いやぁ、大谷翔平選手すごいですね。投げれば160km、打てばホームラン。しかも大リーグですよ。ああなれば全世界の野球界の宝ですな。
天は二物を与えずと言いますが、ああいう風に野球全般に才能のある人っていうのもいるんですな。以前、柔ちゃんこと谷亮子さんが「田村でも金、谷でも金、ママでも金」と言ってましたが、大谷選手の場合だと「投げても金、打っても金、走っても金」って歴代北朝鮮みたいな感じなのかもしれません。
肉体派ばかりじゃありませんな。将棋の藤井聡太二冠なんかまだ18歳。5年で王位と棋聖の二冠ですよ。100手先を読むなんてどんな才能なのかわかったもんじゃありません。
後世恐るべしなんて言いますが、後世がすでに王者というものすごい人が最近多ございます。
中には中学生で月収1000万円とかいう子どもさんもいるとかで、実に恐ろしい時代になったもんです。
「おはよう、おはよう。さて、今日のホームルームはみんなの進路について考えるとしよう。人間な、ないないと思っても
何か才能を秘めていたり、他人よりも勝るところがあるもんだ。先生もな、国語算数理科社会全部が良くできたわけではないが、なぜかみんなと同じ中学生の時に日本史にハマってな、年表の暗記が得意だったのもあってこうして先生をしている。今日は自分のいいところについて発表し合ってみよう」
「誰か、発表できる人はいるかな。お、杉田さん。どうだ」
「僕のいいところは、やっぱり勉強ができるところだと思います。先月の塾で受けた有名予備校の模試では、全国で総合1位を取ることができました。将来は海外の大学に進学して、医学の進展のために寄与したいと考えています」
「いやあ、さすが杉田さんだ。私も中学生の時分、日本史の授業で重箱の隅をつつくような質問を連発して先生をやり込めたものだが、いやあ、お手柔らかに頼むよ、杉田くん」
「いやぁ、先生の日本史の知識は一流なので、ディスカッションをさせて頂くととても勉強になります」
「そ、そ、そうか。あ、あ、ありがとう。いい日だな。他にはどうだ。おう、山田さん」
「は〜い。ミイ子はすっごく可愛くて、今、モデル事務所でレッスンしてて、デビュー前の煽りのSNSやイベントでもう50万人のファンクラブができました。来年からはアイドルとして活躍するので、ぜひ応援してくださいね」
「そ、そうなんだな。山田は、あ、あ、あれだから」
「どうしたの先生。ミイ子と話すときはなんで窓の外を見てるの」
「いや、人間我慢が肝心でなのだが、ミイ子ちゃんを見てると、か、顔が」
「先生、それは差別だと思います」
「関さん、違うんだ。そうならないように、顔に出ないように、先生は山田さんを見ないようにしてるだけなんだよ」
「先生は、教師なんだから、容姿で生徒を差別したらいけないと思います」
「い、いや、すまん。そういう関さんはどんなところが自慢なんだ」
「私は、杉田くんほどではないですが、勉強が得意なので、将来は有名大学の法学部に進学して、困っている人や社会弱者の方々や、女性の人権を守れる政治家になろうと思います」
「それは、立派な、考えだね」
「その第一歩として、教師による差別に対して強く抗議していきたいです。だから、今のような先生の態度は問題があると思います」
「うっせえ、ブス」
「誰だ。今のはいけません。誰ですか。佐藤さんですか」
「ぼおくじゃないですお」
「宏樹くんじゃなくて、違う、佐藤、馬之助くんでしょ、今のは」
「そーだよ。俺だよ。勉強だってスポーツだって順番がつくんだから、顔だって順番着くんだよ。先生だって言っただろう。誰にでも自慢できるものはあるって。自慢できるってことは、他の人間と比べて勝ってるってことで、それぞれ、ここではあいつより上って思ってるんだよ。見る側だって順着つけてるから選別するわけでさ。顔が自慢のミイ子の顔を先生が見れないってことは、ミイ子の顔がいいって先生が認めたってだけで、朱里が俺より学校の勉強は得意だけど、杉田よりは下って自分でも言ってたじゃないか。自慢できるところに順着つけるなよ。キメェな」
「馬之助くん、喧嘩は良くないよ」
「喧嘩じゃないですよ先生。意見です」
「わ、わかったよ。じゃあ佐藤さん、いや馬之助くんは何が自慢なのかな」
「まだ、日本一じゃないから、すげえよとは言わないけどさ。この学校でいえば、金儲けかな」
「金儲け?」
「あ、先生には言ってなかったっけ。俺、こう見えてもSNSやYouTubeとかではインフルエンサーだからさ。先月はLINEの広告収入だけで200万円かな」
「へ?」
