3001年終局への旅(小説) アーサー・C・クラーク 1997年 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

原題: 3001:The Final Odyssey

前作「2061」詳細及び「2001」「2010」の超おさらいはコチラ

感想
「2001年宇宙の旅」においてボーマンとペアでミッションを行い、ハルの犠牲となったフランク・プールを巡る話。
「死んだ筈だよおトミさん」じゃないけど、千年も宇宙を漂っていて蘇生されたプール。
ストーリーのかなりの部分を占める、軌道エレベーターによる低重力の居住空間。この構造に言及したサイトがある→コチラ
千年後の世界を楽しむプールだが、イイことをしようとした時に割礼(包茎手術)が違和感あると逃げられてしょげたのには笑った。
未来では神からもらった体に手を加えるのが不敬。

だがそんな事言ってもブレインキャップだのチップ埋め込みだの勝手にやってて、それはオカシイで。まあ、単なるネタ作りか。
千年も経てば通常の生殖が成立しているかも怪しい。
地球(ただしタワーでの半重力)の生活に見切りを付けて、船長と共にルシファーの衛星ガニメデへ行くプール。
そこで更にエウロパのグレート・ウォールに接触してボーマンとハルのコンタクトを受ける。
ボーマンたちの上司とも言える、モノリスを作った存在が人類を抹消しようとしている。
道具としてのモノリスをやっつける武器がコンピュータ・ウイルスだと知ってガックリ。
これじゃあ「インディペンデンス・デイ」と同じ。実際あとがきで「ID4」としてクラークがこの映画に触れている。映画の方を「予知的盗作」と言っているが、映画は1996年7月に公開されており、あとがきが書かれたのが1996年9月である以上ツラいところ。
だがそもそも、大御所のアイデアとして「二流SF映画」程度では、ちょっと悲しい。
それから、モノリスに取り込まれた者として、もう一人フロイドがいた筈(「2061年宇宙の旅」)だが、本編では終始ボーマンとハルのみ。
せっかくメンバーに加えておいてシカトではかわいそう。

終局では、ボーマンらの言う「上司」が、モノリスの消滅を知って報復が届くのに九百五十年の猶予が残されている、と結んでいる。
しかしそもそも論として「2001年--」でボーマンが通った宇宙のターミナルは、別宇宙を繋ぐものだったのでは?
それなら「光年」などという概念からも自由だったはず。
クラークはどうしても自縄自縛的なところがある。
それから冒頭の場面で、ゴライアス号の任務である宇宙氷山の運搬に五十年かかると言っていながら、あっさりプールと合流している。

この辺の時間感覚のズレは、執筆年齢の弊害だったのか?
それから、前の作品の文章が安易にコピー&ペーストされている。

これも年齢の弊害だな。

読み飛ばしている様でも、人の感覚はごまかせない。

この物語が続く可能性は残されたが、これを書いた時クラーク氏は80歳。そして彼は90歳で他界した。




あらすじ

プロローグ 魁(さきがけ)種族 

(2010年宇宙の旅 51 大いなるゲーム と重複)
魁種族(ファースト・ボーン)と彼らを呼ぼう。
人間とは異なる種族だったが肉体を持ち、力を持つと同時に星々へと乗り出した。
だが銀河系に亘って精神以上のものを見い出せなかった彼らは、そのあけぼのを促す事業についた。
種を撒き、時に収穫を得た。そして太陽系に入る。生命に満ちた世界。彼らは修正にかかり、多くの生命に干渉した。

実験の成果を知るには百万年が必要。
その時は不死でなく、残した者に託すしかない。
地球を最初に訪れた者の肉体は限界に達し、次は機械に乗り変えた後、空間構造に知識を蓄える、純粋エネルギーの者となった。
いまや彼らは銀河系の覇者。

しかし出自たる、海の温かい軟泥を忘れてはいなかった。
だが彼らも、いつまでも創造主の指令には従わない。

彼ら自身の目標を見つけ、求めるのだった。

第一部 スター・シティ
1 コメット・カウボーイ
宇宙曳船ゴライアス号船長ディミトリ・チャンドラーは、カイパー・ベルトから宇宙氷山を集め水星や金星に送る仕事をしている。

