その子と話をするまで、ムッときてたんです。
ハワイやイリノイなど遠くの州から来てて、感謝祭にうちに帰れない大学院のクラスメートを招待していいと、
長男に言ったはずなのですが、FACEBOOKででも情報が回ったのか、
どんどん車が到着し、うちのデッキは三十人近くの大学院生でいっぱいになったんです。
感謝祭、11月の第四木曜日、は日本のお正月のように帰省して、家族と食事をする行事です。
わが家の感謝祭の食事は、都合で翌日の金曜日となりました。
仲良しの友達家族が、カリブの島から街に遊びに来てるので、二家族、プラス長男のクラスメート数人で、
デッキの焚き木を囲んで、沸き合いあいで過ごすつもりだったんです。
なのに、あまりの人数にいくつかのグループに分裂したので、一緒に座るなんて不可能だし、
ホステス役の私は駆け回るはめとなり、たまにしか会えない友達家族と話もゆっくりできない状態で、
おまけに、長男のクラスメート達、盛り上がって、舞い上がって、お皿やコップをそこら中に置きっ放し、
私が片付けてても、手伝おうだなんて気が回る状態の子は、息子のガールフレンドくらい。
彼女も、「こんなにたくさん押しかけてきて... 失礼だわ。」 と文句言ってほどでした。
友達家族、奥さんの両親同行だったので、早めに切り上げ帰ってしまい、
焚き木の周りで大騒ぎしてる連中を横目に片付けをし、
“せっかくの感謝祭なのに...” とぶつぶつ思いながら、一日中料理したキッチンを掃除してたんです。
すると、息子のクラスメートの子がひとりがやってきて、
何も言わずにお茶目に微笑み、キッチンのカウンターの反対側のスツールに座りました。
前回、初対面なのにとても嬉しそうな顔してぎゅーっとハグをしてくれた子です。
黒人特有のちりちりの髪の毛を爆発したかのように伸ばし、個性的な服装で、センスのいい四角いメガネをし、
大きな目を私の目からそらすことなく、ゆっくりとした口調で話をする彼のこと、私はすぐに好きになりました。
私はカウンターを拭きながら、なんの気なしに、「おうちには帰らなかったの?」 と訊きました。
彼の実家は、車で二時間くらいのところです。
いや、なんの気なしではなかったのかも知れません。
明るく、人懐っこい彼の目に、私は昔の自分と同じような寂しさを、感じ取っていたのかも知れません。
彼は、「うん... うちに帰りたくなかったんだ。」 と、作り笑顔の口元をして答えました。
私は、質問はしない主義なので、“どうして?” などとは訊かず、
「そうなんだ。 それでもいいのよ。」 と流すように答えると、
「僕、家族といい関係じゃないから...」
“やっぱり。”
「そうなんだ。 私もそうなのよ。 いろいろあるものよね。」
「でも、僕、今年の感謝祭の週末は、ここで楽しんでるんです。 僕、ここに来るの大好きなんです。」
彼の心から嬉しそうな笑顔に、はっとしました。
外で大騒ぎしているあの子もこの子も、実家が一、二時間のところにあるにも関わらず、
感謝祭の翌日にうちに来ているということは、
うちに帰らなかったか、食事だけしてすぐに自分の寮やアパートに戻ってきたということ。
そう言えば、ゲイっぽい子達、宗教熱心で保守的な考えの両親とあわないとか、
何人かは、両親が離婚し、再婚して新しい家族と暮らしてるとか、いろいろ事情を聞いています。
うちに帰りたくなかった子達、うちに長く居たくなかった子達もいるのだろうな、
ここで楽しく過ごしてるのならよかったな、まあいいか... と思い、
結局、今年も、わが家の感謝祭はとってもいい感謝祭となったのでした。