「サラリーマンの死」がPARCO劇場で開幕しました。

アーサー・ミラーの代表作と言われる作品であり、これまでも繰り返し上演されてきたと思うのですが観たことがなく、一度観てみたいと思っていた作品です。

 

今回は満を持して段田安則さんが主人公のウィリー・ローマンに挑み、脇を固める俳優陣も魅力的な方が揃いました。

25年ぶり2度目の舞台となる鈴木保奈美さんの出演という話題性もあり、これは絶対に観にいかなければと、早々にチケットを確保しました。

 

 

上演時間2時間40分(1幕:65分、休憩:20分、2幕:75分)の2幕構成。

最初に書いてしまうと、これは素晴らしかった。

 

幕が開くと中央に冷蔵庫が置かれ、天井から電柱が吊るされたがらんとした舞台に主人公ウィリー(段田安則)が佇んでいます。

その静寂を破るように(そして、彼をあざ笑うかのように)多くの人々が行きかい、再び静寂が訪れるとウィリー家のキッチンのセットが現れるのです。

キッチン、子供部屋、庭などのセットは稼働式になっており、場面に応じて登場します。

 

ウィリーは地方を担当するセールスマンで、かつては優秀な成績を上げていましたが、歳を重ねた今の売り上げは芳しくありません。

それだけではなく、運転中の記憶を失くして事故を起こしたり、大きな声で独り言を話し始めたりします。

妻のリンダ(鈴木保奈美)はそんな彼を心配しながらも、家のローンなどの支払いに頭を悩ませている。

家に戻ってきている息子のビフ(福士誠治)とハッピー(林遣都)は自立できず、事あるごとにウィリーと口論を始めてしまう。

 

物語は現在と過去を行き来しながら進んでいきます。

最初は、ウィリーの兄ベン(高橋克実)の存在がよくわからなかったのですが、終盤の会話を聞いていると、過去の一場面というよりはウィリーの幻想のような印象が強いです。

そう考えると、現実と幻想のスイッチもあって、時空間的な複雑さはあるのですが、そのことによって難易度が高まることはなかったと思います。

 

ビフはウィリーの自慢の息子で、現実(30歳を過ぎても職が長続きせず、成功を手にしていない)を理解しながらも、彼の成功を信じて疑いません。

ビフにとってはそれが重荷になっているのですが、話を聞いてもらえず、口論になってしまうということの繰り返し。

 

それでも、家を出て行こうとする時に本音をぶつけるのですが、ウィリーは心ここにあらずというような表情で言葉が届いているのかどうかもわからない。

このシーンの表情を失ったような段田さんと、必死に自分の気持ちを伝えようとする福士さんの対比によって訴えかけられるもの(感じ方は観る人によって違うのではないかと思いました)があって、(私は私の受け取り方で)泣けました。

 

ウィリーは彼自身の言葉によって、「過去には優秀なセールスマンだった」ことになっていますが、二代目社長(山岸門人)との会話を聞くと、それも幻想なのではないかと思えてしまいます。

1950年代前後のアメリカを舞台とした作品ということなのですが、理想と現実のギャップに悩む姿や、成功者に対する嫉妬、親子の確執など、現在の問題に通じるテーマをたくさん含んでいます。

名作と言われる作品は、こうして時代を超えて読み解かれていくものなのだなと改めて思いました。


何はともあれ段田さんが素晴らしい!

席に恵まれたこともあり、表情の変化もよく観えましたが、立ち方や歩き方などでも、主人公のその時の心情を表現していました。

 

保奈美さんは、映像のイメージとあまり変わらず、声もきれいで聴き取りやすかったです。

これまで、あまり舞台に出演していないというのが不思議です。

これからも、舞台出演を増やしてほしいと思いました。

 

林遣都さんと福士誠治さんも、これまであまり観ていません。

林さんは自然体で上手いと思いました。

福士さんは今回一番感情移入してしまったので◎です!

高橋克実さん、鶴見辰吾さんのベテラン勢は安定感抜群。

町田マリーさんは、意外とこういう気の強そうな役柄も合うんだなと思いました。

 

演出はショーン・ホームズという海外演出家ですが、ラストシーンも印象的で、繰り返しになりますが本当に良かったです!