トランプは権威主義者なのかヒトラーのような独裁者なのかという議論をよく見かけます。いずれにしてもトランプのような政治指導者に対してどのような対抗策を講じて自国の利益を守るかということは、最近ますます重要になってきています。関税をめぐって、EUとメキシコには30%かけるらしいし、日本も交渉中ではあるけれど25%などと言われています。経済でも安全保障でも、一方的な要求を突きつけて脅しをかけるトランプをどう扱ったら良いのか。
雑誌New YorkerのJoshua Yaffaは、私が最も関心を持って記事を読んでいるライターの一人です。ロシア、ウクライナについて良い記事を数多く発表しています。6月30日号のNew YorkerにはCollective Punishment: Why is Donald Trump upending America's commitment to NATOという記事を投稿していて、大変面白く読みました。
NATOといえば、冷戦期の対ソ同盟として重要な機能を果たしてきたわけですが、最近トランプはアメリカはNATOから脱退するとか、ヨーロッパに駐留している米軍を引き上げるとか、国防費をもっと増やせとか圧力をかけまくっています。それに対するヨーロッパ諸国の対応を追っているのですが、これが抜群に面白いのです。
冷戦期はアメリカの軍事力がソ連の脅威からヨーロッパを守ることは自明でしたが、実はアメリカはアイゼンハワーの頃から決して好んでヨーロッパ防衛に携わっていたわけではないというのです。そのような負担を負いたくないし、核の時代にヨーロッパ防衛のためにロシアの核攻撃をアメリカが受けるリスクを負うことなど絶対に嫌だというのは有名な話です。それでもアメリカのNATOへのコミットメントは変わることがありませんでした。ソ連に対抗するための軍事力はなんといってもアメリカが担うしかなかったからです。
冷戦終結とともにNATOはなくなるとリアリストの国際政治学者たちが考えたことは記憶に新しいのですが、でも、NATOはなくなるどころかチェコ、ポーランド、ハンガリーなど新たに加盟したい国が出てきてそれを受け入れ拡大していきました。ロシアの脅威を一番受けるバルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)も加盟を承認され、ジョージアとウクライナはペンディングとなりました。あまりにもロシアを刺激しすぎるという理由です。
冷戦終結後もロシアの脅威は残り、大きくなっていくことすら考えられたのですが、ヨーロッパ諸国のNATOの捉え方は冷戦期と全く変わらず、圧倒的なアメリカの軍事力を前提として自国の安全保障を考えるというものでした。
アメリカはオバマ政権やバイデン政権でさえ、はっきり口に出さずとも国防費増大などヨーロッパにさらなる努力を求めたかったそうです。ブッシュ、オバマ政権で国防長官を勤めたRobert Gatesは、NATOはソーシャルクラブではなく、厳しい現実世界における義務の世界なのだということ、そして、将来の大統領はアメリカがNATOに投資する価値はないと考えるかもしれないという警告を発していたそうです。
ところがロシアがウクライナに侵攻すると、今までのようなアメリカ依存型のNATOではやっていけないということをヨーロッパ諸国も意識するようになりました。特にトランプが2期目の当選を果たすと、バイデン大統領と違って明確なプレッシャーをNATOにかけるようになりました。国防費の増大要求やアメリカのNATOからの脱退の可能性や兵力引き上げなどはその現れです。
こうした露骨なプレッシャーに対して、NATO諸国の中にも国防費を増大させる国が出てきました。ドイツの首相Friedrich Merzは、できる限り速やかにヨーロッパを強化してアメリカからの自立性を確保しなくてはいけないと発言しています。何よりも、ロシアのウクライナ侵攻以後、NATOのこれまでの軍事的活動(ロジスティックや情報収集をアメリカに依存しつつ少数の軍を派遣して地域の安定を確保する)が一変し、集団的自衛のための活動に迫られたことがNATO自身の考え方の変化につながったとYaffaは分析しています。
アメリカの軍事力は依然として突出したものであり、strategic enabler(戦略的実現要因とでも訳すのでしょうか)である情報収集能力や警戒監視体制、長距離の打撃力、輸送能力特に空輸、空中給油能力などはアメリカなしには手に入りません。ヨーロッパ防衛にはアメリカが絶対に必要なのです。この現実を踏まえ、冷戦期からの惰性(安価なロシアの資源、安価な中国製品、安価なアメリカの軍事力)から脱却しない限り自分たちの防衛はあり得ないことをはっきりと自覚したのがヨーロッパなのです。
結局はトランプの突き付けた要求に応じたことになるわけですね。
では、このように同盟の根本的な仕組みを捉え直したヨーロッパに対して、日本はどうなのか?その点を次のPart 2で考えてみたいと思います。Yaffaの記事はいつもの通り、読み応えのあるものでした。