三体 作:劉 慈欣 訳:大森 望 他 2019年 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

シリーズ 三体  三体Ⅱ   三体Ⅲ 

 

中国発のSF小説。シリーズ計が全世界で2,900万部突破だという。息子が買って回してくれた。

三部作(Ⅱ、Ⅲは上下2巻づつ)
朝日記事(2019.8.2付)



登場人物
葉文潔        (イエ・ウェンジェ)
汪淼          (ワン・ミャオ)
史強          (シー・チアン)
常偉思        (チャン・ウェイスー)
申玉菲        (シェン・ユーフェイ)

雷志成        (レイ・ジーチョン)
楊衛寧        (ヤン・ウェイニン)

丁儀          (ディン・イー)
葉哲泰        (イエ・ジョータイ)
楊冬          (ヤン・ドン)
紹琳          (シャオ・リン)

魏成          (ウェイ・チョン)
潘寒           (ファン・ハン)
沙瑞山         (シャー・ルイシャン)

智子                     (ソフォン)
マイク・エヴァンズ

ETO:地球三体協会(Earth Trisolaris Organization)

超あらすじ
文化大革命で粛清された父を持つ葉文潔。

ナノマテリアル開発者の汪淼が、謎の「作戦指令センター」への参加を強要され、そこで多くの科学者が自殺している事を知る。
科学的に不可解な事(例えば「宇宙背景放射」の明滅)が起きる中でVRゲーム「三体」を知る汪淼。
三つの恒星に軌道を翻弄され、興亡を繰り返す惑星の歴史。

過去に紅岸基地で勤務していた葉文潔と知り合った汪淼。

ひょんなことからその過去を聞かされた。
紅岸基地で行っていたのは軍による地球外生命へのメッセージ発信。だがそのシステムでは出力が弱すぎた。文潔が、太陽に信号を照射した事で外世界への発信を初めて可能にした。
八年ほど経った頃、先の送信に対する返信が来た。

相手は四光年先の三体世界。ここから侵略者が行くから返信するなとの警告。だが社会に絶望していた文潔は侵略せよと再返信。
基地を離れ大学に戻った文潔は、環境保護活動家のエヴァンズと知り合い、紅岸基地の秘密を教える。後にエヴァンズは財力を使って第二紅岸基地を運用し、三体世界の情報を入手する。

後に文潔とエヴァンズは「三体協会」を設立し、組織を拡大。
VRゲーム「三体」は実在する世界だった。

三体世界は地球からのメッセージを聞き、存続を賭けて侵略艦隊を出発させると共に、地球の科学進化を抑制する作戦を実行。
それは「智子」という陽子サイズのコンピュータ・システム。

汪淼の周囲で起きた不可解な現象は全て智子の仕業。
「三体協会」の実体を掴み、エヴァンズの死と引き換えに三体世界からの情報を手に入れた「作戦指令センター」だが、全てを智子にコントロールされた状態で、どう反撃するのか?
敵艦隊到着は四百五十年後。

感想
四光年離れた知的生命の存在、そして彼らが侵攻して来る事を知った地球人類を描くドラマ。本巻はまだプロローグの段階。
いきなり文化大革命から始まって「ん?政治の話?」
それはおいといて、ストーリーの基本となるのは「三体問題
重力相互作用を持つ三つの質量間の相互作用の解を求めるものであり、18世紀頃から研究されているという。
そんな三つの恒星に翻弄される三体文明が地球侵略に乗り出す話。彼らの歴史をVRゲームを利用して浸透させようとする。

この辺は新機軸ではあるが、ちょっとゴチャゴチャしてるか。
中国作家によるSFなんて読んだ事がないのでちょっと構えたが、意外に読み易い。あまりハードに偏らず、人間ドラマとしても面白い。特にはみ出し警官の史強がイイ。

初めは汪淼のヒンシュクを買うが、次第に信頼を勝ち取って行く。また陽子サイズのコンピュータ・システムが秀逸。
荒唐無稽との見方もあるが、そもそも宇宙は無から始まったなんて言われているんだから、もう何でもアリだと言える。

SFなんてアイデア勝負。
さて、次巻からどうなるか。楽しみ。

中国ではアニメや実写シリーズもあるようだ(YouTubeで「三体」検索)
オマケ
宇宙は11次元まである様だ(なんと)
超弦理論も関わっている様で、なかなか大変な世界・・・

あらすじ
第一部 沈黙の春
1 狂乱の時代 1967年、中国
文化大革命に荒れる北京。その郊外にある大学で粛清を受ける物理学教授 葉哲泰。物理法則が否定される。哲泰の妻 紹琳は迫害側。
集団の前、女四人の近衛兵からベルト打ちを受け続け、哲泰は絶命。そこに残された哲泰の娘 葉文潔。

2 沈黙の春 二年後、大興安嶺
内モンゴルの生産建設兵団で働く葉文潔はある日、記者 白沐霖から本を渡される。レイチェル・カーソンの「沈黙の春
引き込まれる文潔。環境破壊を描写したもの。
白が話すレーダー峰のこと。山頂に作られたアンテナ施設。
白が書いた環境破壊告発文の下書きを清書した文潔。
三週間後、連隊本部に呼び出された文潔は、代筆文書を見せられた。拘置所で文潔は、亡き父に関わる書類へのサインを求められるが拒否。バケツの水を浴びせられる。

寒さのあまり意識が遠のく文潔。

3 紅岸(一)
鳴り響く轟音で目覚めた文潔。輸送ヘリで運ばれていた。
再び眠りにつき、次に目覚めた時相手が紹介される。

紅岸基地の雷志成政治委員と、同基地最高技術責任者 楊衛寧。

楊の名を聞いて過去を思い出す文潔。楊衛寧はかつて生徒として父 葉哲泰に師事していた。

着いた場所には巨大なパラボラアンテナ。

ここはレーダー峰だった。
楊衛寧から数年の刑を受けるか、この最高機密レベルプロジェクトに入るかの選択を迫られる。入れば一生ここから出られない。
即決で「一生ここにいて平気」と返す文潔。
その時突然アナウンスの声。