この荷を届けるのに五十年はかかるが、ある日地球からのメッセージを受けて、レーダーが拾ったものの回収に出向いた。
五時間後、ゴライアス号はその物体を見つけた。

小さい2mほどの金属。
目で観察出来る距離に近づき、チャンドラー船長は驚く。

そして地球に送信。
「年齢千歳の宇宙飛行士を乗せようとしている」
 

2 めざめ
フランク・プールは目覚めた。だが何も覚えていない。
一息吸うごとに消毒剤のかすかな刺激臭。十代の時事故で肋骨を折った時の事を思い出すと同時に、記憶が蘇えった。
機密のミッションを帯びて木星へ向かう途中---
暴走するスペースポッドの突進。切れた空気ホース・・・
恐らくデイブが助けてくれたのだろう。

だがここはディスカバリー号ではない。
思考が突然断ち切られ、婦長と二人のナースが入って来た。
何度か試し、ようやく「こんにちは!」と言えた。

だが婦長は唇に指を当てて「話すな」の指示。
重力をあまり感じない。とするとどこかの惑星か、もしくは人工重力を備えた宇宙ステーション?
質問をしようとした時、婦長が何かを首に押し付け、彼は意識をなくした。
 

3 リハビリテーション
再び目覚めた。ここはどこなんだ?の質問にアンダースン教授が説明してくれる、と言う婦長。彼をプールと認識している。
アンダースン教授は小柄な、いくつかの人種を合わせた様な風貌。
死んで、その後ここに運ばれて蘇生された?と言うプールにそのとおりと肯定する教授。そしてここを地球の近くだと言った。
いまは何年ですか?と聞いたプールに教授は言った。今は四番目の千年期(ミレニアム)に入ったところ、君は千年も前に地球を離れた。
「信じますよ」穏やかに言ったものの意識を失うプール。
 

意識がもどると、豪華なスイートルームが与えられていた。
まずは体力回復。そしてここの言語の習得。

それにつれて訪問者も増えた。過剰な保護も感じる。
だがインドラ・ウォーレス博士の到着がそれを変えた。
彼女の人種的要素には日本も含まれているようで、とうの立ったゲイシャ・ガールに見えなくもない。
公式ガイド及び教師役として来たという。
まずは彼に識票(アイデント)が必要だと言った。

彼女はドアにあるプレートに手の平をあてた。そこに表示が現れる。
ウォーレス、インドラ[F2970.03.11/31.885//歴史・オクスフォード]
その内容を概ね理解したプール。生まれた時、手の平にナノチップが埋め込まれるという。
だが彼の場合読み取り装置エラー回避のため、誕生日の千年繰り上げを提案された。それを許可するプール。
 

4 ながめのいい部屋
アンダースン教授から散歩の許可が出たと言って、インドラに連れ出されるプール。重力は地球の半分程度。

二百メートフほど歩いて、ここが非常に大きい事に気付く。

そして小型ではあるが、電車がある事にも驚く。

それに乗って展望ラウンジに向かうという。
速度と経過時間からみて三キロは移動しただろう。
ドアが開くと、大きな透明ガラスの向こうは宇宙空間。
インドラが遠くを見るように指さした。まっすぐな線が見える。
ウインドウの上から下まで伸びている。もっと近づけば真下が見える、との言葉に覗き込むと、はるかな地中海。

タワーは曲率からいくと直径数キロはある。
ここの高さは二千キロメートル。上方へもタワーは伸び、三万六千キロの静止軌道にまで通じていることだろう。
先ほど見た線は「アジア・タワー」四本作られており、赤道上に等距離で並んでいる。
空のてっぺんを見て驚くプール。「あれは何だ!」
ルシファーだという。あまり熱は送らないが、あれのおかげで月はお払い箱。元は木星と言われていた。
 

5 教育
テレビ受像機が運び込まれて喜ぶプール。

彼の目から見ても旧式の受像機。博物館所蔵のものだという。
コメディ、スポーツ番組、ドキュメンタリー・・・
だがチャンネル・サーフィンを一週間続けた後、テレビの撤去を申し出たプール。
その後面会などで忙しくしていたところへ、再びテレビが届いた。

インドラが、あなたが見なくてはならないもの、と言って2000年12月31日のニュース番組を見せた。次のミレニアムが訪れる時の模様。
千年先の未来に対する展望を語るコメンテーター。
鐘が午前零時を打ち始めた時、新しいコメンテーターにチェンジして3001年の年明けを告げ、この千年の経過について説明を始めた・・・
途中で映像を切ったインドラ。自分が2001年に投げ込まれた十一世紀人でなくてよかった、とプール。
これが裏付けのあるものだといいが・・・
 

