表現の自由と脱法AI利用は別 | 牧村しのぶのブログ

牧村しのぶのブログ

漫画家牧村しのぶのブログです。
新刊、配信情報、創作関連の記事を投稿しています。
Xもご覧ください。https://twitter.com/buncho108

私は合法的な成人向けさえ描いたことがありませんが、担当編集者の紹介で一般向けと成人向けと両方描いていた先生のお手伝いをしたことはあります。成人向けのコミックスにお手伝いした絵が入っています。ダメだと怒られリテイクを食らいながら描いていました。スクリーントーンの削り方も厳しく指定され苦労しました。仕事としては難しく、楽しくも何ともありませんでした

描く先生もデッサンに苦労していました。

 

ストーリーも良く考えて作られていました。

描きたいことを描く、という信念がはっきりしていました。

女性読者は恋愛で傷ついている人が多いので、傷ついた女性が幸せになれるように描く「女の子中心主義」を貫いていました。

DV、暴力が大嫌いで、そういう男性に騙された女性が目を覚ますような台詞を入れて共感を得ていました。

 

性表現のない少女漫画ではできないことです。

必要とする読者がいて成り立っています。

お手伝いして初めてそれが理解できました。ですから性表現が悪いとは思いません。成人向け漫画をなくすべきだとは考えませんし、規制で縛って描きにくくすることにも反対しています。

こういうことは嫌、こういうことがしたい、というリアルな表現ができなくなるのは困ります。表現しなければ問題がなくなるということはありません。

 

描く先生はストーリーにも作画にも全力投球で苦労しているのがわかりました。エロなら楽に稼げるというのは誤解です。

実際成人向けだけの雑誌で読者アンケートを取るのは大変です。

本当に読者の心を温めて動かすことがいかに難しいかは、やってみないとわからないと思います。

 

絵を描いて評価される、報酬を得られる仕事にするまでには時間がかかります。何年もかかります。精神も肉体も酷使します。

続けるのは並大抵ではありません。人気がなくなれば切られます。そこまでして表現したいことがなければ続きません。

生活のためならもっと確実に稼げる仕事があります。

家庭の事情や病気などの不運で描けなくなることもあります。

耐えられる人は限られます。

 

さて最近はAIで生成できるようになったため、何の信念も苦労もなく、読者への愛情もなく利益目的で他人の作品を素材にポルノを量産する人が現れました。苦労せずに人気と利益を得たい人は良心など持ち合わせません。誰でも手軽にできるようになれば、悪質な利用者が増えるのは目に見えています。

 

その生成物は私が守りたいと思う表現とは違います。

 

AIを利用して新たな表現を作り出すクリエイターを否定するわけではありませんが、他人の作品を踏みにじった二次創作に等しい生成物が法的にきちんと規制されない現状は肯定できません。

 

著作権問題で言えば、著作者人格権のうちの同一性保持権(勝手に改変させない権利)、名誉声望保持権(名誉声望を害する利用を禁じる権利)を侵害するAI利用に反対します。

財産権の問題も当然ありますが、魂を踏みにじる行為であり、金のため、だけでは足りません。

 

私の作品を学習した、とはっきり言えるケースは多くないかもしれませんが、だから構わないということにはなりません。

 

法整備が技術に追いついていない現状では、AI生成物の投稿は何らかの条件を付けて制限し、販売は禁止してほしいと思います。

 

クリエイター向けプラットフォームXfolio(クロスフォリオ)はクリエイターの利益を不当に害する可能性のあるAI生成コンテンツの掲載を全面禁止とし、スクレイピングにも対応すると発表しました。

クリエイターを尊重した決断を支持し、感謝します。