からないことだらけだ。俺は意を決して女に声をかけてみた。

「ど…どちら様でしょうか?」

女は再びこちらを睨みつけ、恨めしい声で


「お前のせいだ…」

と、呟いた。


声…ちっさー…。何?俺のせい?何が?死んだのが?絶対、人違い!絶対人違い!!


俺は初めて見る幽霊にだんだんと興味が湧いてきた。

「あの…こっちで喋りませんか?たぶん色々勘違いしてるっぽいんで…」

女はスッと俺の前に座った。


あれ…?なんか…ちょっと…可愛い…?

これはラッキーだ。幽霊といえど美女は大歓迎である。なにやら恨みを持っているようだが、俺は疑問に思っていることをぶつけてみた。

「あの…なんで、俺ん家にいるんですか?」

「…」

「なんで隙間から覗くんすか?あれ、めっちゃ怖かったんですけど。」

「…」

「幽霊ってマヂで瞬間移動とかできちゃうんすか?」

「…」

女は沈黙していた。
だが、こうして見ると普通の人間である。
不気味な雰囲気をまとってはいるものの、それすら演出のように思えるほど女は俺にとってもはや幽霊ではなかった。


「あぁーなんかもう怖くない感じっすか?」

「え…?」

口を開いたかと思えば、けっこうチャラいぞこの女!

「いや、私この家の前で事故で死んで、なんか彷徨ってる系なんですけど。けっこうみんな怖がって逃げるんで、ちょっと調子のりました。すんませーん。」

「あ…そうなんだ…。成仏しないの?」

「それどうやったらできるんすか?」

「え…。家の人が供養してると思うけど…」

「えー!!マヂでぇ?私、ぶっちゃけ家出中に事故ったんで、その辺よくわかんないんすよね。」

「じゃあ、帰った方がいいんじゃない?」

「えー。だりぃ…」

「いやいや。こんなところで人脅かしてる暇あったら、さっさと生まれ変わった方がいいと思うけど」

「え?マヂすか?私生まれ変われちゃったりするんすか?」

「いや。知らないけど…」

「えぇー!超怖ぇー!!出来なかったらヤバくないすか?怖ぇー!ギャハハ!」


もう…本当。帰ってほしい。

それから女は一週間ほど俺の部屋に滞在してから家に戻った。
朝起きると妙な違和感を感じた。
「おはよう」

いつも通りの母親。
いつも通りの朝。

だけど、どこか違う。


「おはよう!一限目から数学とか最悪ー!」

いつも通りの友達。
いつも通りの通学路。

だけど、どこか違う。


なんだ?なんだ?何が違うのだろうか?
目に映るものはすべていつも通りだ。
家族も友達も、景色もすべて。


言いようのない違和感を感じながら
僕はいつも通りの日常を過ごす。

でも何かが違うのだ。
ここは僕が昨日までいた世界ではないのだ。

見知った顔さえもどこか違う気がする。

なんだ?何が違う?


ふと、気がついた。
足元に目をやればふわりとスカートが揺れる。
昨日より伸びた髪。
高い声。

なぜ気づかなかったのだ。
違和感は僕そのものだ。


よく漫画で見る、体が突然女になった!だとかそういうものではない。
すべてが僕を女として受け入れ、流れている。

僕自身もだ。
朝起きて、自ら履いたスカートに今まで気づきもしないなんて…

一体どうなっている?元の世界にはどうやったら戻れる?




同じ時刻。戸惑う女が異世界でもう一人。
「結局さぁ、モテる女ってぶりっ子だよねー」
ならば問いたい。
猫なで声で男に話しかけるお前はなんなのだ?

「結局さぁ、男って頼られたいんだよねー」

ならば問いたい。
上目遣いで缶ジュースを「開けてぇー」とねだったお前はなぜ男に引かれる?


「結局さぁ、男ってボディタッチしとけば落ちるっしょ!」

ならば問いたい。
お前のボディタッチから男達がなぜ逃げる?


「結局さぁ、私みたいなのはモテないんだよなぁー…」

はい。正解。それ、正解。大正解!!


「結局さぁ、可愛い女がモテる仕組みになってんだよねぇー。」

「まぁ、そうだね。」

「はぁぁぁー。もっと中身も見ろよなぁー。」

「いや。でも男も結局、顔が良けりゃモテるだろ。」

「…まぁ…そうだね…」

「お前みたいな女には、俺ぐらいの男がちょうどいいんだよ。」


春、到来。