「全部合わせると月平均で500万。いい時は800万くらいになるかな。まあ、安定して月1000万を稼げるようになりたいね。来年くらいには。で、できれば30歳までには100億円は稼ぎたい」
「500万円?」
「先生って話が前に進まないタイプだね。どんどん進めないとダメだよ、話は。話題は100億円」
「でも、500万円って」
「あ、そうか。教員の年収って俺の月収以下だったわ。でも俺は年収で人を差別しないぜ。ただ多い少ないってだけで」
「そんなに儲かるのか」
「ああ。そうか3年あれば先生の生涯賃金稼いじゃうのか俺」
「やめなよ。それイジメだよ」
「確かにな。エミリごめんよ。あ、先生もだ」
「いや、そうやって自分の才能を開花させるのはいいことだよ。そういう福村さんは何が自慢なんだ」
「わいは、やっぱ体だと思うわ。スタイルめっちゃいいでしょう。おっぱい大きいし、ウエスト細いし、お尻も小さくないし。自分でも太ももとかもエロいと思うもん。ほらエロいでしょセンセ」
「いや、そうやって体を売りにするのは良くないよ福村さん」
「はーい」
「なんだね。馬之助くん」
「だから、言ってんじゃん。どこ自慢しても個人の勝手でしょ」
「それはそうだが」
「あのね、センセ。わいはね、今すぐ違法なことをしようとしてるんじゃないんだよ。でね、グラビアとかAVとかで安売りしようとも思ってないの。こう見えて、あ、センセは知ってるか。私頭も悪くないんだよ。朱里よりこの前の統一テスト上だからね。クラス2番だったもん。だから女子アナになって、巨乳女子アナとして視聴者のおもちゃになりつつ、実業家とかと結婚するとか、悪くても銀座で夜の世界で幅聞かせて、フィクサーの公然の愛人になるとか考えてるわけ」
「あんまり、前向きじゃないね福村さんは」
「え、センセ。女子アナだよ。キー局の女子アナ。倍率1万倍を通過して実業界のトップの妻とか、うっかり間違って総理大臣の嫁でもいいわ。それが前向きじゃないの」
「い、いや。そういうわけではないんだ。先生が間違ったかもしれない。ええと、じゃあ、君原さんは何が自慢なんだ」
「そのさん付けって、決まりなのは知ってるけど、やめてもらえませんか。どうも気持ち悪いんで。孝次郎くんとか、君原選手と呼んでください。で、自慢するとこって、僕に聞くのは変じゃないですか」
「いや、君が全国中学サッカーで抜群の評価で、日本以外の一流チームからもオファが来てるのは知っているが、授業だからしゃべってもらえないか」
「サッカーすよ。世界一の高額年俸もらえる選手になるのは僕です。メッシみたいなもんですわ。これでいいすか」
「あ、ありがとう。他の人はどうかな。あ、吉川さんは」
「私は、お勉強が得意なわけじゃないし、そんなに可愛くもないけど、っていうか正直ブスだけど、誰よりも優しいし、思いやりはあると思う。だから、いい人になりたいです」
「いい人になりたいのか。それは素敵だね。でも、今日は進路の時間だから、仕事とかの夢を教えてください」
「う〜ん。いい人になりたいっていうのはいけないことですか」
「いや、そういうことじゃなくって、いい人だけだと職業につながらないでしょ」
「私は、飛び抜けて得意なことなんかないから、心を磨いていい人になりたいだけなのに」
「いや、吉川さん。泣かないで、泣かないで。先生の聞き方が悪かったね」
「ちげーよ。先生は悪くない。いい人じゃ金稼げねえから、将来どうやって金稼ぐんだって話でしょ。吉川がキメェんだよ。俺みたいに100億とは言わないけど、金稼がねぇと生きてけねえじゃん。人間なんか売りがあって、その売りの部分を売って金稼ぐんだよ。コーラ一気飲み限界チャレンジとか激辛とか体張ってるのは、体賭けてるわけじゃん。あと笑われたり、バカって言われたり、中学生としてはキレッキレの意見吐いたりして、みんなそういう部分を売ってるわけじゃん。だから吉川がどこを鍛えて、何を売るか聞いてるんだよ先生は。メンタル鍛えれば金になるけど、心鍛えても金にはなんねぇんだよバーカ」
「馬之助くんやめなさい」
「うわーん」
「ほら、泣いちゃった。吉川さんあとで佐藤くんには先生がお話ししますから、泣き止んでください」
「うわーん」
「先生、吉川さんって泣き出すと止まらないから私が保健室連れていきます」
「ありがとう田中さん。じゃあ、保健室にお願いします。あ、ええとその前に自慢を教えてもらってもいいかな」
「言うんですか。いいですよ。私は手がきれいなので、手タレになりたいです。手タレでCMや広告で活躍したいです」
「ありがとう。じゃあ吉川さんをお願いします」
「香川さんはどうですか」
