「とあるホテルのバーにて、吹雪舞う東京を眼下にインタビュー」
「春、はなやかに咲く花の匂い」や「梅雨の雨に濡れた草の匂い」。「夏の強い日差し」、「秋の夕暮れの匂い」、「冬の凍った稲刈りの跡」とか……。。そういうものだよね、風の匂い、空気の匂い、土の感触、木肌の感触、朝食、夕食仕度の、暖かな匂い。とにかく「匂い」と「風」。
僕が「城島が原点」という理由は、「人間・河原成美」を作り上げている要素は、自分が生まれ育った時代の城島の、風や匂いから学んだから。「冷たい」も「熱い」も、「濃い」も「薄い」も、そういうものすべてを学んだ。
まぶたを閉じれば、筑後川が浮かぶよ。
「暑い夏の濃い影」、「秋の夕暮れ」、「冬の夜の寂しさ」、「漆黒の闇に流れる黄色い電燈」、「見上げた空に浮かぶ綺麗な星や月」、「肌を刺す冷たい風」。いまも大好きだよね。
だからね、いま僕が、商売をする上で頼りにしている感覚的なものは、自分が過ごした時代の城島にある。もっと言えば、そこにしかないんだ。
僕は「城島で生まれた」という、その事実の中でしか生きていない。ニューヨーク、シンガポールと、いくら海外に出ていこうが、僕自身は、すごくせまい世界観の中で生きている。
ただ、手足のある僕はいろいろな場所を旅しているだけの話で……。 FIN
(2009.12.12/シンガポール。メリタス・マンダリンホテルの片隅で)