カウントダウンが始まり送信が行われた。
アンテナから青い光が放たれ、それに伴い鳥が数羽落ちた。


第二部 三体
4 <科学境界(フロンティア)> 四十数年後
ナノテクノロジー研究者の汪淼はある日「作戦指令センター」が開催する会議への出席を求められる。態度の悪い警官 史強。
議事進行を行う陸軍少将 常偉思。その席上で学者のリストを見せられる汪淼は、そのリストの最後の名に注目した。
一年前、高エネルギー粒子加速器「中華二号」のプロジェクトの責任者だった汪淼を訪れた女性理論物理学者 楊冬。

彼女のプランが採用された。
そのリストの学者たちは皆、ここ二ケ月足らずで自殺したという。楊冬の恋人だった丁儀博士が、求められて彼女の遺書を汪淼に見せる。
「これまでも、これからも、物理学は存在しない・・」
自殺した学者の殆どが学術組織「科学フロンティア」に関係があった。汪淼も実は「科学フロンティア」と接触していた。

中国系の日本人物理学者 申玉菲からの繋がり。

だがテーマが根源的で参加を断っていた。
常偉思の希望は汪淼が「科学フロンティア」に入り情報を得る事。最初断ったが、史強の挑発に乗って引き受けてしまう汪淼。
運転手から丁儀の住所を教えてもらった汪淼。

5 科学を殺す
訪れた新築マンションで、丁儀は酒に酔っていた。
楊冬自殺の理由を聞こうとする汪淼をビリヤードに誘う丁儀。
白を打って黒をポケットに入れる。一回ごとに台の配置を変えて五回行い、全てポケットに入れた汪淼。これが自然界の原理、物理法則。
ここ数年で高価なビリヤード台--高エネルギー加速器 が世界で三台建設された。北米、ヨーロッパ、そして中国。粒子衝突エネルギーを一桁上げたこの設備を使い、全く同じ条件で行った実験の結果が全て違った。つまり、物理学は存在しない。
丁儀は汪淼に、楊冬の母親の住所を教えた。一人になって気の毒・・・
想像もつかない力が科学を殺そうとしている、と言う丁儀。

6 射撃手と農場主
翌日は週末だったが趣味のフィルムカメラを携えて出掛けた汪淼。
TV局のビルを見て「射撃手(シューター)と農場主(ファーマー)」問題を思い出した。高次元から下位を見た時の逸話。
撮影を終え、現像してネガを確認すると画像の真ん中に小さな数列。1200:00:00。

次の画像には1199:49:33と、全ての画像に付いている。
他のフィルム、カメラ、デジカメで確認しても同じ。

現象は自分自身がシャッターを押したものに限られた。
「科学フロンティア」の申玉菲に電話を入れた。

相談の申し入れに「来れば」とだけ言って切った彼女。

夫の魏成の案内で階段を上る。いつも家にいる魏成だが彼の部屋に、汪淼の職場にある様なHP製のサーバがあるのを見た事がある。ネットゲームをしていた彼女はそれを中断。事の顛末を話す汪淼に、彼の進めているナノ・マテリアル・プロジェクトの研究をすぐ中止しなさいと言った玉菲。それ以後は何を聞いても話さない。
タクシーで帰ろうとする時に「科学フロンティア」の潘寒が車で乗り付けた。有名人。追い払われて車が出された。

自宅に帰った時にはもう夜明け。史強につけられていた。

二日間の不在に文句を言われる。
深夜目醒めた時、眼前にあの数字が見えた。1180:05:00から続くカウントダウン。翌朝センターを休み眼科医へ。診断では「飛蚊症」

ナノテクノロジー研究所に出勤。現在「飛刃」という超強度ナノマテリアルの開発中だが、最近装置メンテナンスの時期に来ていた。相変わらず続くカウントダウン。1174:21:11・・・
システム更新に要する停止期間を尋ねる汪淼。屈したわけではない。それを喜ぶスタッフは三日でやると言った。
シャットダウン手順は開始され、複雑な操作の末それが行われると、眼前の秒読みが停止し、その後点滅して消えた。

一人になってから申玉菲に電話。誰が黒幕なんだ!の問いにも沈黙。重ねての問いに、私たちの判断ではないと言う玉菲。
この研究を間違った方向に導き、失敗させる事も期待できる・・・
安っぽい手品だと叫ぶ汪淼に、どうしたら信じてもらえる?と言う彼女。
納得させるデモンストレーションを要求すると、あるウェブサイトを教えられ、そのページのプリントアウトを指示された。
三日後にプロジェクト再開だと言うと、宇宙背景放射の観測データをその時(午前1時から5時)に観測出来るようにと言った。
「全宇宙があなたのために点滅する」

7 三体 周の文王と長い夜
その後丁儀に電話をかけた汪淼。宇宙背景放射を観測する機関を聞くと、楊冬の母親が現役時代、天体物理学が専門だったという。玉菲から聞いたアドレスは、単純なモールス符号対照表。
あの時玉菲はネットゲームをしていた。暇つぶしにゲームをする人ではない。習慣の様にそのゲームのアドレスを覚えていた。www.3body.net
Vスーツ指定にラボ内のものを捜し出して装着し「海人」でログイン。

乱紀という極限気候と、恒紀という温暖な気候が繰り返される世界。「周の文王」と「周の文王の従者」がプレーヤー。
乱紀を乗り切るための「脱水」 身体から水を抜き皮のようになる。まずは朝歌に辿り着く。ゲームのゴールは、太陽運行の法則性を発見し文明を存続させること。
着いた朝歌に林立する多数の巨大な振り子。文王が紂王に万年暦を献上した。信用出来るものとして紂王が再水化を宣言し民が再水化されたが、太陽は昇らず乱紀に戻った。
皆に向かってログアウトを示唆する紂王。EXITマークに向かって歩く人に続く汪淼。身震いする寒さ。そして現れる文字列。
「この夜は四十八年続き、文明#137は極寒の中崩壊しました。残った文明の種子は再び発芽し「三体」の世界で育つでしょう。またのログインをお待ちしています」

