†漆黒の腐敗臭~ブラックアロマブラック~in the dark† -6ページ目

†漆黒の腐敗臭~ブラックアロマブラック~in the dark†

神様って思わず僕は、叫んでいた・・・

昔、僕が物心つかないで彷徨っていた頃。

「夢と現実の境界は…」と曰った人生の師がいた。

彼?は、因果律量子論という学説を作中で登場させたのだが、あのときの僕には理解できなかった。

ある意味、いや、まったくの厨二病だと今になって思うわけだが、無性にかっこよいとかんじた僕も

同類なのだろう・・・。

量子論に因果を導入することは、あまりの矛盾だと思う。

波動関数の重ね合わせに原因を求めることが叶うというのは、言い換えれば、係数の過多のみであろう。その係数に波動関数が盛り込まれるというのは、今の僕には理解できない。

だから、考えるのは、あと三年後の課題ということにして保留したいと願う。



それはおいといて、約20時間前に観測した別世界(夢)があまりにもリアルで、この25年間の歴史の中でも群を抜くほどの定着を大脳新皮質にもたらしたのだ。それを書き留めるための備忘録である。

まあ、わりと長編になるだろうが、まったく盛ることがなく、つらつらと時系列を追ってみようと思う。



「脱出(仮)」~プロローグ~


僕たちは、ただひたすら走った。

恐怖に戦きながら走った。

僕たちというのは、おそらくは、ただ同様な恐怖を植えつけられて集まった同族である。

そのなかには親しい人もいる。

 

荒れ果てた河川敷の歩行者道を駆け抜け、橋の下にある防空壕に逃げ込んだ。

防空壕というのは名ばかりで、子供達が普段遊び場にしている河原に隣接したビル跡地の土台である。川の関所に近い部分で、仮初めの基地としても見えなくはないが。

そんな張りぼての真下の空間に集ったに過ぎない衆に追っ手が迫る。

 

そんななか、関所を超えて地上に出るための通路は崩落しており、僕たちは崖を超えねば生き延びられない状況に至ったのだ。

先に体力のある男たちが絶壁を登り、道をつくった。

その後に女子供が続く。

僕は、母と姉を見送り、最後尾で見張りについた。

頼りない僕に付き添う格好で、空手の黒帯をもつ近所の従姉妹が残ってくれた。

 

そのとき、用水路が合流する側溝から敵が迫った。

見た目はどう猛なワニをイメージさせたが、恐怖と焦りにとらわれた僕が見た幻想だったのかもしれない・・・。

これ以上進ませるわけにはいかない。なぜなら、体力に著しく自信がない家族が登っているからである。

生まれてこの方、ヒトを殴ったことがない僕は、どう抵抗したらよいのかわからない。だけど、歯を食いしばって右拳を振るった。

作用反作用の法則に従うとすれば、僕の拳は全くダメージを与えていないのだろう。というか、全く返ってくる感覚が感じられなかった。

想像通り、敵は何食わぬ顔で迫ってきた。

刹那、僕の右脇に疾風が吹いた。

従姉妹の姉の回し蹴りが炸裂したのである。敵は5メートルほど吹き飛んだ。

 

彼女を見上げて驚嘆した。

僕は尻もちをついていたのである。

こんな頼もしい相方がいて良かったと息をついて見上げた崖の上に、絶望が満ちていることを、その瞬間では理解できなかった…。

[無題」 その8


嗚咽を漏らしながら俯いている私の肩をそっと抱きしめて兄さんは優しく語りかけた。

「医学部で暮らすようになる少し前から自分の体の異変ついてはなんとなく感じていたよ。日に日に曖昧になっていく記憶。香澄や周囲の人間が僕に向ける視線に込められた違和感。
そして・・ 頭ではなく体が覚えているんだ。彼女の存在を。

