■予想以上でも以下でもない「トレヴァー・サウンド」
トレヴァー・ラビンの新作『リオ』が届きました。2012年の『ジャカランダ』以来のソロアルバムです。
誰もがトレヴァーらしいと思うだろうギターとヴォーカルの曲「Big Mistakes」でアルバムは幕を開けます。
公開されたアドバンス・シングルを3曲聴いてみた段階で、既に予想の範疇のサウンドでした。どことなく懐かしいような、トレヴァーのヴォーカルとギターが詰まったアルバムです。トレヴァー期のイエスが好きな方なら、きっと気に入るでしょう。
もちろん所謂プログレではありません。と言うか、イエスに在籍していたこの人は元々プログレの人ではありません。(「エンドレス・ドリーム」はプログレの名曲ですが)
実は個人的に一番の興味とお目当てはボーナス・トラックに収録されている「Fragile」でした。
ARW(アンダーソン・ラビン・ウェイクマン)で録音した曲が正規盤で聴けるのか?と楽しみにしていましたが、収録されているのはARW以前のデモ・バージョンであることが、リリース前にインタビューでわかってしまいました。う〜ん、ちょっと残念。
またインタビューではこのアルバムの歌詞のテーマが、それぞれとてもポリティカルであることが語られています。
正直少し単純かつ表面的で、すべてには同意できないので、やや冷ややかな思いを持ってしまいました。まあ歌詞を考えずにサウンドを主体に楽しめばいいのでしょう。
世界を非常に鋭く、かつ賢く観察しているロック・ミュージシャンは、不可解に殺されたジョン・レノン亡き今、口が災いをもたらしているロジャー・ウォーターズぐらいかもしれません。
本作は、『Can’t Look Away』以来のヴォーカル・アルバムという触れ込みですが、「ヴォーカル・アルバム」というより、出来の良いハーモニーやコーラスが丁寧にプロダクションされたアルバムだと感じました。
曲は実に多彩です。
ロック、AOR、ジャズ、C&W、ブルース。
でもそれがとても「トレヴァーらしい」と思います。トレヴァーが得意なアコギやエレキの速弾きソロも披露しています。
Okalahoma
最後にドラマティックに盛り上がる構成は、映画音楽で培われたのでしょうか。
彼は最近のハリウッドの変節を強烈に批判し、一部のカタログを売却したことも明らかにしています。
まだ映画やTVの仕事から完全に足を洗ったわけではなさそうですが、古株のイエスファンに散々若造扱いされていた彼も既に老年の領域に入りました。(69歳)
今やもうトレヴァー・ラビンのファンはそう居ないかもしれませんが、優秀なミュージシャンで、かつ優秀なプロデューサーでもある彼には、残された時間でこれからもっとロック作品を残して欲しいと思います。
リック・ウェイクマンとクラシックのコラボ作品を作りたい、とも語っているので期待しています。
バイオリンを弾いているのは、ジョン・アンダーソンとコラボしたことがあるCharlie Bisharatでした。
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