8 葉文潔(イエ・ウェンジェ)
三体世界の太陽運行に、なぜ法則性がないのか。
考えているうちに車が目的地に着いた。楊冬の母親 葉文潔の家。楊冬の部屋に案内される。楊冬の事について語った母。
来訪のもう一つの目的だった、宇宙背景放射の観測施設について聞くと、北京郊外の電波天文観測基地に居る教え子に連絡を取ってくれた文潔。

9 宇宙の瞬き
葉文潔に紹介してもらった電波天文観測基地を訪れる汪淼。

応対した沙瑞山博士。宇宙背景放射のゆらぎを見たいとの申し出に対し、グラフが肉眼で分かるほどのゆらぎはあり得ないと語る沙博士。
指定の午前1時になった時、水平の直線が波形に変わった。職員は計測器の故障を疑い、他の二台の端末で他の人工衛星データを拾った。全く同期している三つの波形。すなわち、宇宙が明滅している。
波形のプリントアウトをモールス符号に置き換えて解読した。
1108:21:37、1108:21:36・・・・
カウントダウンは既に92時間進み、今は残り1108時間。
破壊工作でない事を明確にするには、3K眼鏡での確認がいいという沙。背景放射の波長を五桁圧縮し、赤の可視光線にする。
天文館にあると聞いて見に行った汪淼。深夜叩き起こされたスタッフから3K眼鏡を渡される。夜空の赤い背景が確かに脈動して見える。
携帯電話から申玉菲に電話するとすぐに出た。カウントダウンが終わったらどうなる?の問いに「さあね」と言って切れた。
全世界の終末を示すシグナルかも知れない。
あてもなく街を走らせた後、車を乗り捨て歩き始めた汪淼。
そしていつの間にか王府井の天主堂前に立っていた。
汪淼は両手を覆って泣き出した。
その時、突然大きな笑い声。史強隊長が煙草の煙を吐いていた。

10 史強(シー・チアン)
史強は隣りに座ると、乗り捨てた汪淼の車のキーを差し出した。
彼の馴染みのレストランに連れて行かれ、酔ううちに生き返った気持ちになると、この三日間の事を全て話した。

彼は多分その全て、いやもっと多くを知っていた。
不可思議なことには必ず裏がある、と言う史強。

翌日会った史強が話す。ピースが合わさったら真相が見えて来る。
理系の人間に対する犯罪の急増、粒子加速器建設現場の爆発事故、ノーベル物理学賞受賞者が殺害された・・みな普通じゃない。そして「科学フロンティア」の連中の自殺。各種抗議集会。
全てに陰で糸を引いている者がいる。その目的は科学研究の潰滅。この陰謀に気付いている上の人間、それが常偉思少将。

この様な作戦指令センターは世界中に二十数ヵ所あるという。
敵が恐れているものはあんたたち科学者。
そして研究を続けるのが一番の反撃だと言った。カウントダウンなんか気にするな。そしてあのゲームが役に立つかも知れないと言った。
あれは普通のゲームじゃない。知識のある人間でないと無理・・
汪淼が礼を言う間もなく走り去る車。

11 三体、墨子(ぼくし)、烈火
Vスーツを購入し、自宅で再び「三体」にログインした汪淼。
前に見た光景とは全く異なり、長い歳月の経過を告げていた。

多数の歯車で支えられた大きな銅球が回転している。
そこにやって来た痩せた男が墨子と名乗った。

汪淼の事を文明#137に居た者と認識していた。
文明#139は新記録を打ち立てたという。孔子が礼のシステムを創造して太陽運行を予測した。

恒紀は訪れたが五年の予測に対し一ヶ月で終った。
墨子の予測モデルは、宇宙を中味が空洞の大きな球とみなす。

だがこのモデルもうまく行かないだろうと汪淼は思った。
自信たっぷりの墨子だったが、ある時巨大な太陽が地平線から現われ、地上の水は蒸発した。
「恒紀は続く・・・」と話していた墨子が燃え始めた。汪淼も燃える。焼き尽くされた大地の上にテキスト文字。
「文明#141は炎に包まれて滅びました。またのログインをお待ちします」
翌日、研究センターに出勤した汪淼。なるべく忙しく過ごし、外が暗くなってからラボをあとにして葉文潔に会いに行った。
そして汪淼に紅岸基地の話を始める文潔。

12 紅岸(二)
紅岸部隊に入った頃、葉文潔には雑用程度しか与えられなかった。基地配属のエンジニアが無能を装い基地を去る中で、文潔は次第に中核を担う立場になった。
ある日、雷政治委員が、このシステム全体をどう思うかと聞いた。ただの無線電波の送信機でしょう、と答える。

それに対し紅岸基地は一種の電子レンジだという。

送信電力は何と25メガワット。

将来の戦争において敵の通信・偵察衛星を破壊する。

その話を楊衛寧が聞きつけて咎めた。
翌日、文潔は送信部から監視部へ異動になった。
実はこの部署こそが核心。コンピュータ・システムも高度なもの。
その二日後、再び雷政治委員が訪れて監視部の業務内容を全て話すと言った。それは宇宙空間における敵の活動監視。
それを聞いていた楊衛寧が再び警告。

そして本件を上に報告すると言って去った。

ある日のこと呼び出された文潔。上級将校が全員集合。

雷政治委員が糾弾される予感。
だが実際はその逆だった。今まで雷が話した内容は嘘で、これから話す事が本当の真実。だが今なら引き返せる。
「真実を知ることに同意します」堅い意思で答える文潔。
楊衛寧が話した内容は、雷の嘘より信じがたいおとぎ話だった。

