東京芸術劇場プレイハウスで上演中の「リア王」を観てきました。
シェークスピア劇は散々観てきたのでチケットを取るのを見送っていましたが、「セールスマンの死」と同じショーン・ホームズさんの演出と知って俄然興味が湧きました!
先月観た「マクベス」で、演出によって引き出される新たな魅力を体感したばかりですし、観に行ってみようかと調べてみたところ、出演者も豪華なメンバが揃っています。
幸運にも、端の方ながら比較的前の方の席がひとつ残っていて、とても良く観えました。
最初に書いてしまうと「21世紀の『リア王』」という謳い文句どおりの素晴らしい作品!
「リア王」はシェークスピア四大悲劇のひとつですが、個人的にはあまり観ていない作品です。
シェークスピアらしいと言えば「らしい作品」で欲望と裏切りが渦巻く物語ですが、幕が上がるとそこにはコピー機、ウォーターサーバ、OHPなどが並んでおり、背後には白い壁が設置されています。
登場人物もスーツや現代風のドレスを纏い、これからシェークスピア劇が始まるという雰囲気ではありません。
リア王(段田安則)は3人の娘に3分割した国を譲り引退しようと考えており、3人に自分に対する思いを言葉にするように促します。
言葉巧みに語る長女ゴネリル(江口のりこ)、次女リーガン(田畑智子)に満悦顔のリア王は彼女たちに国の3分の1を与え、三女コーディリア(上白石萌歌)にも言葉を求めます。
しかし、彼女は親を思う心は当然の事であると考え、それを言葉にすることは出来ません。
そのことに激怒した彼は、それを取りなそうとした忠臣のケント伯爵(高橋克実)と共にコーディリアを追放してしまいます。
一方、リア王の重臣であるグロスター伯爵(浅野和之)には2人の息子がいますが、愛人の子である次男エドマンド(玉置玲央)の策略に嵌った長男エドガー(小池徹平)は逃亡を余儀なくされます。
グロスター伯爵も彼の告げ口によってひどい拷問を受けることになってしまいます。
このあたりが、主な登場人物。
リア王は引退後はふたりの娘の城を行き来して過ごそうと考えていましたが、彼女たちに疎まれ思っていたようにはいきません。
そして野心家のエドマンドがふたりに近づいたことによって彼を奪い合い、ゴネリルがリーガンを毒殺し、自らも命を絶つことに・・・。
エドマンドは兄エドガーとの決闘に敗れて命を落とし、父を助けるために捕虜となってしまったコーディリアは処刑され、彼女の死を嘆くリア王も悲しみの中で息を引き取ります。
主な登場人物がほとんど亡くなってしまう。
それも身内同士の諍いによって・・・。
あらためて観てみると本当に救いようのない物語で、書き上げた時のシェイクスピアの精神状態を疑いたくもなりますが、年老いていく人の悲哀や、色恋沙汰の縺れによる事件は現在に通じるものもありますし、俯瞰した物言いばかりはしていられないのかもしれません。
舞台に置かれた白い壁にはOHPで手紙が映し出されたり、文字を書くことでその場所を観客に明示したりと、色々な使われ方をします。
途中でそれが引き上がると、木が1本あるだけの装飾性のない広い舞台が現れ-このシンプルさは「セールスマンの死」の時の演出も思い出されましたが-リア王の荒涼とした精神状態を表現しているようにも思えます。
そしてラストで、亡くなった人々と生き残った者を分断するように再び白い壁が降りてくる演出も印象的でした。