昔、僕が物心つかないで彷徨っていた頃。
「夢と現実の境界は…」と曰った人生の師がいた。
彼?は、因果律量子論という学説を作中で登場させたのだが、あのときの僕には理解できなかった。
ある意味、いや、まったくの厨二病だと今になって思うわけだが、無性にかっこよいとかんじた僕も
同類なのだろう・・・。
量子論に因果を導入することは、あまりの矛盾だと思う。
波動関数の重ね合わせに原因を求めることが叶うというのは、言い換えれば、係数の過多のみであろう。その係数に波動関数が盛り込まれるというのは、今の僕には理解できない。
だから、考えるのは、あと三年後の課題ということにして保留したいと願う。
それはおいといて、約20時間前に観測した別世界(夢)があまりにもリアルで、この25年間の歴史の中でも群を抜くほどの定着を大脳新皮質にもたらしたのだ。それを書き留めるための備忘録である。
まあ、わりと長編になるだろうが、まったく盛ることがなく、つらつらと時系列を追ってみようと思う。
「脱出(仮)」~プロローグ~
僕たちは、ただひたすら走った。
恐怖に戦きながら走った。
僕たちというのは、おそらくは、ただ同様な恐怖を植えつけられて集まった同族である。
そのなかには親しい人もいる。
荒れ果てた河川敷の歩行者道を駆け抜け、橋の下にある防空壕に逃げ込んだ。
防空壕というのは名ばかりで、子供達が普段遊び場にしている河原に隣接したビル跡地の土台である。川の関所に近い部分で、仮初めの基地としても見えなくはないが。
そんな張りぼての真下の空間に集ったに過ぎない衆に追っ手が迫る。
そんななか、関所を超えて地上に出るための通路は崩落しており、僕たちは崖を超えねば生き延びられない状況に至ったのだ。
先に体力のある男たちが絶壁を登り、道をつくった。
その後に女子供が続く。
僕は、母と姉を見送り、最後尾で見張りについた。
頼りない僕に付き添う格好で、空手の黒帯をもつ近所の従姉妹が残ってくれた。
そのとき、用水路が合流する側溝から敵が迫った。
見た目はどう猛なワニをイメージさせたが、恐怖と焦りにとらわれた僕が見た幻想だったのかもしれない・・・。
これ以上進ませるわけにはいかない。なぜなら、体力に著しく自信がない家族が登っているからである。
生まれてこの方、ヒトを殴ったことがない僕は、どう抵抗したらよいのかわからない。だけど、歯を食いしばって右拳を振るった。
作用反作用の法則に従うとすれば、僕の拳は全くダメージを与えていないのだろう。というか、全く返ってくる感覚が感じられなかった。
想像通り、敵は何食わぬ顔で迫ってきた。
刹那、僕の右脇に疾風が吹いた。
従姉妹の姉の回し蹴りが炸裂したのである。敵は5メートルほど吹き飛んだ。
彼女を見上げて驚嘆した。
僕は尻もちをついていたのである。
こんな頼もしい相方がいて良かったと息をついて見上げた崖の上に、絶望が満ちていることを、その瞬間では理解できなかった…。
