魅力と課題
普段からいろいろな企業を訪問して英語の研修をしていますが、大手自動車メーカーの皆さんの英語研修を担当することも多いです。私は車やバイクが大好きなので、いつも乗り物の話で盛り上がります。もちろん今ホットな話題はEVシフトです。
 
私の場合、バイクはホンダとカワサキのバイクを運転していますが、最近、7年車検で車のほうはEVのテスラ車に乗り換えました。このせいでEVにハマってしまい、何冊もの本を読んで、世界のEVシフトについて勉強しています。将来は、日本の企業がEVのリーディングカンパニーになることを希望していますが、現状ではテスラとBYDなので、色々と研究した内容を、研修にうかがっている日本の自動車会社の皆さんに共有しています。特に顧客視点からの意見は重要だと思うので、いちドライバーとして共有させていただいています。
 
あくまでもモータージャーナリストでも何でもない1人の個人の意見としてまとめてみると、私が車に求めているものは以下のものとなります。単にひとりの乗り物好きの意見なので、カーボンニュートラルなどの、専門家的な大きな視点はゼロです。
 
1. 航続距離
遠出をする際も安心して走り続けることができるよう、航続距離の長さは非常に重要です。私は特に日本製や外国製に対するこだわりがないので、どこの国の車でもよかったのですが、購入の大きなポイントはこの航続距離になりました。テスラとBYDの航続距離は年々伸びてきているので、全個体電池ができる前に、リチウム電池のままでも1000キロメートルくらい行くかもしれませんね。充電速度も海外ではどんどん速くなってますね。充電の待ち時間は、一度にドバッと入るのであれば、それほど苦になりません。遅いと苦痛です。
 
2. 充電の簡易さ
燃料を補給するのと同じくらい簡単に、そして迅速に充電ができること。これは今後日本に頑張ってほしいことの1つです。日本のチャデモ方式は、残念ながら、世界に初めて登場した普及型の充電システムであったにもかかわらず、残念ながら日本以外の国では絶滅しかけています。ヨーロッパではCCS、アメリカでは、NACS方式が主流となりそうですが、私の乗っているテスラは、NACS方式です。この方式だと充電の時間はほとんど気になりません。例えば1番遅いアーバンチャージャーと言われるチャージャーでも、60キロワット位の速度で充電できるので、そんなに待っている感じはしません。加えて、家に設置しているチャージャーで充電できるために、そもそも外で充電するということは、長距離旅行の場合を除いて、ほとんどありません。当然ガソリンスタンドに行くのは洗車の時だけですね。個人的には、日本メーカーも一刻も早くNACS方式に移行した方が、世界での競争力が上がるんではないかと、外野ながら心配しています。
 
3. システムのシンプルさとボタンの少なさ
混乱を生む多数の物理ボタンや複雑なシステムよりも、シンプルで直感的な操作を可能にすることが大切です。今では日本の車も、ずっとシンプルになっているのかもしれませんが、7年前に買った車は、性能的には、素晴らしい車で大いに楽しませていただきましたが、いたるところに物理ボタンが付いていて、7年間乗っていても結局その使い方がわからないまま過ごしてしまいました。ユーザーインターフェイスがマニュアルを読まなくても直感的に分かるように作ってあることが大事だと思います。ビジュアルアイコンを使って、言語にあまり依存しない操作体系が理想ですね。
 
4. アップデートと通信機能
最新の機能を定期的に更新し、車がスマートフォンのように情報をリアルタイムで共有すること。これまでの車は、ナビにしても階層ディレクトリがそのままメニューになったようで、何度もタッチしなければ、目的にたどり着けないようなメニュー構造になっていて、使う人よりも作っている人の論理で作られているような感じを受けました。車自体には大満足だったのですが、電気系統には不満が多かったのは事実です。特にナビゲーションやドライブレコーダー等はディーラーで取り付けたにもかかわらず、ディーラーの車検でアップデートされないというのも納得がいきませんでした。作っているメーカーが違うので、メーカーのホームページからデータを自分でダウンロードしてアップデートしてくださいということでした。しかもウィンドウズしばりで。今では日本車もそうなのかもしれませんが、テスラの場合には常にインターネットにつながっていて、システムがビックデータと通信をしています。なので最新の情報が常に反映されているわけです。さらにスマホと同じように、数ヶ月に一回OSのアップデートがあり、新機能が搭載されていきます。これは本当に便利です。前回のアップデートでは、車内でリモート会議ができるように、ズームが内蔵されました。このおかげで、道の駅とかでちょっと車を止めて会議ができるようになりました。
 

