本多劇場で上演中のイキウメ「天の敵」を観てきました。

この作品は前回公演も観ていますが、前川さんは再演にあたって台本に手を加えることもあるし、何よりもう一度観たかった!

 

前回はシアターイーストだったので、今回は少し大きな劇場での公演になりましたが、劇場に入って舞台のセットを見た瞬間に記憶が甦りました。

 

 

料理番組の収録が終わり、人気料理家・橋本(浜田信也)に取材を申し込むジャーナリストの寺泊(安井順平)。

それは、寺泊は体の力が入らなくなる難病を抱えており、妻の優子(豊田エリー)が橋本が提唱する菜食を学んでいたことがきっかけだった。

 

寺泊は過去にも薬害や健康食品詐欺を取材した経験があり興味を持ったが、経歴が明らかにされていない橋本を調べていくうちにひとつの仮説を立てる。

容姿が似ていることから、戦後に独自の食餌療法を打ち立て多くの人を救ったとされる長谷川卯太郎(大久保祥太郎)という医師の孫ではないかと・・・。

しかし、話を聞いた橋本はそれを否定し、自分が長谷川卯太郎本人である言う。

それが本当ならば122歳になるが、そんな歳には見えない。

橋本はこれまでの人生を寺泊に語り始める。

 

最初は彼が語る物語が舞台上で展開されていくのですが、少しずつ橋本自身や寺泊までがその物語に取り込まれ、過去と現在の境目さえ曖昧になってくる。

それとともに、架空の話にも関わらず真実味を帯びてくるところが如何にもイキウメらしい。

 

今回観て、前川さんは得るものがあれば何かを失う、そして、それは決して幸せなことではないという思いがあるのではないかなと感じました。

「太陽」でも健康で高い知能を得ながら太陽の光の元では生きられない人々が描かれていたけれど、この作品でも老化しない代償として太陽の光に対する耐性は失われて「夜の住人」になってしまう。

周りの人々は年老いて去っていき、孤独感だけが残り、橋本は幸せそうには見えません(なんとなく、Mrs.fictionsの「伯爵のおるすばん」を思い出しました)。

 

語り終えた橋本に「どこまでが真実なのか」とつぶやく寺泊。

連鎖を止めるために「全てを終わらせる」と言い残して立ち去る橋本。

いつまでも若々しく元気でありたいと願うのは普通のことだと思いますが、人はそれだけでは成り立っていません。

それでも、覚悟は出来ていると語る寺泊が、血を保存している冷蔵庫を開ける気持ちもわかります。

記憶は曖昧ですが、ラストが少し変わっていたのではないかと思いました。

あと、笑いが起きる場面がこんな多かったんだなというのも記憶から抜け落ちていました。。。

 

終演後は拍手が鳴りやまず、カーテンコールで登場した浜田さんの笑顔や、手を振って観客に応える盛さんの姿が印象的でした!