これは何度も書いているのだけれど、近藤芳正が面白いと思った劇団とコラボした「御ゑん祭」で初めて観たMrs.fictions。

それ以来、気になっている劇団(ユニット?)で、名前を見つけると必ず観に行くことにしている。

今回は、「はなにら」を観に行った時にもらってきたチラシで知って、今月2度目の吉祥寺シアター。

 

本作は、2013年の初演が好評だった作品の再演で、2時間50分の長編作品!

これまで観たMrs.fictionsの作品は短編が多かったので、2時間50分にも及ぶ長編作品というのは少し意外だった。

 

物語は、チラシのイメージからは想像出来なかった不老不死の男の話。

18世紀、伯爵夫人のブルボン(木本夕貴)が買い入れたひとりの奴隷(岡野康弘)。

彼女は、無口で教養のない彼をオペラなどに連れて行き教育を施すが、夫が怪我をしてその面倒を見ることになり、奴隷や女中を解雇することになる。

そして、時代は革命期を迎え、貴族の時代は終わり告げる。

何十年もの月日が経ち、年老いたブルボンの元を訪れた彼は、以前と変わらず若々しい。

しかし、時代の変化は彼からブルボンを奪い去る。

 

それから何世紀も立ち、彼は高校の保健室の先生になっている。

生徒達からは伯爵という綽名で親しまれ、女子生徒の憧れの的。

ある日入学してきた女子学生・ひよ子(相原佳花)に好意を寄せられ、卒業と共に先生と生徒の関係が解かれた伯爵は、彼女を迎えに行くことを約束する。

しかし、3年後に彼を訪ねて来た元同僚の兄は、彼女が亡くなったことを告げる。

 

大切な人を失い自暴自棄になった伯爵は、車に飛び込んで命を断とうとするが、不老不死の彼は死ぬことが出来ない。

いつしか当たり屋として裏社会で名が売れ、ヤクザな世界に足を踏み込んでいる。

あれから、また何世紀もの年月が経ち、彼の元で働くチンピラはレーザーガンを手にしている。

伯爵は、何世紀も前にひよ子と交わした「他の女性を好きにならないで」という約束を守り男と暮らしているが、組同士の抗争に巻き込まれ、彼との別れを迎えることになる。

 

それからまた数世紀。

大災害と戦争によって、地球上の生命は息絶えている。

そんな地球を訪れた宇宙家族。

何年も眠りについていた伯爵の体は動かなくなっているが、UHA(金城茉奈)の介抱によって目を覚ます。

最早、地球は死の星となり、太陽に飲み込まれて滅亡することを待つばかりであるが、伯爵は家族として一緒に旅立とうという彼らの誘いを断ってしまう。

彼らは宇宙船で旅立っていくが、UHAは彼の元に残る。

 

伯爵とUHAはそれから何年もの歳月を共に過ごし、地球が太陽に飲み込まれる直前に、別の宇宙家族に救われて子供が出来て幸せな日々を過ごした。

しかし、彼のように長生きすることはできず、そして伯爵はひとりの女性と宇宙の最後を迎えようとしている。

何十億年も生きて、5人の男女を愛し、しかし何も成し遂げられなかったと後悔する伯爵。

何故、自分だったのか。

他の人だったら、もっと色々なことが出来たのではないか。

 

そして、宇宙が最後を迎えた時、彼と関わった人々が時代を超えて集まり、お酒を酌み交わす。

集まった人々の生き様はそれぞれで、伯爵を通じた繋がりでしかないが、彼らの表情は柔らかい。

 

ダラダラとストーリーを書いて来てしまったのだが、この終わり方は如何にもMrs.fictionsらしい。

観劇前に上演時間が2時間50分と知って、吉祥寺シアターでこの長丁場は厳しいなぁ・・・と思ったのだが、その長さを感じなかった。

大きく5つの時代設定で構成されているけれど、それぞれの時代の話が、さらに断片的なエピソードで綴られていて、冗長さを感じさせない。

そして、それぞれのエピソードは、ある意味完結しているので、その部分だけでも面白い。

 

小さな劇場で演じられる作品の割には、出演者が多い。

アガリスクエンターテイメント、ポップンマッシュルームチキン野郎、クロムモリブデンなど、馴染みがある劇団からの客演もあり、貴族夫人なのにくだけた感じのブルボンを演じる木本夕貴や、キャラクタが可愛らしいUHA役の金城茉奈など、各時代のヒロイン役も魅力的だ。

 

何世紀にも及ぶ壮大なドラマだが、描かれているテーマは人に対する想い。

伝えたかったこと、そして伝えられなかったこと。

もう一度会いたいけれど、会うことが出来ないはずの人との再会。

そんなラストシーンにホロリとさせられる。

 

次作は、昨年上演延期になった「月がとっても睨むから」。

こちらも長編作品で、すみだパークスタジオ倉で上演されるらしい。

Mrs.fictionsの作品は見逃してはいけない。

絶対に観に行こうと思う。