アイデアと表現と著作権 | 牧村しのぶのブログ

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「星から来たあなた」 2013年 男性が宇宙人

「W-君と僕の世界」 2016年 男性が漫画の主人公

「トッケビ」 2016年 男性がトッケビ(鬼)

「ひと夏の奇跡」2017年 男性が蘇った幽霊

「アビス」 2019年 男性が転生(次に女性も転生させる)

「九尾狐伝」 2020年 男性が狐

「九尾の狐とキケンな同居」 2021年 男性が狐

「マイデーモン」 2023年 男性がデーモン

 

全て最近完走した韓ドラですが、共通点があります。

人間と異類が恋をする異類婚姻譚です。世界中に古くからあり、日本では鶴女房がよく知られています。女性が異類、男性が異類と両方あり、様々な物語があります。その現代ドラマ版です。

韓ドラには多いような気がします。

 

上げたドラマは男性が異類です。

恋をして一度消えて別れます。

そして時を経て姿を現します。

 

異類婚のアイデアを生かした現代的なファンタジーです。

 

アイデアには著作権はありません。神話は世界中に広がり共通点があります。それを現代のドラマも受け継いでいます。独占的に権利を主張などできるものではありません。似ている点、違う点を楽しみながら見るのが良いと思います。

 

しかし表現には著作権があります。

男性が消える場面の表現は、見たら消えている、漫画の世界で銃撃される、火の粉を散らして消える、珠の光と共に消える、三途の川に落ちる、煙のように消えるなど様々です。男性が消滅するというアイデアは同じでも、表現が異なれば著作権侵害にはなりません。

 

しかし、「トッケビ」と「マイデーモン」は男性の消滅の表現も同じです。霧の中の登場シーンも映像がそっくりです。無断なら著作権侵害といわれるでしょうが、撮影監督が同一人物ですから了解済みで狙ってやっています。「マイデーモン」の見せ場は「トッケビ」へのオマージュになっています。

 

アイデアと表現は異なるものです。

 

アイデアが同じというだけで裁かれては物語が成立しません。

表現の類似もファンサービスとして見せる場合はオマージュで、パクリとは違います。韓ドラにはよく見られます。見ながらそれに気づけるようになるのも楽しみです。

 

いずれもお薦めのドラマです。

個人的な評価ですが、ファンタジーなりに説明がきちんとできていて納得がいくのは「星から来たあなた」です。男性の戻り方も工夫を凝らしていて面白いと思います。

漫画家として面白いと思うのは「W-君と僕の世界」です。漫画の主人公が現実世界に来る理由が、酷い目に遭わせた漫画家への復讐という点が刺さります。架空の人物も道具でなく人間として描けという台詞に反省させられました。

一番別れが切ないのは「ひと夏の奇跡」です。男性が完全に戻るわけではなく、会いたい時は見える、というにとどめています。本当は戻らない物語で、最後に見えたのはサービスでしょう。

「異人たちとの夏」を思い出す死者との再会ですが、残した家族と友人を救うためであり、人間の生気を奪うのではなく、生きる力を与えて去っていきます。地味ですが佳品です。

総合的には「トッケビ」の出来が良く、以後の作品の多くに影響を与えています。ぜひご覧ください。