回顧録: 息子への手紙 15 | グローバルに波乱万丈

Dear MY SON、

義理の家族の近くで暮らすことが貴方にとって一番いいことと信じ、宗教深いそのアメリカの街で残りの人生を過ごす覚悟を決めて日本から戻りました。 耐えて、貴方のためにきちんした環境を作るつもりだったの。

アメリカに帰って数ヶ月たったある日、義母が子守りしてくれていた貴方を迎えに義理の家に行きました。 家には義母一人でした。 家に入ると、奥にある大きなリビングルームから、彼女が私を呼ぶ声が聞こえてきたわ。 義母はリビングルームの湖を見渡せる大きな窓のそばで、足を組んで陽の光の中に座っていたわ。 今まで見たことのないような冷たい表情でした。 普段なら、彼女は立ち上がり挨拶のハグをするのだけど、座ったままだった。 私は近づくのが怖く、彼女から一番遠いソファーに座ったの。

義父が話したのか、彼女は義父と私のことを知っていました。 

「寂しいのかどうか知らないけど、人の旦那に手を出すのは辞めて。」

「どこの馬の骨かわからない貴女を、私は受け入れてあげたのに。」

彼女は取り乱すことなく、足を組んだまま、淡々とした口調で私を罵りました。

「貴女があの子と結婚なんかしなかったら、私達はあの子の最後の数年を一緒にうちで過ごせたのに。」

義母は義妹弟達にも話したと言いました。 それは、義妹弟と仲良かった私への腹いせだったのでしょう。 

私はあまりのショックで、彼女の姿は眩しい陽の中で真っ白になって見えなくなり、彼女の声は遠ざかっていきました。 口の中がカラカラに乾き言葉が一言も出ず、私は何も言わずに立ち上がり、眠っていた貴方を抱いてよろけながら車まで歩いたのを覚えています。 

帰り道、運転をしながらどっと涙が溢れてきたわ。 それまでの私の一生のうち、あれほど良き人間であろうと努力をしたことはありませんでした。 自分中心だった私が、自分のことよりも周りの人達のことを思いやってきた数年でした。 なのに、あんな濡れ衣を着せられるなんて... 悲しいというよりはショックだった。 でも、心のどこかで、義父がちゃんと説明をしてくれ、誤解は解消されると信じていたの。 なんてナイーブだったんでしょうね。

4、5日して、義母が義父とアパートにやってきました。 私は二人で謝りに来たのかと思ったの。 馬鹿よね。 義母は、あの日の冷たさ、淡々さが嘘のように弱々しく、未亡人になった私への同情、思いやりさえ示し、そして、義父はそんな彼女の肩を抱きながら、「僕達は、優しい、理解のある彼女をこんなにも傷つけてしまって...」 

“僕達”!? 義父が勝手に私のことを想っていただけ! 私は一切悪いことはしてない! 

義父の頭の中では、私も義父に対して感情を抱いていたことになっていたようでした。 私は共犯者。 義父は本当にそう信じていたのでしょうか、それとも自分を思い込ませたのでしょうか。 

でも、私は一言も何にも言わなかった。 言えなかったの。 年上で、それも義理の親。 義父が私にどんなことを言ってきたか、義母が私をどんなに罵ったか、暴露して反論すればよかったのかも知れない。 でも、私にはできなかった。 ただ黙ってうつむき、二人が私のことを責め続けるを聞いていたわ。 そこまで目上に敬意を払うように育てられたことを恨んだわ。 そんな日本の文化を恨んだわ。 

その時、私はうつむきながら、貴方を連れて日本に帰る決心をしたの。 

アメリカを発つ最後の日まで、誰にも本当のことを言わなかったのは、義理の家族がどれだけ前夫のことで苦しんできたか、苦しんでいるか嫌ほどわかっていたからなの。 それ以上苦しめたくなかった。 子供を失った義父母、兄を失った義妹弟が哀れだった。 自分が悪者になって、家族がそれで丸く納まるのならそれでいいって思ったの。 あんな仕打ちをされてでも、私はそれほどあの人達のことが好きでした。

でも、やっぱり悔しかった。 あれだけ義父母に尽くしたのに、あれだけ義妹弟を大切にしたのに、結局、私は日本へ逃げ帰る“悪い女”。 お人よしの自分に、目上を敬う日本人の自分に腹が立ちました。 それから一年以上、毎晩、欠かさず毎晩、夢にうなされたわ。 皆に真実を知ってほしい... 汚名を晴らしたい... でも、叫ぼうとしても声が出ない... 長い間、苦しみました。 夢を見なくなってからも何年もの間、ふと気がつくと、「あの時、ああ言えばよかった。 こう言えばよかった。」などと、考えている自分がいたわ。  


でもね、今ではね。 あれでよかったんだって思うの。 人の心を傷つけて、悔やみながら一生過ごすのは嫌だわ。 言葉は一度口から出すと、戻すことはできませんからね。 言ってしまったことを後悔するより、言わなかったことを後悔するほうがいい。 あの時、何も言わなくてよかったんだと、やっと心から思えるようになりました。 それに今、お父さんは本当のことを知っててくれ、私のことを信じてくれているんだから、もう、それでいいの。 

続きは次の手紙で...


Love、MOM


追伸

世の中が貴方のことをどう思おうと、どう疑おうと、私は貴方を信じます。 お母さんはいつだって、貴方の味方です。 I love you with all my heart, and I will always love you no matter what. You are my son forever and ever.