13 紅岸(三)
紅岸プロジェクト関連文書の抜粋
Ⅰ 世界の基礎研究主流から概ね無視されている分野

今後、より俯瞰的立場から技術跳躍分野を定義する
(一)物理学 (二)生物学 (三)コンピュータ科学
(四)地球外知的生命体の探査(SETI)
四は全ての分野の中で最も大きな技術跳躍の可能性がある。
「指示」 討論グループを組織せよ。特に四は包括的な研究を要する。
Ⅱ 地球外知的生命体探査の可能性レポート
1.アメリカ及びNATO軍 オズマ計画。探査機パイオニア10、11号、ボイジャー1号搭載の金属板やレコード。
2.ソビエト 詳細不明なれどこの分野への巨費投入の形跡あり
「指示」 他国は既に地球外へ呼びかけている。我々も発信すべき。
Ⅲ 紅岸プロジェクト初期フェイズ研究報告
1.探査及び監視 監視周波数、チャンネル数、送信パワー等の開示
Ⅳ 地球外文明へのメッセージ
第一稿 文革指導部が関与した、他大国に対抗するもの
「指示」 くだらない。今後文革指導部の関与は禁止。
第二稿(略)、第三稿(略)
第四稿
このメッセージを受信した世界のみなさんにお喜びを申し上げます。人類は直面する問題解決し、地球文明を美しい未来にすべく苦闘しています。我々は美しい理想を抱き、宇宙の他の文明社会との関係確立を願います。
Ⅴ 関連する政策と戦略
(一)地球外生命体からのメッセージ受信後の戦略研究(略)
(二)地球外知的生命体とのコンタクト後の戦略研究(略)
「指示」 この問題を塾考するには俯瞰的な視野が必要。

14 紅岸(四)
プロジェクトの結末を聞く汪淼。
全宇宙へ信号発信するためには膨大なエネルギーが必要。
カルダシェフが提起した説。Ⅰ型文明は地球の全エネルギー相当が通信に使える、Ⅱ型は恒星一つ程度。Ⅲ型は銀河一つ程度。
紅岸基地の出力程度では誰にも聞こえない。
事実プロジェクトの20年間、一度も聞こえなかった。
紅岸は次第に衰退して行った。80年代に一度アップグレードされたが、そのうち管理を軍から民間(中国科学院天文所)に移設。

その後は他の天文観測事業を行うようになった。
最終的に軍が紅岸を完全に放棄したため、全てが終わった。
基地に入って四年目に文潔は楊衛寧と家庭を持ったが、基地内の事故で雷と楊は死に、その後楊冬が生まれた。
プロジェクト崩壊後については沙博士から聞いていた汪淼。
孤独で偉大なプロジェクトに人生を捧げた女性。

15 三体 コペルニクス、宇宙ラグビー、三太陽の日
ここ二日間の出来事と紅岸基地との結び付きを感じる汪淼。
帰宅して三度目のログイン。

この世界の秘密を暴く目的が出来た。
目的に合わせてログイン名は「コペルニクス」とした。
世界は中世ヨーロッパ風に変わった。

IDに基づいて選んだと確信。
ローマ教皇グレゴリウス一世ほかアリストテレス、ガリレオがいた。
そこで汪淼は仮説を発表。太陽運行に法則性が見えないのは三つの太陽があるから。いわゆる三体問題。

軌道の組合せにより乱紀、恒紀が生じる。
火焙りだ、と手を振るアリストテレスとガリレオ。彼らの話す反論。十字架に縛り付けられた汪淼。
アリストテレスが火を点けようとした時、馬に乗った騎士が現れ、世界が滅んだ!と叫ぶ。周囲に立ち上る炎。

皆が逃げ出す。汪淼は何とか紐を外して外に出た。数本の火柱が見える。教皇、ガリレオ、アリストテレス、ダ・ヴィンチなどだろう。
他の者も燃えながら手を差し伸べ「三太陽の日だ」と叫んだ。
そしてテキスト文字が現れる。
「文明#183は三太陽の日によって滅びました・・この文明でコペルニクスは宇宙の基本構造を示す事に成功し、ゲームはレベル2に到達しました」

16 三体問題
汪淼がログアウトしたとたん、電話で史強からの呼び出し。
公安分局に史強と女性警官、そして申玉菲の夫 魏成がいた。
彼に命の危険があるという史強。
長い話だと言って話し始める魏成。
彼には幼い頃から特殊な才能があった。数とかたちに関する直感力。それを見出してくれたのが高校教師。
どんな数字の組合せも三次元の立体に見える。逆に幾何学図形は数字に。数学コンテストの地方大会に出る事を勧められた。
地区予選から勝ち上り、結局ブダペストの数学オリンピックで優勝。その後入試免除で一流大学の数学科に。

だが社会に出てからが悲惨。

数学以外何も知らず、大学講師も解雇に。
結局父の友人の住職に預けられた。

「空は無でなく存在の一種」との示唆が啓示となり、三個の球の配置探求で心の平安が得られた。
三体問題には解がないとポアンカレは言っているが、それは誤解。解法に新しいアルゴリズムを入れれば解ける。

紙の上で数学モデルを作り始めた。ある時私の計算途中の紙を持って女性が現れた。

三体問題を研究している事を即座に理解していた。

それが申玉菲。
コンピュータを提供出来るという彼女と共に寺を離れた。

そして現在の環境を手に入れた。
後年、僕たちは結婚した。彼女の興味は三体問題の研究だけ。
この研究で大きな成果を挙げている。だが昨日、三体問題の研究をやめなければ殺されると電話で警告された。

