時々あとを付けたくなる。
毎朝、同じ特急に乗っている。もう十年以上、同じ車輛の同じ乗降口。
終点に近づくと、改札口に近い先頭車輛の前方の乗降口に向かって通路に列ができる。そばに立たれると鬱陶しいので、二輌目に移ったり、一輌目の後ろに席を取るようにしたり、たまに車輛を変える。しかし、一輌目の後ろがほぼ定位置。
一輌目の前方に乗る親子がいる。七十がらみの母と、四十代後半といった感じの娘。昔は、娘の夫らしき男と小学生ぐらいの男の子が一緒のことがあったが、このところ母娘しか見ない。なかなか二人並んで座れる席がなくて、後ろの乗降口から乗ったこちらと車輛の真ん中あたりで鉢合わせすることもある。娘は知らん顔して私の目の前の席に座る。
娘が窓側、母親が通路側、特急券は母親が出して渡す。娘は、見るからに化粧や身なりに気を使っている感じがある。人によってはきれいだというかもしれない。
二人は上野で銀座線に乗り換え、日本橋あたりで降りる。動き出した電車の窓からホームを歩く二人を見かけたことがあるのでそう察するので、日本橋だったか、三越前だったか、定かではない。
家から駅に向かう時、この頃はある駐車場を通り抜ける。それまで通っていた小道がある日突然ふさがれて駐車場になってしまったからだ。人ひとりがやっと通れるくらいの小道だから、所有者にしてみればご近所のために所有地の端を提供していたということなのだろうが、何せこどもの頃から通っていた道だから、そこが私有地だとは思ってもみなかった。
仕方がないので、十メートルばかり離れたところの小道と並行した駐車場を通り抜けることにした。ちゃんとした公道を通っても距離は変わらないのだが、なんだか気に食わないので駐車場を通り抜ける。
この駐車場を時々車が通り抜ける。同じように通り抜ける私を、二台の軽自動車が追い越して行ったことがある。例の母娘が一台ずつ運転していた。それまで、駅の反対方向からくると思っていたので、驚いた。とすると、駅の反対方向の駐車場を借りていて、そこにおいて駅に来るのか。その後も、この駐車場で追い抜かれたことがある。してみると、以前からこの駐車場を通り抜けていたのだが、私が塞がれた小道を通っていたので気付かなかったのか。
それにしても不思議なのは、二人が別々の車を運転していることだ。住まいは別々でどこかで合流してくるのか。一緒に住んではいるが、帰りが別々なのか。というより、そもそも二人は母娘なのか。二人はおそらく仕事場に向かって毎朝特急に乗るのだろうが、どんな仕事なのか、店でもやっているのか。そもそも、仕事なのか、ほかの何かということはないのか。
どうしても一度、二人の後を付けてみたい。
ところが最近、娘の姿が消えた。毎朝、母親(?)だけが変わらず特急に乗る。娘(?)はどうしたのか。これはどうしてもあとを付けざるを得なくなってきた。
(今年も咲いたサボテンの花。話とは関係ない。)
