さあ、今回は完結編。命にかかわる体験談の第3弾「病院編」です。すべて事実、ノンフィクションの体験談をどうぞ。 ※「血」に弱い方は、読むのをご遠慮ください。
19:30 病院のICUで意識を取り戻した。上半身は全く動かない。先ほどは、極度の緊張で痛みを感じていなかったが、今は麻酔が効いているのかな。なんか、自分の身に起きたことに現実味がわかなくて、
「これで入院となったら、目の前にある教務の仕事をしなくてすむなあ。ラッキー?」
とか不謹慎なことを考えていたら治療が始まった。
目を開けると、右には二人の医者。左には奥さんの心配そうな泣き顔。大丈夫だと伝えた後、話すのも疲れるのでまた目をつぶった。
医者の会話が聞こえてきた。
「傷は縫わなきゃいかんのが7カ所。頭も左胸も刺されてますね。特に右手の傷が一番ひどいです。あれ、肘の裏にも傷が。・・・もしかして、これ貫通してるかも?」
「本当か? ・・・〇〇さん聞こえます? 右手の指を動かしてみて。一本ずつ。・・・ああ、動くね。じゃあ、貫通はないかな。一応、これを差し込んでみて。」
もう一人に棒状のものを渡したらしいが、見るのもだるいので目をつぶっていた。
「ああ、これやっぱり貫通してますよ。よく神経を切られずにすんだなあ。」
刃渡り何センチかはわからないが、おぼろげな記憶では30センチほどの“棒”だった。こづかれてたと思ったのは、何度も何度も刺されていたらしい。
それを気づかない人間もいるんだなあ、と我ながら妙な感心をしていたら、警察が来た。
まずケガを写真で撮りたいという。了承しつつ、奥さんに耳打ち。
「ねえ、その写真、後でもらえないか聞いてみて。」
もちろん、「馬鹿!」って言われた。
その日、ICUではいろいろな患者が運び込まれてきた。
7カ所、いや“裏”も含めれば8カ所を縫われている間、衝立で仕切られてる1m横では、様々な患者がかわるがわる運び込まれ、治療を受けていた。
旦那さんの心臓が止まり、何度もAEDを使用した後、
「奥さん、○時○分ご臨終です」
ってのも聞いた。自分も下手したら同様のことになってたかもしれないのに、病院は大変だなあって、まだ人ごとみたいに考えてる自分にまた感心した。
02:30 休み休みだが7時間かかって、やっと治療が終わった。
医者や看護師さんが何やら相談している。どうも空きのベッドがないらしい。
「〇〇さん、下半身は刺されてないから歩けますよね。家もすぐ近くだそうだから、今日は家に帰って、明日午前中にまた来てください。」
って信じられない言葉をかけられ、病院を後にした。
翌日、警察の現場検証やなにやらいろいろあった。現場には、まだ大量の血のしみが残っていたし、家でも警察署でも、さらに詳しくいろいろ聞かれた。
おかしいのが、刺した相手の人相が、僕は坊主、奥さんは帽子をかぶってたと食い違ってるくらいあやふやなこと。だから、この犯人はけっきょく捕まらなかった。
警察が言うには、市内では、僕らの常識では考えられないほどの覚醒剤が蔓延しているらしい。この犯人も十中八九シャブ中だろうとのことだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
後日、警察が証拠品として持っていった僕のGジャンが返ってきた。血でところどころ固くなっている。今考えると、このGジャンが裏地にボアがついているかなり厚めの服だったのが幸いしたようだ(貫通はしたけどね)。
二度と着れないほど穴があいてはいるが、僕の命を守ってくれたお守りとして、今も大事にとってある。
P.S.この週末には、他にいろいろな事件が起き、幸運なことに、この事件が新聞に載ることはなかった。