更に昨夜ベッドで玉菲に銃を突き付けられた。

三体問題が解けたらあなたは救世主。だがやめたら罪人。
銃の不法所持で家宅捜索しようとする史強が、汪淼も同行させる。

申玉菲の家に着いたとたん二階から物音。
胸を二発撃たれて横たわっていた玉菲。犯人は車で逃げた。
魏成はややショックを受けたものの冷静。
玉菲の事なんて何も知らない・・・
だが昨日午後、藩寒が来て彼女と口論したと言う魏成。
汪淼が、三体問題を解く進化的アルゴリズムを知りたいと申し出るとCDを渡す魏成は、こんな事から遠ざかった方がいいと助言。
全ては神さまが--玉菲の言う王が自分さえ守れなくなってきている・・

17 三体 ニュートン、ジョン・フォン・ノイマン
「三体」レベル2の始まり。エジプト風ピラモッド。
小男がアイザック・ニュートンだと言って汪淼に挨拶する。
微積分法の援軍により、三つの太陽の運行規則把握は時間の問題。それを批判するもう一人 ジョン・フォン・ノイマン。
コンピュータが前提になると話す汪淼だが、その言葉を知らない二人。大量の計算は人間がやると言った。三千万人の人海戦術。
その始皇帝が三千万の大軍で欧州征服に行くと言う。これから会いに行くのに付いて行く汪淼。
秦の始皇帝である嬴政(えいせい)への面会。フォン・ノイマンが、運動の三法則と微積分法により太陽運行の予測が出来ると進言。その方法として、借りた三名の兵士を使って一組のゲート回路を作りORゲート、NANDゲート、NORゲートなどの運用を覚えさせた。
これを一千万組作ってシステム構築すればコンピュータが出来る。
三ヶ月かけて訓練し、三千万の軍隊が六キロ平方に展開された。
始皇帝の指示で計算が開始される。ハードディスク、仮想メモリなどもあり、この人列コンピュータはOS秦1.0で動作する。
計算実行の期間は一年二ケ月に及び、その計算結果を巻物にしてフォン・ノイマンとニュートンが献上した。
計算によれば太陽はすぐに昇る。だが計算に誤りがあったと走り込む天文大臣。一つに見える太陽は、実は三つに重なっており、その重力に引かれて地上のものが浮き始めた。

直列する太陽背景に浮かぶテキスト文字。
「文明#184は、三恒星直列により滅亡しました・・・・またのログインをお待ちしています」
ログアウト後に電話がかかって来た。ゲーム「三体」の管理者だという。続行のためには年齢、学歴、勤務先が必要。
それを告げると、明晩「三体」プレーヤーのオフ会があると言ってその住所を教えた。

18 オフ会
ゲーム「三体」オフ会会場は郊外の喫茶店だった。集まったのは汪淼含め七人。一人は女性。幹事が現れる。何と藩寒その人。
彼が挨拶を始める陰で、ブラインドで史強にメッセージを送る汪淼。彼はそれを承知していた。信者の振りをしろとの指令。
三体を巡る感想が各人の口から発せられる。

このゲームは第二の現実だと絶賛する者もいる。
その後、もし三体文明が人類世界を侵略したら?との質問。
各人が順に答えて行く。汪淼は慎重に多数派へ同調した。
結局その会の終わりに二名が今後のプレイを拒否され退場となった。藩寒は残った五人と固い握手を交わして言った。
「これで、我々は同志です」

19 三体 アインシュタイン、単振り子、大断裂
汪淼が五度目にログインした時、世界ががらりと変わっていた。

今まで全てにあったピラミッドは潰滅し見慣れた国際連合本部ビルが建っていた。
そこでバイオリンを弾く老人はアインシュタインだった。
巨大な月が現れ、次第に欠けて三日月となり消えて行った。
彼は言う。あなたやニュートンたちが人列コンピュータで導いたモデルは、重力ひずみがもたらす誤差が計算結果に重大な影響を与えた。
国連ビルに行こうとする汪淼に、みな単振り子起動式典に行っていると言うアインシュタイン。
それは汪淼が最初にログインした時に見た巨大振り子に似ていたが、すっかり近代化されていた。
そこに出向くと、汪淼は五つの時代を渡り歩いた者として歓待された。国連事務総長が挨拶する。彼はこれを墓碑だと言った。
汪淼が、三体問題を解くための数学モデル要約資料を渡したが、それを見た事務総長は、三体問題に解は存在しないと断じた。
再び昇った月。この月は大断裂の産物。

前の文明を潰滅させた天災。
文明#191での三つの太陽は惑星を裂いた。

あの月がその片割れ。
残された方は自己重力により再び球となり、生命のない世界になった。だが生命の種が再び芽を出す事に成功した。

そしてついに192番目の文明が勃興した。

それに要した全プロセス期間が九千万年。
だがこの三体世界の場所は過酷だった。太陽に突っ込んでしまう可能性が非常に高い。

今まで文明が192回も再生出来たのが幸運。
三体文明はいちかばちかの賭けをする。

それはこの星系を離れて新しい惑星を見つけること。
事務総長の指示で式典が開始された。振り子が動き出す。
その背景にテキスト文字。
「451年後、文明#192は双子の太陽の烈火により滅亡。三体問題に解がない事が証明され「三体」のゴールは変わりました。新たなゴールは星々を目指し、故郷を見つける事です。またのログインをお待ちしています」
ログアウトした後、疲れてはいたが30分後にログインした汪淼。

そこに思いがけないメッセージ。
「緊急事態につき「三体」のサーバは間もなくシャットダウンします。残った時間で自由にログインしてください。「三体」はこれから最終ステージへと直接ジャンプします」

20 三体 遠征
地平線まで広がる真っ暗な砂漠。だがそれは錯覚。大地が、ぎっしり密集した群衆に埋めつくされている。

見える範囲だけでも数億人。
星空に驚くべき変化が起きていた。星々が碁盤の目の様に並んでいる。汪淼を認めた男が、遅かったなと声をかけた。
あの配列は三体星間艦隊だという。四光年離れた星系に向かう。
その三体艦隊が輝き、加速して行った。それを見送る群衆。
そしてメッセージが現れた。
「三体文明の新世界遠征の旅が始まりました・・・地球三体協会の集会にご参加ください」


