〈教育〉 すぐやる行動力

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〈教育〉 すぐやる行動力2024年4月4日

ゲーム感覚で“実験”を楽しもう

作業療法士 菅原洋平さん

 子どもに「先に宿題やったら」「早く部屋片付けて」と言っても、「後でやる」「もうちょっとしたらやる」と、なかなかやろうとしない。そんな経験はありませんか。それは子どもが脳を上手に働かせていないからかもしれません。『10歳から育てる すぐやる行動力』(えほんの杜)の著者で、作業療法士の菅原洋平さんに、すぐに行動に移せない理由や、家庭で取り組める「すぐやる行動力」の育て方について聞きました。

 
自分の脳を困らせない工夫

 私たちは、予定が立たなかったり、予定がころころ変わったり、一度にたくさんのことを頼まれたりすると困ってしまいますよね。“今すぐできない”のは、性格ややる気、能力のせいではありません。ただ、自分で自分の脳を困らせているだけなのです。脳が困ると、“面倒くさい”と感じます。これこそ「すぐできない」「すぐやらない」の正体です。

 脳は常に先を予測して、その予測に合わせて準備をし、行動を命令します。その予測が曖昧であったり、ころころ変わったりすると、実行に移すのに苦労してしまうのです。

 また、一度にたくさんのことをするのも脳は苦手です。脳が一度に覚えておける仕事は四つ程度。椅子が四つしかない椅子取りゲームのようなものです。しかも、どうでもいいこととすごく重要なことが区別されません。四つの椅子が全て埋まっていると、容量オーバーとなり、働きが悪くなるのです。睡眠不足も脳の働きを鈍くするので注意しましょう。

 脳にきちんと働いてもらうためにはどうしたらよいか。そのためには、「選手目線」から「監督目線」に変えることが必要です。自分の脳を選手として客観的に捉え、「どうしたら脳がきちんと働いてくれるか」という監督目線を持つことで、自分で自分の脳を上手にコントロールできるようになります。

 子どもの監督目線を養うためにおすすめなのは、「どうだった?」という声かけです。「どうだった?」と聞かれると子どもは、その時の状況を客観視して言葉にしなければなりません。それを重ねていくことで子どもの日常生活は変わっていきます。

 
続きから始めるのは得意

 具体的によくある「すぐできないこと」を挙げながら、改善のポイントを紹介します。このポイントを踏まえ、子どもに働きかけてもらえればと思います。


●すぐ起きない

 朝起きる時間をころころ変えると、脳は「予測も準備もできていません」となります。ですから、まずは平日も休日も同じ時間に起きるように心がけます。起きる時間については自分で決めて、言葉に出すのが効果的です。自己覚醒法といいますが、寝る前に「明日は○時に起きる」と3回唱えるとすっきり起きられます。脳は具体的に命令すると働きやすくなります。


●すぐ片付けない

 いかに「片付け」という作業が発生しないようにするのかがポイントになります。
 脳は、行動を一つの固まりにして保存しています。漫画や本を読む時、机や床に置きっ放しにすると、脳は「漫画や本は机や床に置きっ放しにする」と覚えてしまいます。ですから、後で片付けなくて済むように、脳に最初から「漫画や本は読み終わったら棚にしまう」と一つの固まりで覚えさせるのです。
 「靴を脱いだらそろえる」「ランドセルを開けたら閉める」「お皿を使ったら台所の流し台に持って行く」「靴下を脱いだら洗濯かごに入れる」など簡単なことから行動の固まりを意識します。「使ったら元の場所に戻す」ではなく、具体的に一つ一つの動作を脳に保存させていくイメージです。


●すぐ宿題をやらない

 脳は区切りまでやることは得意ですが、いったん区切りをつけたところから次に行動を始めるのは苦手です。家に帰って一休みしてしまうと宿題をするのが「面倒くさい」と感じるのはこのためです。
 そこで、家に帰ったら、ランドセルを置いて、宿題を1問解くまでを「家に帰る」と区切ってみましょう。脳は続きから始めるのは得意なので、先に1問解いておけば、遊んだ後でも、すぐ宿題を始められるはずです。
 「まず宿題に触る」「順番を無視してできる問題からやる」「玄関でやる」といった方法も、効果があります。
 ちなみに、脳は場所と行動をセットにすると覚えやすくなります。勉強に集中するために、いつも同じ部屋で宿題をすることも有効です。部屋を替えられなくても、例えば同じテーブルで勉強する時と食事をする時で席を替えるだけでも効果はあります。一つの作業と一つの場所を限定し関連付けることで、その場所に行くだけで、すぐに脳が行動を命令できるようになります。


●すぐ寝ない

 すぐ寝るためには、光の刺激をなくすのが最も効果的です。夜眠くなるにはメラトニンというホルモンの分泌が必要で、暗くなると増えます。
 暗い夜に慣れるには、お風呂場の電気を消してみるのもおすすめです。暗い所にいると、気持ちが落ち着いていくのが分かるはずです。場所と行動をセットで覚える脳の特徴から、ベッドでは眠る以外のことをしないのも大切です。


 行動は全て理科の実験だと考えてみましょう。実験の目的は結果がどうなるか知ることですから、成功も失敗もありません。脳を客観視して、「こうしたらどう行動が変わるかな」と、子どもといろいろ試してみてください。

 小さなことでも“実験”を積み重ねていくうちに、いつの間にか、自分で決めるのが得意になっているはずです。ぜひゲーム感覚で、実験にチャレンジし、行動が変化するかどうかを楽しんでもらえたらと思います。