第43話 要钱弗要命(金を要して命を要せず)
北方の気風は剛毅で、勇ましいことを善しとして、負けず嫌いのケンカ好き、ついには身体に障害を残すような事をしてでも金銭を得ようとするものまでいるという有様である。光緒帝の初年、私は都で二つの出来事を目撃したが、それを記録することによってその気風の証拠としようと思う。
ある年の端午[i]
の数日前、私は琉璃広[ii]
に行って、はじめて広西門の中に入った。とある餅[iii]
店の前に人垣ができていたので、何事かと近くによってみると、上半身裸の少年が地面に横たわっており、また一人の少年が餅のこね棒を振り上げて力まかせに横たわった少年の両足に打ちおろしていた。横たわった少年は声を上げずに打たれること五六十回、突然起き上がると、餅店の店員に向かって「これで食べる分の約束を果たした」と言うと、店員も「良くやった、食べな」と答えた。私には何が何だかわからなかったので、人に尋ねたところ、横になっていた少年は、餅店に大変な額のツケがあり、払えないからといって、店主に小麦をこねる大棒で殴られて、痛みに耐えて声を上げなかったら、今までのツケだけでなく、今ここで食べる餅の代金も請求しないように強いていたことを始めて知った。それで横たわっていた少年は凄まじい打撃に身をさらしていたのに、声を上げることがなかったのだ。
またある年の秋、足の向くままたどりついた五道廟[iv]
の三差路で、黒いシルクのあわせの着物に快靴[v]
といういでたちの北方から来た人達が群れているのに遭遇した。中の一人は内服を脱いでいて、上掛けも胸元をはだけていたが、顔面から大出血していて、その血は服を脱いでいたので直接足まで流れ、歩むと同時に滴り落ちていたので、近くによってそれを見たところ、片目をえぐり去っていたので、大変驚いた。私はすぐに羊肉店の店先で、このことを訪ねると、店員はあれは賭博で世渡りしている連中だと答えた。賭場を開いて客を集めるのはもとより法を犯すことであり、地元のヤクザやゴロツキが面倒を見るといっては日々みかじめ料を取ってゆくものだが、相当に腕っぷしが強くなければみかじめ料を取ることが出来ない。ただ体に障害が残るような事もやってのける者だけは上客の扱いをうけて、毎日みかじめ料を取ることが出来た。体に残す障害にも上中下の三等に分かれていて、それみかじめ料にも差があった。あの目をえぐった者は、すなわち最高額のみかじめ料を受け取ることができるということだ。ああ、奇怪なことだ。