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 オンライン授業で道徳をやった。僕の自作教材で。

 内容は、僕が実際に遭遇した話。

 以前、○○病院へ1泊2日で人間ドックに行ったときのこと。
 最寄りの駅で降り、着替えの入った鞄を引きながら15分歩いて病院へ行く予定だった。その間ヘッドフォンで音楽を聴きながら行くのが楽しみだった。
 駅を降りたとき、一人の腰の曲がったおばあさんが、駅員に
「病院へ行くにはどうしたらよいかのう?」と聞いているのが耳に入ったが、気づかないふりをして僕は歩き出した。駅員が
「タクシーで行けばすぐなんだけどなあ」と言っているのが聞こえたが、小さな駅なのでタクシーの姿はどこにもない。
 一緒に行くよう声をかけようかとも思ったが、一緒に行くとなると、まず15分ではつかず病院の予約時間には間に合わず、病院に迷惑がかかるし、他の予約患者にも迷惑をかけるかもしれない。それに、音楽を聴くこともできなくなるし、道中いろいろ話をしていかないといけないだろう。
「めんどうくさいな。駅員が何とかしてくれるだろう・・・」と思い、ヘッドフォンをセットし一人歩き始めた。

 しかし、なかなか音楽に集中できない。ちらちら後ろを見ながら50メートル程すすんだところ、駅員に見放され?、駅前でうろうろしているおばあさんが目に入ってしまった。さらに迷いつつ10メートル進んだが、結局、重い荷物を引きずりながら駅まで戻り、おばあさんに
「僕も病院まで行くので一緒に行きますか」と声をかけることになった。結局、受付時間には遅れてしまった。

 

 まずは、印まで、読み聞かせ、僕のとった行動について感想を聞いた。全員が
「しかたないと思う。予約が入っているので、病院の方やそのあとの患者の方を待たせるわけにはいかないから。」とのこと。
 40人クラスで授業をすると、一人くらい、
「みんな。おばあちゃんのことはほかっておいていいのかよ?このままで、おばあちゃんはどうなるの?」と、感情のままに反対意見を言う子も出てくるだろう。それはそれでおもしろくなる(担任はこういう子をひそかに育てておきたい)。反対意見が出ると、たとえ全体意見が覆らなくとも、クラスがさらに深く考えるようになるからだ。


 今回は、少人数でもあり、皆、“常識的”な答えを出した。そこで、続けて印以降を読み、こう、発問した。
「先生は考えに考え抜いて、こういう行動をとることにした。安易に<おばあちゃんがかわいそうだから>という理由ではない。どんな理由だと思う?」と。
 道徳は感情論ももちろん大切である。しかし、多くの者と考えを共有するためには、感情論だけでなく、互いに納得をして行動したい。そのために、僕の行動を推し量るように促し、先ほど選択させたものをさらに深く再考させた。

 実際には、僕は

「もし、このままおばあちゃんをほかっていったら、彼女の30分の道のりは、迷いながら1時間になるかもしれない。直射日光の中、1時間歩き続けることは彼女の命にかかわるだろう。病院に迷惑をかけることよりも、人の命は優先されるべきことだ。」と自身を納得させたのである。

 けっしてこれと同じ意見を求めてはいない。先に述べたように、再考し、さらにいろんな人の視点から物事を、そして自分のとるべき行動を考えられればよかった。

 

 すると、一人の男子からおもしろい意見が出た。
「おばあちゃん自身も予約した患者の一人なのだから、先生が遅れるのと同様、おばあちゃんが遅れると病院や他の患者さんに迷惑がかかる。だから、先生一人が時間を守るより、少し遅れてもおばあちゃんを連れて行ってあげた方のが、おばあちゃんはもちろん他のみんなのためにもいい。」と。

 これはすごい意見だ。僕の出した条件<病院や他の患者さんに迷惑がかかる>というのを否定せずに、それを尊重して新たな考え方をもってきたのである。

 

 この授業では、最終的に<おばあちゃんはほかっていく>を選択しても、決して間違いではないということをしっかり言っておきたい。これには<答え>などないのだ。
 道徳とは、そういう次元の話し合いが多い。ただ、安易にそれを選ぶのではなく、相手の立場や自分の状況、他の人への影響など、様々な要因を鑑みて、自分の動く道を選べるようになってほしいのだ。上記のようなことをいろいろ推し量りながら選んだのなら、それはそれでいいのだ。


 最後の教師の訓話?でこう話した。

「善行って、ちょっと面倒くさいし、自分のやりたいことにブレーキもかかる。おまけに照れくさいしね。十分年をとった先生でもそう思うんだから、君らはもっとだろうな。でも、やったあと、それはなんかホットな思い出になっているんだよね。たいしたことをした訳じゃないのに、その日一日気分がいいのは不思議だね。まだまだ心が真っ白な君たちが、こういう気分をたくさん味わっておくってとても大切なことなんじゃないかな。」


 先生方がクラスの子どもたちの価値観を、すこーしずつすこーしずつ育てていく手を何かうっていたら、ぜひ教えてくださいね。

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