 

5. 先進の安全性
自分と家族を守るために、最先端の安全機能が装備されていること。これは日本のメーカーと世界のメーカーが競争しながらどんどん良くなっている部分なので、これからも大いに期待したいところですね。私の家の周りには猫が多く、車の下にいないかどうかを出発前にいつも確認しています。この猫問題までカメラやセンサーで解決できるようになれば素晴らしいなと思っています。これは求めすぎかもしれませんね。アクセルとブレーキの踏み違えを防ぐ機能も全ての車について欲しいですね。後は、信号機や標識の認識機能も。
 
6. デザインと使いやすさ
すっきりとしたデザイン、大きく見やすい画面、使いやすいナビゲーションなど、日々の使用を快適にする機能。車の中にいるときには思考が制限されるので、選択する数が少なければ少ないほど良いと思います。さらに視界にも制約が出てくるので、瞬時に操作する画面は大きければ大きいほど良いし、単純であれば単純であるほど良いと思います。あくまでも個人的な意見ですが。好き嫌いだとは思うのですが、私は日本の電化製品のリモコンの異常な物理ボタンの数は、見た目にもかなり厳しいと思っています。Apple製品みたいにすっきりしてほしいところです。
 
7. エンターテイメント
音楽、映画、ゲームなど、ドライブをより楽しく、楽しい体験にする機能。EVのすばらしいところは、駐車中にもエンジンをかけずに電気が使えると言うことです。エアコンをかけて駐車してゲームをしたり、仕事をしたり、映画を見たりすることができるのが大きな魅力です。これまでは車の中で過ごすと言う習慣はあまりなかったのですが、EVにしてから車を自分のパーソナルルームとして活用することが多くなりました。特にソロキャンプで、車をテントがわりにして過ごすと言う新しいスタイルが可能になりました。だからこそ、車の中でのエンターテイメントが車を選択するときの非常に重要な要素になってくるのではないかと思っています。テスラに対するちょっとした不満は、電源がUSBでしか取れないということです。100ボルトのコンセントで電気を取り出すことができれば、キャンプがもっと快適になります。
 
8. 静かさと乗り心地
心地よい静寂と、滑らかで快適な乗り心地。これは実はEVを買う前にはそれほど求めていなかった要素ですが、実際に乗り始めるとエンジン車とこんなに違うのかと驚いています。田舎道を走っていて、停車したときに、鳥の声や風の音が何も遮るものなく聞こえるというのは新鮮な感覚でした。ぬるっとした乗り心地も特に高速道路では、びっくりするほど安定していて安心感があります。パワーたっぷりの加速性能はちょっとやりすぎなくらいですが、車線変更の際に便利です。
 

 

デメリット
しかし、EVやテスラ車を所有することには、デメリットも存在します。その一つが、特に地方ではまだまだ少ない充電インフラです。航続距離が短いEVだと、ちょっと遠出するときにこのチャージャー問題に遭遇すると思います。速度が速くて1度にどばっと入れば良いのですが、チャデモオンリーだとかなり苦しいのではないかと思います。また様々な月額会員システムがあり、せっかく経済効率を改善することを期待して、EVに載っているのに、月額で電気代を払わなければならないというのは、納得がいかないかもしれません。
 
テスラのオーナーは基本的には自宅で充電し、時々スーパーチャージャーを使い、非常用にチャデモを使うという感じだと思います。テスラオーナーだけ全部使えて便利なのは、ちょっとずるい感じもしています。早く規格が統一されて、みんなが速いチャージャーを使うことができるようになると良いと思います。
 
また、テスラ車に関しては、全ての先進機能が日本では使えないという問題もあります。これは日本の法令上の問題もあるのだと思います。アメリカでは解禁されている機能が日本ではずっとずっと遅れてアップデートされて装備されていくという感じです。
 
私が車に求めていないものとしては、豪華な内装や過剰なサービス、紙の資料や多くのボタンと文字に囲まれた内装、値引き交渉や複雑な手続きや説明など、伝統的な自動車業界の一部で見られるような過剰さです。つけなければいけないように感じさせるオプション類もノーサンキューです。
 
今回は特に何も考えず、7年車検を機に、なにげにEVに乗り換えただけなのですが、このことによって世界の巨大産業である自動車産業がパラダイムシフトを起こしているその渦中に自分がほうり込まれたような感じがしています。最先端のテクノロジーを学ぶきっかけを得ることができて良かったなと思っています。