人間の学習、二次創作とAI生成は同じではない | 牧村しのぶのブログ

牧村しのぶのブログ

漫画家牧村しのぶのブログです。
新刊、配信情報、創作関連の記事を投稿しています。
Xもご覧ください。https://twitter.com/buncho108

イラストレーターに対して、人間も学習して描いているから生成AIも学習して生成して良いという人がいます。まともに反論すると術中に嵌まります。確かに絵を描く人は過去の多くの絵を見ています。しかし写真は違います。

 

私はLAION-5Bを何度も様々な単語で検索して、出てくる画像のほとんどが写真でイラストは一部であることを確認しています。漫画、イラスト、と指定しなければ写真で撮影できるものは写真が出てきます。撮影できない幽霊や妖怪ならイラストや合成写真が出てきますが、基本的には画像生成は写真に依存しています。

問題になるディープフェイクも写真から作られています。

 

写真はカメラで撮影するものです。カメラには脳はありません。

過去の写真を学習して新たな写真を作ることはありません。またその写真の二次創作もしません。出来上がった写真を後から人間が加工した作品はありますが、イラストとして評価されます。

フォトコンテストではトリミングや色調・コントラストの調整等の加工にも制限があり、RAW(原版)の提出を求められることもあります。

 

写真は被写体を写すもので、過去のデータから生成するものではありません。写真に似た画像を生成AIで出力することは可能でも生成された画像は事実の記録という写真固有の価値を失います。それはディープフェイクです。

生成AIは写真に寄与せず、写真が一方的に搾取されます。

時間と費用をかけて撮影したオーロラの写真と、生成AIで作ったオーロラの画像がストックサイトで競合するのは不当です。

AI使用を隠す僭称もあります。

日本写真家協会が声明を出し権利の保護を求めています。

 

 
また人間の二次創作も生成AIによる無断利用とは異なります。
アレクサンドラ・リプリーの「スカーレット」は許可を得て書かれた「風と共に去りぬ」の続編です。無断利用と同一視できないことはいうまでもなく、また続篇はオリジナルに書かれていないストーリーを独自に構築しています。「オペラ座の怪人」の翻案「ファントム」や夏目漱石の未完の小説「明暗」を完結させた「続明暗」もオリジナルの読者が評価する独立した作品になっています。著作権保護期間を過ぎていますから翻案は自由ですし、人格権に抵触する改変にも当たりません。
ルールを守って製作されています。
 
コミケ等で販売されている漫画やイラストの二次創作は、厳密にいえば著作権保護期間中ですから合法ではありませんが、公式の絵を流用せず独自の絵とストーリーで描かれており、オリジナルと混同されることはなく、販売の場が異なるため競合せず、宣伝になり、著作者に実害がないため多くは黙認されています。
とはいえ保護された著作物の二次創作は合法ではありません。
親告罪です。実害がない限り黙認されているというだけです。
公式に訴えられて逮捕され有罪判決を受けた人もいます。
訴える以前に権利者が嫌といえばただちに削除、撤去しなければなりません。最近ではKADOKAWAが「文豪ストレイドッグス」の二次創作グッズ販売を規制しています。公式のガイドラインを確認する必要があります。
 
生成AI(LoRA)を使った二次創作は、公式を流用した絵が多く公式と混同される恐れがあります。
商品を作って販売すれば著作権侵害になる可能性があります。

 

ルールを守って製作されている二次創作(二次的著作物)を生成AIによるコンテンツの無断利用と同一視しないでください。

まして嫌がらせは絶対に許されることではありません。

 

追記

人間の脳の学習とAIの学習の違いについてはメルボルン大学の研究者の論文をご参照ください。