第42話 冒認丈夫(担当いしはら) | 野記読書会のブログ

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清朝末期に官僚を務めた人物が民国期になって、清朝時代に見聞した事を書いた『清代野記』の現代語訳。
毎週日曜日に4話づつ更新予定。
底本は張祖翼(坐観老人)撰『清代野記』(北京:中華書局,近代史料筆記叢刊,2007年)を使用。中華書局本の底本は1914年野乗捜輯社鉛印本。

冒認丈夫

(夫をうっかり間違えたこと)

 光緒の初年、吏部に二人の雷という姓の司員がいた。一人は浙江人で、一人は陝西人であり、一人は進士で、一人は抜貢[1] であった。同姓で、同じ役所で、同じ官職であった。浙江の雷は南横街に住んでおり、陝西の雷は魏染胡同に住んでいて、妾が一人いた。門の横にはどちらも「吏部雷寓(吏部の雷の家)」と書かれていた。

ある日、浙江の雷の下男が同僚とおしゃべりをして「うちのご主人が妾を一人かこったようだぞ、魏染胡同に住んでいる。」と言った。妻がこれを聞きつけて下男を問い詰めると、下男は「魏染胡同に吏部の雷の家があるのを見ました。訪れてみると妾が一人いるだけでした。ご主人の別宅であるかどうかはまだ良くわからないので、断定は出来ません。」と言った。妻はこれを聞くと大いに怒って、すぐに車を出すよう命じて、そこに行った。

到着するとすぐに下女に命じて、大声で「奥様がいらっしゃいました。」と言わせた。陝西の雷の妾は誰か女性の客が来たものと思い出て迎えた。妻は彼女を一目見ると「恥知らずの卑しい淫婦め!きさま、こそこそと外に家をかまえやがって、私には挨拶も無しか!」と大いに罵った。陝西の妾は始め茫然としていたが、すぐにこれは夫の正妻に違いないと思った。

妾が言い訳をしているその時に陝西の雷が帰宅した。妾は泣きながら「あなた、都に奥さんが居るなんて一言も言わなかったじゃないですか。」と訴えた。陝西の雷はびっくりしてこれを見て「私の妻では無い。」と言った。そこで、妾は「この馬鹿女!何しにきたのさ、私のだんなを取り違えやがって!」と大いに罵った。陝西の雷はふと気がついて「ご夫人は、浙江の雷さんの奥さんではありませんか。」と訊ねた。妻は頷いて、大変にはずかしがり、意気消沈していた。陝西の雷は「これは単なる誤解ですので、このままお帰りになってください、あまりお気になさらずに。」と言ったが、妾は許さなかった。「おまえ、自分の夫だって言うのだったら、今夜夫と一緒に寝てみろ。それで許してやるよ。」と言った。妻は大変困ってしまった。陝西の雷が再三妾を宥めて、やっと帰ることが出来た。帰るとすぐに例の下男を首にした。

この事は私が都で直接聞いた話で、一時は大いに噂になっていた。あまりいい話ではないので、その名は伏せておいた。



[1]  地方の府学や県学から人員を選抜し、試験を経て京官や知県などに任命する制度。