その彼女が僕にとっても香澄にとっても大切な人であるということは漠然と感じていた。
だから僕は彼女とこの身を共有することに決めていたんだ。それ以外の選択肢を僕は選ぶことなんかできない ・・・。
何だろう、今日はやけに記憶が整っている気がするよ。
でもいずれ今日話したこともきっと僕は忘れてしまうだろう。
そしてそうすることで彼女は生き続けることができるし僕はそれを望んでいる。
幸か不幸か今のところ小名教授は僕に対して治療を施す気はないようだしね。」

「……っ、兄さんは……兄さんはそれでもいいの……?自分の輪郭がそんな曖昧のままで……」
私は、まるで他人のことのように話す兄さんに対しそう問わずに はいられなかった。
答えはなんとなく分かっていた。だって兄さんは誰よりも優しいから。兄さんは私を抱きしめたまま微笑んだ。



「僕は、誰かがいなくなるってゆうのは――他のどんなことよりも――悲しいことだと思うんだ。」

続く・・・
煙立ちこめる空中庭園に偶然立ち寄ったときに、堕天死が蒼空という名の無限遠を投射することで体現する球状のカンバスに貼り付けられた奇跡を目の当たりにした。
そのとき感じたのは、混じれもなく”止まったままの時計”であった。
共感してもらえるのか、それが問題ではない。
だが、そのとき感じた想いを下界の民へと伝えるのが、私の義務なのだ。
月と金星と・・・

「月が固定化する時間帯(仮)」     なめこ?

いつもこの時間になると、僕は足早に中庭を通り抜け、工学部棟一階にある自動販売機のもとへ行く。
大寒もとうに過ぎ、春分を迎えたはずなのに、今日は頬をなでる風が冷たく感じられた。
だから僕は、今日だけは約束の10分前には着こうと思い、地面を蹴った。
案の定、あの娘は来ていなかったが、
色んな想像をしながら吸うキャスターのバニラフレーバーは、僕の全身を優しく包み込む。
吹き出した煙で散乱される街灯の光は、まるで雨上がりの雲間から架かる”天使の梯子”を想起させた。

だけど、僕の思いとは裏腹にあの娘は来ない…。
主観時間ではとうに30分は過ぎている。そんな時、僕は腕に巻き付けられた時計を見ることはないのだ。
結局僕は太陽の沈みゆく様を、ただ、眺めていた。地平線に吸い込まれる太陽の動きは速い。半分も隠れれば、ほら、"一瞬"なんだ。

目指す場所を見つけてからの時間経過は早いのだ。
太陽が半分も隠れた頃に、同じく西の空に浮かぶ光の陰がある。
まるで亡霊のように浮上するあの姿を見て、僕は戦慄した。
進むべき道を失ったあの頃の僕と、ひたすら前だけを見て歩み続けるあの娘の関係にそっくりだったからだ。

こんな劣等感に満ちた考えを振り払うように、一番星を探す。
すると、あの月よりも激しく輝く星をさらに上の方向に見つけた。
宵の明星かなぁ。
期間限定でしか、僕たちに姿を見せることが出来ないあの星は、いつもカタチを変えるから尊く思える。

さらに夜の帳が下りると、月の下の方角に、すこし控えめな黄色い星が輝きだす。
木星である。
内惑星、衛星、外惑星、そして地球が奏でるワルツは、神秘的だけど踊り出すことはない。
一定のリズムを刻むこともなければ、静止したままである。     だから、僕は一時たりとも待っていないのだ。
3つの相対位置は変わらない。その関係のまま、西の空に存在感を増して輝きだすだけだ。

僕はふと後ろ振り向く。すると月明かりが僕を土台にして投影する影に隠れるようにして、あの娘は座ってた。
月、僕、あの娘が並んで作る位置関係は、まるで皆既日食なんだ。
それでは存在に気づけない。だけど、なんで今、解ったんだろう。

ふと、西の空を見上げる。 すると月はずいぶん地平線に近づいていて、木星は完全に見えなくなっていた。
 そういうことだったのか。 僕はなぜだか腑に落ちた気分になって、あの娘と手を繋いでいつもの並木道を歩きだす。 とまってた時計の針がまた、動き出す。