第三部 人類の落日
21 地球反乱軍
今回は大勢の集会。解体前のカフェテリアに三百名以上集まっていた。社会的に有名な人も多数いる。
真ん中に置かれた三体問題のミニチュアが宙に浮き回転している。壇上に立つ藩寒が、申玉菲同志を殺したと糾弾されている。
降臨派、救済派を巡る議論。救済派の一掃を訴える藩寒が、総帥は降臨派だと断じた。そこに総帥が登場。めまいがした汪淼。
地球三体協会反乱軍 最高司令官 葉文潔総帥

簡単な挨拶の後、文潔は藩寒が重大な違反行為を犯したと糾弾。
弁明する藩寒。あの日、魏成を排除するために現場へ行った。それはエヴァンス同志の決定でもあった。

三体問題が解かれたら、主は降臨しない。
申玉菲を撃ったのは先に撃たれたから。
参加者たちが言う降臨派の秘密。それは全人類の滅亡。
黒幕のマイク・エヴァンス。
降臨派の裏切りには証拠があり、問題を解決すると言って、文潔はそばにいた少女に指示した。その少女は藩寒の首に腕を回すと、思いがけない手さばきで彼の頭を回転させた。頸椎が折れ、藩寒は絶命。
そこで文潔は汪淼に目を向け、皆に紹介した。

ナノマテリアルが、地球上から最初に消滅させたい技術だとも言った。
このあいだの紅岸の話の続きをしましょうと言った文潔は、三体のオブジェ前で言う。「話はまだ始まったばかりですよ」

22 紅岸(五)
紅岸プロジェクトが文潔を呼び寄せた理由は、彼女が発表した論文。それは太陽の数学モデルの構築。

紅岸の受信オペレーションは太陽雑音障害に悩まされていた。
そのために研究を始めた文潔だが、半年で行き詰まった。

そんな試行の中、太陽の「エネルギー鏡面」とでもいう特性を知る文潔。
太陽に、あるレベル以上の電磁波を送ると、それが数億倍に増幅されて太陽系外に送信できる。

それはⅡ型文明のエネルギーレベル。この確信を得るための送信実験を申し出たが、膨大な手続きの前に断念。
だが装置オーバーホール後のテスト送信チャンスを狙って、文潔はそれを実行した。後で知って怒る楊衛寧。その二十分後、楊が通信部に確認した限りでは受信確認出来なかったという。
だが実際に信号は太陽によって増幅された、地球文明が初めて発した叫びとして宇宙全体に広がっていた。

23 紅岸(六)
それからの8年間は、文潔にとって最も静かな時期。各作業がルーティーン化して行った。
外界では米ソの冷戦による核兵器競争。
紅岸基地へ赴任して四年後、文潔は楊衛寧と結婚した。反革命の者との結婚で楊はチーフ・エンジニアからヒラの技術者になった。結婚を受け入れたのは感謝から。

ある夜、丁度夜勤の当直だった文潔は、妙な信号に気付いた。
有意度がCを越えた事がない現システムで「AAAAA」を示した。

文潔は解読システムを起動。
そのメッセージは「応答するな!」が三連続のあと以下。
「この世界はあなたがたのメッセージを受け取った。警告します。応答するな!もし応答したら、送信座標が特定され、あなたがたの惑星は侵略され、征服される・・・」
かつて文潔が基地からメッセージを出してから九年足らず。

四光年程度と考えれば場所はケンタウルス座アルファ星系か。
次いで流れ込む信号をリアルタイム解読にかける。四時間あまりで文潔は三体世界の存在を知り、滅亡と復活の歴史、移住計画を知った。
文潔は部屋で作業している者に覚られないよう、通信内容を既存のものとすり替え、メッセージを暗号化サブディレクトリに入れた。そして文潔は、短いメッセージを太陽に向けて送信した。

他の当直者が訝ったが、それは三秒で切られたため無視された。
その内容は「来て!征服に手を貸してあげる。私たちの文明はもう自分で問題解決できない」
そこで気を失った文潔は、基地医務室に担ぎ込まれた。

医師からおめでただと告げられた。

24 反乱
葉文潔の話が終わり、沈黙が降りる。初めて聞くメンバーもいた。ナノマテリアルに話を移す文潔。

それで軌道エレベーターが開発されれば、地球側の大規模防衛システム構築が可能になってしまう。
その時大きな音がして店のドアが破られ、兵士たちが突入。

最後に入ったのが銃を持った史強。
抵抗した一人が倒された。抵抗するなと警告する史強。その時集団から三人が飛び出す。その一人は藩寒の首を折った美少女。
オブジェの金属球三つを三人が手に取った。それぞれが1.5キロトンの核爆弾だという。

重さを示させると、一つは異常に重く、本物。
史強が本物を持った少女に近づき、爆弾を銃で撃った。核爆発は起きず、通常爆発でその少女が死んだのみだが、史強ら数人は放射能被曝を受けた。三体協会メンバー十数名が射殺され、文潔ら二百名以上が逮捕された。

25 雷志成、楊衛寧の死
葉文潔に対する聴取。雷政治委員は、地球外知性からのメッセージを知っていたが文潔が返信した事までは知らず、この件を秘匿せよと命令。それは本件を最初に発見した人物になるため。
文潔は受信システムのアース線を緩め、トラブルを演出。

必ず雷が修理のため崖を下りると踏んでいた。
予想通り雷がロープを使って崖を下りる。だがその時、夫の楊衛寧も来て手伝いのため降りて行った。このチャンスを逃すわけには行かず、文潔はナイフでロープを切った。
以上の記述にサインする葉文潔。

