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 僕はきれいごとで納める授業はきらい。だからこの教材の、世によくある進め方では嘘くささを感じてしまう。どこが嘘くさいかって?

 じゃあ、これを読んでくれている先生方に、逆に聞くよ? 先生方がこの教材の主人公の立場だったらいったいどうする?

(※かなり挑戦的な出だしで始めてしまったな。今から書くことは、多くの先生方の授業や指導書、世にある出版本の内容を否定することになるかもしれず、ムッとするかもしれないけど、できれば最後までお付き合いください。)

 今、教育界では「議論する道徳」が大切だと言われてる。その代表的ともいえる教材に、「絵はがきと切手」がある。

 

あらすじ転校した友達から、料金不足の手紙をもらった主人公が、友達にそれを教えようかどうか迷うお話。兄の「教えるべき」という意見と、母の「お礼を言うだけでよい」という意見に揺れ動き・・・。


 さて、まず、「自分事」、そして子どもの「心を揺さぶる」授業という観点で、私見を少々。長くて退屈するといけないので、箇条書きで。


○まず、この教材はとてもいい。教師の読み聞かせで、主人公が自分の答えを出す前までを読み終わったとき、子どもたちから「う~ん」と“迷ったうめき”が聞こえたとしたら、それこそがその証明。
○板書はおそらく、右と左に分けるなどして、一見、対立を示しつつも、その両方には「友達だから」の文言が添えられるはず。ここを考える基にさせて、途中、自分本位の意見(「自分が困る」等)が出たときには、ここへ戻して考えさせてやりたい。
○それぞれの立場での役割演技という手だてもおもしろい。「だって・・・」をつけさせることで、よりそれぞれの立場に寄り添える。ただ、これを使う場合、まだ二つの立場が頭に入っていない冒頭ではなく、話し合い半ばで取り入れる方のが、その価値が大きく発揮される。


 さて、ここから本題! 最初に考えてほしいのが「この話の最後を読むか読まないか。

 先に僕の意見を言ってしまうと、『“お話”としては必要なフレーズだが、“道徳教材”としては読むべきではない』と思ってる。(まずここが指導書に逆らう意見!)

 おそらく、多くの先生は、この教材、二つの立場に分けて考えさせて議論させるだろう。では、なぜ“議論”させるのか? 単純に「正解」を見つけさせたかったから? いや違うだろう。

互いの言い分に共感できる子どもを育成したいからでは? 

 なら、これは絶対にいらない。

 もし、「友達に不愉快な思いをさせることより同じ過ちをおかさせないことこそが友達のため」をねらいとしていたとしても、子どもに考えさせた後、続きを読んで聞かせたら、子どもは「言ってあげること」が“正解”なんだ!って絶対思う。こんな「正解を求めるような授業」を続けていったら、子どもは教師の求める答えを探す授業を展開するようになっていく。

 これが、僕は大嫌いなのである。

 

 では、もう一度、聞いてみよう。先生方は主人公の立場だったら“実際”どうする?

 7:3くらいで言わない方が多いのでは? それはなぜか?

 絵はがきの少ない紙面でその3分の1くらいを使って料金不足を言うのはさすがに真意が伝わりにくいことを知っているから(先生方は自分事にできるから)でしょう。

 

 そもそも、この問題の解決策は<兄=正解>か<母親=まちがい>かだけではない。

「この返信では書かないで次の時に書く」

「今度お泊まりの時に直接言う」

など、“第3の策”がある。僕自身もそうする。これをもし考えられた子がいたとしたら、その子は、両方の意見に共感しつつ、選びきれず、自分で新たな方法を導き出しているのである。これこそが、心を揺さぶられて「価値意識を更新」した姿だと言っていいだろう。

 <※もっともこの教材を、いいものに触れさせる(≒正義が何かを学ぶ≒社会のルールを知る)ものとして扱いたいのなら、僕の言っていることはピントがずれていることになるが…。でも、そんな人いないよね。>


 子どもたちは、机上の論=「自分事でない事」だと、いいこと(正義)を口にする。これはこれで、特にこの時期の子どもには大切なことではある。

 しかし、心を揺さぶりたいなら、「自分事」にするために、少し工夫がいる

 例えば、この授業でいえば、

「絵はがき」を用意し、紙面の少ない中で、実際に「返事」を書かせてみるのだ。

 友達が引っ越していったとして、その子から来たきれいな絵はがきと懐かしいコメント。それに対して2~3行の返事を実際に書こうとしたとき、はたして「20円足りなかったよ」の文言を入れられるか。「意見」として言っている間は主張できたことが、いざ「自分事」となったときには実際どうなのか

 

 こうして揺さぶることで、子どもたちはさらなる新しい価値意識を更新していくのである。機会があったら、ぜひこの手だてで取り組んでみてほしい。

 

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