東京芸術劇場シアターイーストで「欲望という名の電車」を観てきました。

この作品には個人的な思い入れがあります。

初めて観に行った本格的な舞台がこの作品でした。

その時は「誘われて何となく」だったので、ひとりで観に行くほど舞台好きになるとは考えてもいませんでした・・・。

 

まだブログを始めていなかったので記録は残っていないのですが、テネシー・ウィリアムズの代表作であり上演機会も多いので、その後も何度か観に行っていると思います。

そして、久しぶりの今回。

主役のブランチを演じるのは篠井英介さんです。

篠井さんのライフワークとも呼べる作品ということで、今回が19年ぶり4度目の出演になるそうです。

最近、篠井さんの出演作を観る機会が多いこともあり-個人的な思い入れも含めて-とても楽しみにしていた舞台です。

 

 

シアターイーストでは珍しいと思うのですが、コの字型の観客席になっていて、舞台が通常の観客席の方までせり出ていました。

私はL側席だったのですが、観客席左右の出入り口や通路、舞台周りのスペースを使用した演出は目の前で演じられている印象があり、作品世界への没入感がありました。

 

第二次世界大戦後のアメリカ南部の都市ニューオリンズ。

ブランチ(篠井英介)が一通の手紙(メモ?)を片手に妹のステラ(松岡依都美)を訪ねて来るとこから物語は始まります。

ブランチは名家の出身ですが、親の借金で土地や家屋を手放すことになり、夫の死後は行くあてもなくステラを頼って訪ねてきたのです。

しかし、それまでに身についた上流階級の生活を手放すことが出来ない彼女は妹の暮らしぶりに驚きを隠せません。

 

ステラは労働者階級の夫スタンリー(田中哲司)と暮らしていますが、彼は粗野な男でブランチの上品ぶった態度が気に入らず、事あるごとに二人はぶつかり合います。

田中哲司さんは過去にはブランチが想いを寄せるミッチ役を演じていたそうですが、今回は憎まれ役側のスタンリーを演じています。

温厚なミッチ役とは正反対の高圧的な男で、ブランチを追い詰めていきます。

田中さんはコミカルな役も演じることが出来る演技幅の広い役者さんですが、私が観てきた舞台では今回のような役柄が多いような気がします。

 

そんな暮らしが続く中で、ブランチはスタンリーの仲間のひとりであるミッチ(坂本慶介)に心惹かれていきます。

彼は親の面倒を見ていることもあり独身で、他の仲間たちとは異なる優しく控えめな人物です。彼も彼女との暮らしを夢見て、ふたりは幸せになれるのではないかと思われるのですが、ブランチの過去を知ったスタンリーがそのことをミッチに伝えてしまったことで破局することになります。

 

ブランチは夫の死後、男性に依存するような暮らしぶりで、教師として働いていた学校で生徒と関係を持ってしまったことで教職も失っています。

彼女がステラの家を訪ねて来た時の浮世離れした感じからはすでに心の不安定さを窺い知ることが出来ますが、ステラが妊娠して病院に運ばれたことで二人きりになったスタンリーに襲われたことで完全に精神的に破綻してしまいます。

 

ライフワークと位置付けて何度も演じ続けているだけに語り口や表情の変化で魅せる篠井さんが凄くて、ステラに真実を告白するシーンはゾクッとするような怖さも感じましたし、ラストの「見知らぬ人に頼って生きてきました」と医者(吉田能)の腕を取り部屋を出て行くシーンはあまりに悲しいのですが、美しさも感じました。

他の出演作でも思うことなのですが、どうして篠井さんが語ると囁くようなセリフでも心に届いてくるのでしょうか。

今回のように小劇場では尚更かもしれません。

 

共演者のみなさんも素晴らしかったです。

ブランチに想いを寄せるミッチは真実を知って彼女との別れを選んでしまうのですが、徹底的に冷徹なスタンリーの対極の人物像を坂本さんがとても上手く演じていたと思います。

そして、ステラ役の松岡依都美の姉に対する想いや、彼女に寄り添う大家の宍戸美和公さんの気持ちが伝わって来てラストシーンは涙なくして観ることが出来ません。