ジョン・ウェットンのボックス・セット『AN EXTRAORDINARY LIFE』に収録されている未発表音源集「レアリティーズ」2CDを昨日聴きました。


監修したリック・ネルソン(1950年代以降活躍したカントリー・ミュージシャンとはもちろん別人です)のライナー・ノーツによると、コロナ検査なしで米国に渡航できるようになった2022年から制作が始まったそうです。

最初のアナウンスからリリースが大幅に遅れたのは、やはりコロナの影響だったようですね。


これらの元音源はすべてカセット・テープに保存されていたものだそうで、テープの修復作業からリスニング、メモ、デジタル化、音質やピッチの補正まで膨大なエネルギーが費やされたことを語っています。


リック・ネルソンとウェットン


またこのライナー・ノーツでネルソンはあまり知られていなかったウェットンの興味深い活動歴についても明らかにしています。

キース・エマーソンの『3(スリー)』とウェットンとの繋がりも初耳でした。


すべて初めて聴く音源でした。

ちょっと聴いただけですし、ウェットンを語るほどの知識もないので、特に興味深く印象に残った2、3曲についてお気楽に書きます。


「Boys Of The Diamond City」

まずは80年代後半(元のベーストラックは87年のレインセッション)に録音されたと思われるジェフ・ダウンズの手による曲(クレジットはGeoff Downes / Johnny Warman)の「Boys Of The Diamond City」(アドヴィジョン・スタジオ収録)です。

以前ブログにGTR2関連でごちゃごちゃ書きましたが、GTR繋がりのマックス・ベーコンのヴォーカルバージョンが『From The Banks Of River Irwell』(2002年)に、ジョン・ペインのヴォーカルバージョンが、エイジアの『Archiva 1』(1996年)に収録されています。



今回ジョン・ウェットンのヴォーカルバージョンが初めて公開されました。

ジョン・ペインによると、彼が歌った「Tears In My Eyes」(『Archiva 2』収録)にもウェットンのヴォーカルバージョンが存在したそうです。


この3バージョンの尺はいずれも大して変わりませんし、演奏やアレンジもほぼ同じです。

ちなみにマックス・ベーコン版(アドヴィジョン収録)は、ドラムスがマイケル・スタージス、ベースがフィル・スポルディング、ギターがスコット・ゴーハムで、ジョン・ペイン版では、ドラムスとギターは同じでヴォーカルとベース(ペイン)のみが差し替えられていました。

したがって、この3バージョンは再録ではなくて、全てアドヴィジョン録音のベーストラックを使った差し替えリミックスではないでしょうか。ギターもドラムスもそっくりです。

制作順は、ベーコン→ウェットン→ペイン(最後のペインは1988年)だと思われます。



「K2 プロジェクト」

1995年のウェットンとパーマーによる「K2 プロジェクト」については全く知りませんでした。

ユーゴスラビアのギタリスト、ミシャ・カルヴィン(Misha Calvin)と共演したプロジェクトのことのようです。(カルヴァンかも)

「Fresh And Blood」と「Burn Your Name in My Heart」の2曲が収録されています。

カルヴィンのギターはどちらかと言うとハードなメタル系のサウンドを聞かせています。(ロンドンのガレージ・スタジオ録音)


調べてみたら、このカルヴィンとのプロジェクトはカール・パーマーが持ちかけた話だったようです。1995年7月24日のインタビューが残っていました。

「カール・パーマーとの新しいプロジェクト、K2というのを最近聞きました。どうやらもう一人ギタリストが参加しているようですね?」


「ミシャ・カルヴィンだ。数ヶ月前にカールから電話があったんだ。僕はすでにUKのプロジェクトに参加していた。

カールによると、ある男からイケてるギタリストがいるって電話があったそうだ。 『何かすることに興味はある?』と聞かれた。

僕には2枚のアルバム、UK、ツアーの可能性などいろいろあったんだけど、好奇心の方が勝ってしまったんだ」



面白いと思ったのはアルバム『アーク・エンジェル』(1997年)収録のウェットン作の静かな曲「Emma」がこのK2プロジェクトの産物だと知ったからです。クレジットには「Produced by John Wetton and Misha Calvin」としか書かれていなかったので、てっきりウェットンのアコギだと思っていましたが、ネルソンによるとミシャがギターを弾いているのだそうです。

『アーク・エンジェル』の録音スタジオには確かにサセックスのガレージ・スタジオも記載がありました。



「Sex Power And Money」

ウェットンは1991年頃までにアメリカに渡りました。

この曲は『Icon 3』(2009年)収録曲のダウンズが関わる前のアメリカで録音したバージョンのようです。「権力や世界情勢」を歌っていますね。

サビのメロは変わらない(録音メンバーは違う)のですが、導入部の哀メロ・ヴォーカル・パートがあるアイコン・バージョンの方が好みです。



この曲のタイトルを見て、キング・クリムゾンの「Sex Sleep Eat Drink Dream」(『Thrak』1995年)を思い出しました。こちらは「人生に必要なルーティーン」の歌でしょうか。

このあとアメリカで制作した楽曲が並んでいますが、今回はこのくらいで。