世田谷パブリックシアターで「メディア/イアソン」を観てきました。
この作品は、アポロニオスの「アルゴナウティカ アルゴ船物語」、エウリピデス「メディア」というふたつのギリシャ悲劇を再構築したものらしい。
2月に観た「エウリディケ」に引き続き、再び世田谷パブリックシアターでギリシャ悲劇を原作とする作品になります。
演出が森新太郎さんであることも観に行こうと思った動機でした。
厳しい父親から逃れるように金の羊毛を求めて旅に出たイアソン(井上芳雄)。
たどり着いた国の王に手に入れるためのいくつもの試練を告げられますが、メディア(南沢奈央)の力を借りてそれを手に入れます。
王女である彼女にとって彼を助けることは父親や国を裏切ることを意味し、ふたりは船でその国を旅立ちます。
迫って来る追手に対しては、乗り合わせていた彼女の弟さえも殺害し愛を貫こうとするメディア。
困難を乗り越えながら愛を全うするふたりですが、さすがギリシャ悲劇だけに血生臭いです。
後半では一転、心変わりしたイアソンに対するメディアの復讐劇が描かれます。
ふたりは3人の子供を授かりますが、領主に見初められたイアソンはその娘との結婚を了承し、メディアは領主にその国からの追放を言い渡されます。
イアソンは「家族の生活の安定を考えて・・・」と身勝手な言い訳をしますが、裏切られたメディアの怒りは凄まじく、子供たちを使って王冠とドレスを結婚相手に送ることで彼女と王を毒殺してしまいます。
そして、さらに彼を苦しめるためにふたりの子供たちの命までも奪います。
この壮大な物語を演じるのは5人の役者で、メディア役の南沢さん、イアソン役の井上さん以外の役は三浦宏規さん、水野貴以さん、加茂智里さんが演じわけています。
前半でイアソンの行く手を阻む龍や大蛇など躍動感ある演出もこの3人が担っています。
龍が吐く炎を旗を持った舞によって表現している三浦さんがしなやかな動きでとても素晴らしかった。
そして、女性の可愛らしい声から瞬時に威圧的な王の声に変わる(加茂さん?)のも凄い!
多分、個人的には初見だと思うのですが、3人の力量によって成り立っている作品だと言っても過言ではないと思います。
そして、主演のおふたりもこれまで観た作品とはひと味違う役柄でした。
正統的な好青年のイメージの井上さんは自分の出世のために恋人を裏切る悪役、ピュアでおしとやかな印象が強かった南沢さんは、子供を手にかけることを躊躇しながらも復讐を果たす女性。
終盤の南沢さんの鬼気迫る演技には圧倒されました。
最後はメディアからひとり逃れた長女の語りで終わりました。
開演と同時に3人の子供が登場し、長男と次女が母の思い出を語るようなシーンから始まるのですが、長女だけは少し離れた場所に座っていてふたりの会話に参加することはありません。
その理由が観客に示され、冒頭部分とラストが繋がる形で完結していました。
舞台装置は比較的シンプルでしたが、影絵のような見せ方もあり、観客は想像力をかき立てられ、壮観な世界が目の前に広がっていきます。
全体的に照明が暗めであることあって、物語への没入感が凄かったです。