回顧録: 息子への手紙 16 | グローバルに波乱万丈
Dear MY SON、

どう日本への帰る決心を義理の家族に伝えたのか、義父母がどんな反応をしたのか、全く覚えていません。 記憶にあるのは、義父と会うことがあっても距離を置き、目が合わないようにしていたこと。 最後まで、二度と二人だけになったことも、二人で話をしたこともありませんでした。 義妹弟は私と貴方がいなくなってしまうことを悲しんでいたようだけど、どう私に接したらいいのかわからない様子でした。 それがとても辛かったわ。 あんなに仲良しだったのに。
 
思い出のある家具や日本へ持って帰れない持ち物を、ため息をつきながら一つずつ処分し、アパートを引き払い、数少ない知人、友人にお別れを言い、そして、最後のお墓参りをしました。


あれから18年経ちました。 怖くて一度も戻っていないあの街。 戻って行く勇気がいつか湧くのかしらね。 湖を見渡すあの墓地に行き、お墓参りができる日が来るのかしら? でも、あそこには前夫の抜け殻があるだけ。 きっと彼はそばで私達を見守ってくれているんだから、もう少し時間がかかってもいいわよね。 


空港には義理の家族皆、見送りに来てくれました。 あの頃はまだ空港のゲートまで見送りに行けた時代で、ゲートの近くの待合場で最後まで皆、貴方を代わり代わり抱っこしていたわ。 貴方は唯一の孫、甥っ子だったし、とても可愛がられていましたからね。 義母はさぞかし複雑な心境だったことでしょう。 今思うと、可哀相だったわ。

時間が来て、私は皆とぎくしゃくしたお別れをし、事情がわからない貴方はニッコリ笑って皆に、「SEE YOU. (またね。)」と手を振りました。 “また”はないかもしれないことを知っていた義理の家族は、涙をこらえて貴方に手を振り返していたのでしょう。 私は貴方がまだ幼く、何が起こっているのか理解できないことに感謝したわ。 

ゲートに進もうとすると、突然、義父が私の手荷物を取り上げ、一緒に歩き始めました。 さすがにあの時代でも乗客以外は機内に入ってはいけなかったけど、有名人の義父を誰にも止めなかったわ。 機内で荷物を棚に入れてくれ、私をハグしました。 私は義父の目を一瞬見たけれど、他の乗客に注目され始めた義父は、「TAKE CARE OF YOURSELF.(気をつけて。)」と囁き、貴方にキスをしてゲートに戻っていきました。 あの目... 義父は何を言うとしていたのかしら?


時々、義父のことを思うことがあります。 他の家族は白ける義父の冗談に、二人でけたけた笑っていた頃が懐かしいの。 とても気が合ったし、楽しい、優しい人でした。 ネットで検索して、義父の最近のビデオや写真を観てみることがあります。 随分年を取ってしまっているわ。 悲しそうに見えるのは気のせいかしら。 会いたいけれど... きっと、義父とは二度と会うことはないでしょう。

義妹弟、皆すっかり大人になってしまっていることでしょう。 義妹弟とは、いつか会える日が来るかも知れない。 でも、それは、義父母がいなくなってからのことでしょう。


$グローバルに波乱万丈、グローバルに幸せ



貴方の隣で飛行機の窓から街を眺めながら、走馬灯のように過去数年のいろんな場面が浮かんできました。 “幸せになるために一人アメリカにやってきて... 幼い子供を抱え、日本へ帰っていく... これって本当に自分の人生なの?” そんなことを考えていました。

$モロッコ人、そしていろんな国の人のお話


日本は血を言う国です。 再婚はできるとは思えなかったし、する気も全くありませんでした。 貴方を受け入れてくれる義理となる家族。 日本にそんな人達なんているとは思えなかった。 貴方が可哀そうな立場になるのは絶対に嫌でした。 だから、貴方と親子二人で過ごす覚悟だったの。  

その後の生活を憂鬱に思いながら、乗り換えたロサンジェルスからの飛行機の中で、ラルフローレンのボタンダウンのシャツを着たハンサムな白人の人が隣に座ってきました。 ハーバード大学院卒業寸前のノルウェイ人で、日本でインターンをしているクラスメイトに会いに行くところらしかったわ。 何気なく始めた世間話の中で、彼の言ったことに私の心は揺さぶってしまったの。

「僕の兄は養子なんだけど、両親は兄がとても可愛いみたいで、僕よりも大事に思っているんじゃないかってくらいなんだよ。 兄は幸せ者だよね。」 

ノルウェイでは血の繋がりにこだわらないのかしら? 彼の両親みたいな人達なら、私の息子を本当の孫として受けて入れてくれるのかしら? などと考えてしまったの。 彼も私のことが気に入った様子で、成田空港でハグをし、お互いの連絡先を交換して別れたわ。 

夫を亡くして、そんなに経たない時期に...と、人は軽蔑するかも知れないわよね。 でも、あの時の私は、ぼろぼろになってしまった自分の人生を修正したくて、必死だったんだと思います。 幸せになることを諦め切れずにいたんだと思うわ。 アジア人で、子持ちの自分なのに、興味を持ってくれる人がいる... 我を忘れてしまったのかも知れません。 

続きは次の手紙で...


Love、MOM


追伸

血より大切なものがあるということ、貴方はよくわかっているわよね。 貴方のことを心から愛するお父さんのこと、大切にしてあげてください。 I love you with all my heart, and I will always love you no matter what. You are my son forever and ever.