26 だれも懺悔しない
雷志成、楊衛寧の死は事故として処理された。文潔のお腹の子も次第に大きくなった頃、文革当時の警戒が緩み、子供たちが勉強のため訪れる様になった。簡単な科学の問題について教えてやった文潔。

そんな事が重なり、多くの子供が彼女に教えられた。
産気付いた文潔は逆子で母体も弱っていたため最寄りの病院に入院し、その後出産。難産で体力もなく、基地には戻れない。

そんな彼女と子供の面倒を見たいという老夫婦が現れた。
その老夫婦の娘家族も含め、穏やかな日々を過ごした文潔。
やがて基地に戻った文潔と娘の楊冬。
その後文潔とその父、双方に対する名誉回復がなされた。
外界に興味はなかったが、娘の教育を考えて基地を離れ、母校で教鞭を執る生活を選んだ。あれ以来三体世界からの連絡はない。

その後、父親を殺害した四人の近衛兵を探し出して会った。
彼女たちはそれなりに辛い人生を歩んでいた。去って行く女たち。文潔にはゆるぎない理想が出来た。

それは人類世界に、宇宙の彼方から、より高度な文明を招き入れること。

27 エヴァンズ
大学に戻ってから半年後、葉文潔は電波天文観測基地設計のプロジェクトに参加し、候補地探しで全国を回った。
その中の候補地で、木を植える外人がいると聞き興味を持った文潔。彼はマイク・エヴァンズといい、ツバメ保護の植林をしていると言った。
父親が石油企業のCEOだが、資金提供はなく独力で行っている。
幼い時、父の会社が起こしたタンカー事故で海鳥が犠牲になったのがトラウマ。生物学を専攻したのち「種の共産主義」を提唱。
それからエヴァンズの消息を聞く事もなく三年が過ぎた後、彼からの葉書を受け取った。彼が植林した森で村が資源の利権争い。
エヴァンズは現在、父の遺産45億ドルを相続している身。
人類の文明は、もはや自力では矯正出来ない、と言って文潔はエヴァンズに紅岸基地と三体世界の事を全て話した。
じっとその話を聞いていたエヴァンズは、文潔に手を差し伸べた。「我々は同志だ」

28 第二紅岸基地
更に三年が過ぎた。エヴァンズからの連絡はない。
その年の冬、文潔は欧州の大学から招聘を受け、研究生として渡欧。ヒースロー空港からヘリコプターに乗せられると

「第二紅岸基地に向かいます」との言葉。
それは石油タンカーを改造したもので、巨大なパラボラアンテナが設置されていた。

船名は「審判の日(ジャッジメント・デイ)」
出迎えたエヴァンズ。教えてもらった周波数と座標で、三体世界のメッセージを受信したという。
彼らは既に出発し、四百五十年後に到着すると言った。
そして彼は文潔に、地球三体運動の総司令官になる事を要請した。

29 地球三体運動(アース・トライソラリス)
地球三体協会(ETO)の内容。
その内部には複雑な派閥構造がある。
降臨派:原理主義的な派閥。エヴァンズの唱える「種の共産主義」の信奉者。人類文明の滅亡を目指す。
救済派:ETO誕生後、相当期間してから勃興。布教の主要ルートはVRゲーム「三体」 シナリオは地球の歴史と三体世界の歴史を重ねた。

プレイヤーの上達に伴い、思想傾向チェックの上メンバーに加える。

三体問題の解決が、地球と三体世界双方を救うと無邪気に信じるが研究成果があがらず、魏成の様な宗教外の者に期待が集まる。
対立関係にある降臨派と救済派。その中で生まれた第三の派閥が「生存派」自分の人生とは関係ないが、子孫だけでも生存を願う。この三つの強大な力により地球三体運動は急速に成長した。

30 ふたつの陽子
再び葉文潔に対する聴取。 

降臨派が独占していた情報について聞くが、分からないとの答え。火は点けたが、それがどう燃えるかはコントロール出来なかった。

第二紅岸基地への攻撃は考えませんでしたか?
主のメッセージがあそこにある限り、そのリスクは冒せなかった。三体世界が地球に送って来たものは電波だけでしたか?
ほとんどは---どういう意味ですか?
三体世界は二つの水素原子核(陽子)を光速近くまで加速して太陽系に向けて発射。二年前地球に届きました。
マクロ・スケールでは陽子二つは無と同じでは?
それは枷なんです。科学の進歩にかける枷。
先の尋問を聞いていた汪淼と丁儀。二つの陽子に関する考察。
煙草のフィルターに例えて説明する丁儀。綿や活性炭は三次元。

吸着面は二次元。高次元の構造が非常に大きな低次元構造を包含出来る。基本粒子には十一次元の時空が存在するという説もある。高度な文明からすれば、我々の世界の技術も焚火程度か。
陽子二つから何が出来る?と聞く汪淼に、虫けらには分からないと返す丁儀。

31 古筝作戦
二日間徹底的に洗浄された史強が会議のテーブルについた。

本来参加予定ではなかったが、引っ張り出された汪淼。
今日の議題は第二紅岸基地「ジャッジメント・デイ」に保管されている三体人のメッセージ奪取について。
常偉思少将が皆からアイデアを募る。
中性子爆弾、低周波音などいろいろ出るが決定打がない。
口を挟む史強。ナノマテリアルのワイヤで輪切りにする案を提示。毛髪の1/10の細さで何でも切断する「飛刃(フライング・ブレード)」と補佐する汪淼。
その案を本命として作戦が立てられる。

場所はパナマ運河の狭小部「ゲイラード・カット」
四日後、その設備が敷設された。作戦コードネームは「古筝」
「ジャッジメント・デイ」の前の船が通過し「琴」が立てられた。船が4キロ、3キロ、1キロと迫る。
そして眼下を船が通り過ぎて行った。

途中、切断されたクルーの身体が転がる。
船尾が鋼柱の間を通過すると、数十枚にスライスされた船体が岸にぶちまけられた。そして捜索が始まる。
三日後、聴取を受ける葉文潔。
我々は、降臨派が保存していた三体世界からのメッセージを全て入手した。総量は二十八ギガバイト。