「僕の自慢はオヤジです。知ってると思うけれど、僕のオヤジは起業家で、CMや通販番組バンバン出てるから知ってるかと思うけれど、今度配送工場も野球場並みのをまた作るし、上場した株もとても高値で、でも、オヤジは僕を後継にしたいらしいので、僕のいいところはオヤジの息子ってところで、将来の夢はCEOです」
「お父さん活躍されてますね。あとを継いで行こうと言うのは立派な夢です」
「じゃあ、次の人。安藤さんはどうですか」
「えー、私ですか。田中さんとおんなじで、特に自慢することはないです」
「そうじゃなくて、何かないですか。田中さんも手が自慢だと言っていたじゃない」
「えーと、先生、授業でこんなこと聞いても怒りませんか」
「何ですか」
「えーと、私も馬鹿だし、美人じゃないけど。胸タレって仕事はないんですか」
「胸タレ?」
「胸タレ。私、えーと、胸は福村さんほど大きくないけれど、形はきれいだって言われるんですよ」
「言われるって、誰に」
「あ、えーと、フォロワーの人とかにも言われます。あと柔らかいです。福村さん、エミリのは硬いけど、私のは柔らかいって馬ちゃんも言ってたし」
「バカ、やめろよ」
「馬ちゃんって」
「あ、佐藤馬之助くん。えへっ」
「佐藤さんと安藤さん、それは中学生としてはいいことじゃないですね。あとで職員室に来てください」
「あ、先生、馬之助くんは悪くないですよ。触りたいって言うからいいよって触らせたんですから」
「それは良くないことなんだよ二人とも」
「馬ちゃんより悪いのは、孝次郎と香川です。香川なんか無理矢理触ってきたし、孝次郎なんか調子に乗ってパンツにまで手を入れてきたし」
「君原さんと香川さん、そ、そんなことしたのか。それはダメだ。保護者の方に来てもらわなければ」
「ダメなんすか」
「それは立派なレイプです」
「で、どうなるんですか」
「校長に報告して、保護者の人に来てもらって」
「できるんすか、そんなこと」
「できるって、レイプは重大な犯罪だぞ」
「サッカー協会が黙ってないと思うな」
「そう言う問題じゃない」
「じゃあ、こういうのはどうでしょう。僕がオヤジに話して示談にするっていうのは」
「示談ってお金くれるの」
「うん。ベンツ買えるくらいで許してくれる?」
「あ、そんなにくれるんだ。いいよ。えーと許す。っていうか許してた」
「あのな。そんなことが通用すると思っているのか」
「あの、私たち普通にお付き合いしただけです。もう別れたけど」
「聞いてしまったし」
「お付き合いだけなら、職員室で叱られればいいんでしょ。親呼ばれたりは嫌だもん」
「ああ、授業が。とにかく、4人はこのあと職員室に来てください。もう時間がないので最後の一人。内海さんは」
「自慢はお菓子作りです。小五の頃から週に何回か作っています。昨日もスフレとクッキーを作りました。とても美味しいって食べてもらいました」
「いいねえ。こういう話だよ」
「でも、サヤカにはお菓子作りの他にもう一つ自慢があります」
「何かな」
「ミイ子ちゃんは超かわいいし、エミリさんはスタイルがすごいし、田中さんは手がきれいで、安藤さんは胸が自慢だって言ってましたが、私はそういったところはきれいじゃないけど、彼がサヤカのは今まで見た中で一番、とってもきれいで、すごく気持ちいいっていってくれます」
「何だそれ」
「小五の時からずっと付き合ってる彼氏が褒めてくれます。それも自慢です」
「それは強姦罪が成立する犯罪です。放課後、内海さんは職員室に来てください」
「ちゃんとお付き合いしてますよ。彼はいつも冷静だし、勉強も教えてくれるし、毎回気持ちよくしてくれるし、だから私も彼に気持ちよくなてほしいし、彼頭使って大変だから私でストレス吐き出してほしいし、美味しいお菓子も食べてほしい」
「ああ、ぐらぐらする。倒れそうだ」
「内海さんダメだよ。授業中にそういう話をするのは良くないことだよ。ほら、色々ありすぎて、先生倒れそうじゃないか」
「ごめんなさい」
「先生、大丈夫ですか」
「ああ、杉田くん。めまいがするんだ」
「おすわりになってください」
「ありがとう。でも倒れそうだ」
「先生、これ食べてください」
「いや、授業中だから」
「神経や脳を使いすぎてパニックになっている時に糖分は重要なんです。発作を抑えるためにもこのクッキーを一口」
「わかった。ああ、美味い」
「美味いでしょ。サヤカの作るお菓子はいつも最高なんですよ先生」
「すすすす杉田ああぁぁぁ」
チャイムとともに、どうと音を立てて崩れ落ちる先生の姿。才能は時に多くのものを蝕むものでございます。