燃費を「あえて悪く書き換え」IHIのエンジン不正 日経ビジネス 5/17記事 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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燃費を「あえて悪く書き換え」 IHIのエンジン不正が映す製造現場の葛藤  日経ビジネス 5/17記事 By Tetsu Saito

感想
日本の三大重工業(他は三菱、川崎)の一角を成す会社。

性能を上方修正する不正は良く聞くが、下方修正があるという。
現エンジンの性能を良くし過ぎると、次のエンジンの性能改善の負担になるというのだ。
ただ、出て来る性能にバラツキがあるのも、巨大なエンジンではありがちなこと。この辺りは「設計値」とか「保障値」として防衛策を取っておけばいい話なのではないか。

元設計の人間としてはどうも解せない話だ。
そもそも、出て来る性能にそれほど幅がある事自体が「詰めが甘い」という事なのだろうが・・・

内容(転載ご容赦)
この記事の3つのポイント
1.IHI原動機によるエンジンの燃費データ改ざんが発覚
2.改ざんのうち、半数超は燃費を悪く書き換えたもの
3.顧客軽視の姿勢は同じ。より悪質な不正を招く懸念も

企業による品質データの改ざん―。この言葉からイメージするのは、オーダーを達成できない製品のデータを、より良いデータに書き換え、顧客によく見せることだろう。自動車や、電機、医薬品など日本の製造業で度々、発覚して、その度にメード・イン・ジャパンの「安全・安心神話」を揺さぶってきた。しかし、それとは逆に、良い結果をあえて悪く書き換えるという改ざんが、IHIの子会社、IHI原動機(東京・千代田)で行われていたことが明らかになった。
 

船舶用ディーゼルエンジンなどを手掛けるIHI原動機の燃費試験データを改ざんしていた問題。確認できた2003年以降に出荷した船舶用エンジンのうち、およそ9割にあたる4215台で不正が行われていた。
このうち2046台は、数値をより良い数字に書き換える、いわゆる「通常の改ざん」だった。一方で、それを上回る2169台については、顧客に提示している燃費の仕様値を満たしながらも、あえて悪い数値に書き換えられていた。

長年続いた慣例
「お客様の皆様から多くのステークホルダー(利害関係者)の皆様に多大なるご迷惑、ご心配をおかけしております。ここに深くおわび申し上げます。大変申し訳ございませんでした」。4月24日の記者会見で、IHIの盛田英夫副社長は深々と頭を下げた。

改ざんが行われていたのは、新潟内燃機工場(新潟市)と、太田工場(群馬県太田市)の2工場。工場では、各エンジンが完成した後、必ず試運転を行う。製品ごとに設けられた燃費の仕様値を満たしているかを、エンジンを実際に稼働させて確認する作業だが、現場社員がここで計測した数値を書き換えていた。

この2工場は、01年に倒産した前身の新潟鉄工所から、03年にIHIが原動機事業を引き継いだものだ。社内調査によると、改ざんは新潟鉄工所時代の1980年代後半からおよそ40年にわたって行われていたと見られ、口頭で先輩社員から引き継がれていた慣例だったという。

「次のエンジンが悪く見える」
なぜ燃費データを悪くする書き換えが行われていたのか。IHIの武田孝治常務執行役員は、「あまり良い性能のエンジンを出すと、次のエンジンがすごく悪く見える」と理由を説明した。

前提として、エンジンは同じ製品であっても個体差があり、燃費性能にばらつきがある。そのため、幅を持たせた仕様値が設けられており、試運転では燃費がその範囲内に収まるかをチェックしている。ただ、そのエンジンの中には、仕様値を満たすだけでなく、現場の予想した数値よりも大幅に燃費性能の高い「優秀なエンジン」が少なからず存在していた。

試験データの改ざんが行われたエンジンの機種の一部

 

同じ製品でも低燃費のエンジンもあれば、仕様値をギリギリ満たすようなエンジンもある。燃費にばらつきが出れば、顧客から「なんで俺のエンジンは燃費が悪いんだ!」「前に使っていたエンジンと違う」とクレームを受けやすくなる。

武田常務執行役員は記者会見で「お客様への説明が煩雑になる。ある程度、乖離(かいり)の少ないゾーンに(数値を)入れたいという心理が働いたようだ」と説明した。

あえて余力を残しておく
企業不正に詳しいデロイトトーマツグループの中島祐輔氏は

「品質を継続的に高めていくことが求められる製造業では、少なからずあるケースだ。ある程度の余力を残しておかないと、現場が持たなくなるという心理が働いている」と分析する。

背景にあるのは、製品に対する要求の高まりだ。コンプライアンス(法令順守)や環境配慮に関するルールも増えている。

そして、そのしわ寄せは製造現場にくる。環境配慮の姿勢が企業価値の向上には欠かせない時代となり、顧客や会社からの要求も高くなる一方。現場社員へのプレッシャーは増すばかりだ。
そのため、数値を良くする一般的な改ざんに手を染めるケースは枚挙にいとまがない。それと同時に、目標達成へのプレッシャーが強く求められ続ける業界であれば、基準を大幅にクリアしていた場合には、次の製品のハードルを上げないために、目標を「ほどほどにクリアする」というIHI原動機のような不正に手を染めたい、との心理が働きやすくなる。
データを良く改ざんするのも、悪く改ざんするのも、その根本は同じ。だが、規定値内での改ざんは仕様値を満たしていないわけではないため、発覚してもリコールの対象となったり、補償を求められたりと厳しくとがめられることはない。現場にとっても罪悪感が少なく、心理的なハードルも低い改ざんという面があるかもしれない。

IHI原動機による燃費データ改ざん問題を受け、検査のため群馬県太田市の太田工場に入る国交省の職員ら(写真=共同通信)


製品データだけでなく、不正会計でも同様のケースはある。2020年1月に明らかとなった、建材メーカーである不二サッシの連結子会社、関西不二サッシ(大阪府高槻市)の粉飾決算では、19年3月期の利益を2億5500万円低く計上していたことが問題となった。本来の利益よりも低く見せる、いわゆる「逆粉飾」だ。

調査報告書によると、粉飾決算は当時の社長らが主導。動機として親会社からの影響を排除して事業運営を行いたいという意識があったという。そして他の要因の1つとして「翌年以降の事業計画が厳しくなることを回避するため、利益を出しすぎないようにしていた」との狙いもあったという。まさにIHI原動機の不正と同様の心理が働いたと言えるだろう。

後のないIHI
ただ、悪いデータに書き換える改ざんも、決して許されるものではない。中島氏は「偽装することが当たり前のようになると、より悪質で大きな不正につながりかねない」とくぎを刺す。
IHIでは、19年にも主力の航空機エンジンの部品製造工程で、検査資格を持たない社員による不適切な検査が発覚。

業務改善命令を受けている。

井手博社長は5月8日の決算説明会で、IHI原動機の不正について、「本当に恥ずかしいこと、あってはならないことだ」とあらためて陳謝した。現在、全ての製品に対して、同様の不正が行われていないか調査を進めているほか、今後も不正が行われていないか継続的にチェックできる体制を整えることを明言した。
IHIはグループビジョンの1つとして、こう掲げている。「IHIグループの社員は、お客様の価値創造のため、『グローバル』『ものづくり技術・エンジニアリング力』『世界に通用する業務品質』の視点で卓越した能力を持つプロフェッショナルとなる」

基準を満たしていたとしても、数値を偽装することは顧客軽視の不適切な対応であることは言うまでもない。顧客の信頼をこれ以上失わないためにも、抜本的な意識変革が求められている。