そして内容予備分析の一部を文潔が読むことを許された。

32 監視員
三体世界からのデータには彼らの形態についての記述は一切ない。人類のイメージに重ねるしかない。
1379監視ステーションの監視員。
乱紀の脱水を免れる代償としての閉鎖空間と孤独。
この日、ディスプレイに異常を感じた。有意度ランクは赤の10。過去に青の2を越えた事はなかった。
自動翻訳が作動し、すぐ表示された。
「このメッセージを受信した世界のみなさんにお喜びを申し上げます。人類社会は直面する問題解決し、地球文明を美しい未来にすべく苦闘しています。我々は美しい理想を抱き、宇宙の他の文明社会との関係確立を願っています」
監視員は失職の恐怖と地球擁護の思いから、地球のメッセージと同じ言語で信号を送信した。
「この世界はあなたがたのメッセージを受け取った。警告します。応答するな!もし応答したら、送信座標が特定され、あなたがたの惑星は侵略され、征服される・・・」

異星文明からのメッセージ受信は、すぐ元首に報告された。そして1379監視員が警告メッセージを送信した事実も。
元首は三体艦隊総司令官を呼び出し、艦隊第一陣の出航を命じた。この星系の三つの太陽運行の危険を説く元首。
いつなんどきこの惑星を飲み込まないとも限らない・・・

33 智子(ソフォン)
地球時間で約8.6年後、元首が全ての執政官を招集した。三体艦隊が出港して二万時間。半時間前に地球文明からの返信があったという。警告メッセージから八万時間あまり。

地球文明との距離はわずか四光年。執政官たちは分析の結果、彼らの技術的発展速度が驚異的な事を知った。
よって三体艦隊が四百五十万時間後に到着した時には、高度に発達した文明のために潰滅する。
それよりも地球は未来の脅威を取り除くために、ここへ星間艦隊を差し向け、我々は滅ぼされるかも知れない。
よって次になすべきは地球文明の科学的発展の抑制。

そこで元首は策定している三つの計画を科学執行官から説明させた。第一の計画はコードネーム「染色」 大衆へ科学に対する恐怖を植え付ける。第二はコードネーム「奇跡」 超現象を見せ混乱させる。
次いで元首は空を示した。それは宇宙に浮かぶ丸いリング。

建造中の巨大粒子加速器。

「智子プロジェクト」に資金投入した。
科学執政官がそれを、陽子をスーパーインテリジェントなコンピュータに改造する計画だと説明。
三体世界の技術は、ミクロスケール世界の十一次元のうち九次元まで操作できる。

それから六万時間が経過した。陽子の二次元展開の、三度目の実験が開始された。電磁ビームにより陽子平面は三体惑星を包むように変形し、完全な球体を形成した。

その後エッチング作業、ソフトウェア調整を経て「智子一号」が完成。
元首の巨大さ指摘に、次元を上げれば小さくなると言う科学執政官。
三次元、四次元と小さくなり、六次元に合わせた時半径五十センチほどになった。十一次元まで移行すれば陽子が元のサイズになるが、それは他の智子が完成してから。
続く三つの陽子の展開は全て成功し、四体の智子が六次元の姿として現れた。命令により四体は十一次元に移行して消失し、智子一号と二号は地球に向かった。
この二体は地球で高エネルギー粒子加速器に潜伏し、意図的に間違った結果を出して物理学者を混乱させる。
人類はミクロ次元にアクセス出来ないため、彼らの能力は四次元以下に制限され、地球科学のブレークスルーは阻止される。
重要な加速器は三基。これへの干渉以外に「奇跡」計画を実行。
写真フィルムに文字を感光させたり、地球人の網膜に文字、数字、画像を映すことも可能。
宇宙背景放射全体をちらつかせようとしたら、智子を二次元展開して地球を包み込み、透明度を調整すればいい。
智子を二体残したのは、互いの瞬間コミュニケート能力による相互モニターのため。また地球の、疎外された勢力との交信も可能。三体世界に新たな乱紀が訪れた。

作戦指令センターでは重要会議が開かれていた。
常偉思少将が話す。我々は既に智子の監視下にある。

今後なんの秘密も存在しない。
その三秒後、ETO以外の人類と、三体世界の間で初めてのコミュニケーションが成立し、その後一切断絶した。
作戦指令センター全員の目に届いたメッセージは
「おまえたちは虫けらだ」

34 虫けら
メッセージを読んで打ちのめされる汪淼と丁儀。
丁儀が言う。割れたコップが元に戻らない様に、三次元構造の低次元展開は不可逆。三体人学者のすごいところは高次元情報を保持する事で全ての過程を可逆的にしたこと。
丁儀が若く美しい女性の写真を見せた。

マクロ原子の発見に際し、貢献した人だという。史強が押しかけて来た持には、二人はすっかり出来上がっていた。
絶望する二人を引っ張り出す史強は、郊外で車を止めて降り、麦畑を指さした。イナゴの群れがびっしりと畑を覆い尽くしている。これが虫けらだ。

こいつらと俺たちの技術力の差は、三体人との差より大きいよな。地球人はどれだけこいつらを滅ぼそうとしても、絶滅どころかのさばっている。虫けらは今まで一度も敗北したことがない・・
「大史、ありがとう」史強に手を差し出す汪淼と丁儀。

35 遺跡
紅岸基地の遺跡を訪れたいと言い、それを実行した葉文潔。
険しいレーダー峰を登り、山頂から広がる雲海を見る。
岩だと思っていたのはアンテナの土台。その隣りに石碑。
紅岸基地跡地(1968年-1987年)中国科学院 1989年3月21日

雲海に沈む夕日が、空を血の赤で染める。
これが、人類の落日--」文潔は静かにつぶやいた。