6 ブレインキャップ
アンダースン教授が言う耐えがたい決断とはスキンヘッドにすること。ブレインキャップ装着のためには必須。基本は永久脱毛。
クリームが塗られ、その後頭蓋帽(スカルキャップ)を装着されてインストールが始まる。
サポートするのはブラインマンという技術者。
静けさの中で方向感覚を失い、つかの間パニックに襲われる。
その後較正スタート。質問に心の中で答える。視力に次いで聴力。その後香り、運動機能へと展開。そして夢のない眠りに落ちた。
目覚めた時ブレインキャップはなく、装置もブレインマンもいなかった。
翌朝にはブレインキャップが出来るという。
最後の装着を経てダウンロードが始まる。心は音楽で満たされ、歩く地面の感触も真に迫る。
この道具があれば第四ミレニアムの世界を短時間で身に付けられる。
エンジニア的好奇心で技術的な質問をするプール。
自分が使っていたテラバイト、ペタバイト等を持ち出すが、彼らの桁はその辺からスタートするという。
それだけでなく、少しデータ圧縮すれば実在の人間情報がすっぱり入るとの事。
 

7 情報臨取
航空宇宙部門の部長アリスター・キム博士が訪れ、プールが遭った事故の記録を持って来た。そこで語られるいきさつ。

ハルに与えたプログラミング・エラーの結果、ボーマンは手動でディスカバリー号を木星軌道に乗せ、ビッグ・ブラザーとランデブーした。
それから十年してレオーノフ・ミッションの結果ヘイウッド・フロイドがボーマンだった者の警告を受けて脱出し、その後木星が恒星となった。
もう一つのメッセージ「エウロパには着陸するな」
エウロパ人は水陸両生。ルシファーの熱ですごい進化を遂げている。
もう一つ。TMA・0があなたの時代より五百年も後の地球で見つかった。それもアフリカ、人類発祥の地。
 

8 オルドバイへ帰る
TMA・0発見のいきさつ。2513年、オルドバイ渓谷で発生した鉄砲水で表土が流され、その部分の深度スキャンにより見つかった。

五世紀前、月で見つかったものと酷似。光を反射しない。
ここは考古学者の宝物蔵。知性のあけぼのにある者たちの捧げもの。
このモノリスこそ、あとに続く無数の神々のさきがけだった。
 

9 天空の楽園
プールは少しづつ会話に慣れたが、ここの民が神という言葉に敏感なのを不思議に思った。インドラは、歴史を変えた教皇ビウス二十世を持出し、造物主の代名詞としてはディアスが使われるという。
アンダースン教授から常住区画への移動を許可されて喜ぶプール。
日常の手伝いとしてダニルという褐色の小柄な男が選ばれた。
移動の前に、インドラが上のレベルへの旅行を提案。

外部エレベーターによる一万二千キロの旅だという。
十席の列が階段状に五層重なっている。動く気配がないまま周囲の景色が変化して、プールはビデオ映像だと思ったが、実は動いていた。
慣性場、もしくはシャープ方式と言われている。
エレベーターは目的地に着きドアが開く、そこはどうやらタワーの一つのフロアで、突き当たりの壁まで五キロはある。
壁ぎわの展望台から見る眺めの雄大さ。湖があり、川もある。
インドラに先導されて歩き回った。

子供の頃行ったディズニーワールドを思い出すプール。
花に見とれている時に、ショックに見舞われるプール。

恐怖の悲鳴があがる。そこにいたのはラプトル。
インドラが気の毒そうに謝る。剪定作業をする恐竜。
能力拡張では、草食動物より肉食動物の方が扱い易いという。

千年に亘る遺伝子工学の成果。ベビーシッターとしても有能。
このタワーを称賛したが、本物とじかに触れた方がいいのに、と聞くプール。インドラは、1/2Gレベルより上に住む人間にとってそれは危険だと諭す。また彼の肉体の推定年齢は50から70の間だという。
もしかしたら永遠に母星の土を踏めないかもしれない・・・
 

10 イカロス賛歌
ブレインキャップ及びその再生装置のおかげで、短期間に多くの知識を吸収したプール。
ある日壁のディスプレイ・ブラウザーをスキャンしている時に、「白鳥の湖」をバックに翼のある人々が飛び回る光景を見たプールは、これをやってみたい、と決意する。
幸いアンダースンはこれに賛同。

どのタワーにも1/10Gレベルの鳥かごがある。
数日のうちに彼のための翼が作られた。
安全ハーネスを付けての数回のレッスンを経て初飛行。

「鳥かご」は高さ五百メートル、直径4キロあまりのエリア。

教官と共に飛行。百メートルほどの高みに昇るプール。
教官が教える飛翔法を次々学び、単独飛行。
周囲は雪をかぶった山々となったり、突然夜になり星空で満たされた。
壮大な風景が消え、教官と二人巨大な円筒の中を飛んでいた。
今度はどんな風景がいい?との問いに笑顔で返すプール。
 

11 此処に竜あらん
その後も飛行を楽しむプール。ある時かなたから飛んで来たのは、妖精の国から出て来たようなドラゴン。その背中に乗る女性。

大きなゴーグルをしていたが、それが外された。
一目惚れしてしまったプール。
ダニルはその事について何も知らなかった。

職能に限界があり、古典的な従者としては不合格。
インドラが教えてくれた。通称ドラゴン・レディ、名はオーロラ・マコーリー。「創造的アナクロニズム(時代錯誤)協会」の会長だという。
おあつらえ向きだ、とプール。
 

12 失望
今までは多忙すぎて女性に目を向ける暇がなかったが、マコーリー女史が恋人募集中と知り連絡を入れた。
ドラゴンに同乗し、腰に手を回すまでになった。

試されるテストをクリヤー。そして彼女の部屋に招待された
あくる朝、しょげきってアンダースン教授に電話を入れたプール。
絶好調で進んでいたが、突然押しのけられた。
彼女は知らなかったと言った。彼が切除されていた事を。
教授は思い当たり、説明をした。割礼の習慣は、後進国では効果があったが、強硬な反対意見もある。
この習慣は二十二世紀まで続いたが、神が作った体に割礼をするのは不敬だとの声であらかた消え失せた。
皮膚移植はすぐ出来ると言われたが、そんな気にはならない。
彼女がお気に召さないアナクロニズムもある・・・

13 異時代の客
彼の不幸にインドラがさほど同情しなかったのは、性的な嫉妬もあったろうか。
彼のいた時代に興味があったインドラは、男だけでなく女性の割礼も調べて憤っていた。
またあの時代の兵器についても。

だがプールにそれを止める力はなかった。
いつも味気ない食事の中で、こってりした料理が出て鹿狩りやバーベキューを思い出した。食材の質問をすると、インドラは不快な顔をし、アンダースンが説明を続けた。
動物を--食うために育てるという行為は経済的に不可能になっていたが、とどめを刺したのは病気。食用動物の脳を冒して大量死した。
胸躍らない食事を思い出すプール。
 

周囲は彼の居心地を良くしようと腐心するが、夢の中でしばしば昔の暮らしに回帰した。
父母、叔父、弟・・・そしてヘリーナ。帰還しなかった時のために子供を欲しがった彼女。その手はずを整えた時の厳粛さとお祭り気分。
それから千年。子供が出来たかどうかも分からない。
オーロラと違って彼を不良品とみなさない女性もいたが、猟奇的にも見えて興ざめ。
結局自分は「異時代の客だ」との思い。もう一度宇宙の真空に触れてもいいとさえ思った。
そろそろ救いの手が差し伸べられてもいい頃。

宇宙でプールを発見したディミトリ・チャンドラー船長が面会に来た。

彼にとっては命の恩人。
出されたアルコールを飲み干すチャンドラー。ここへは船の修理のために来た。星屑よけの装甲も張り替える必要がある。
ルシファーへ行くという話を聞いて、突然生きる目的を見つけたプール。
かつて木星の名で知られていた世界に、やり残した仕事が待っている。


第二部 ゴライアス号
14 地球よ、さらば
この先何週間も予定が詰まっている中で、木星への帰還についてインドラとアンダースン教授は賛成してくれた。

地球から離れることが最善の療法。
所持品の中で大事なものは「ミス・プリングル」彼の電子的分身である秘書。これから雑事は自分でやらなくてはならず、ダニルが恋しくなりそうだったが、彼は感情を見せず。

スター・シティの最上部に近づく。地球の直径の七倍はある環の外周。
そして、ディスカバリー号の数十倍もある船が離昇する姿は壮観だった、
やめる気はないか?と茶化される。こうなったらあとには引けない。
クルーはわずか男4人、女3人。木星/ルシファーは太陽の向こう側にあり、ゴライアス号は一直線に金星へ向かう。

惑星改造が始まって数世紀。それを見届ける。
いつのまにかゴライアス号は速度を上げる。

スター・シティの全景を見て思い出したのは土星の環。

15 金星面通過
あくる朝目覚めた時に、船は金星に着いていた。

太陽能面への数十年に亘る旅で彗星の核を蒸発させない様にするため、箔で包んである。
その宇宙氷山が金星へと落ちて行く。
堕ちた時には火球だったのが、次第に刻印となって広がった。
運が良ければ恒久的な海が出来るという。

プールは無言の声援を送った。
荷物の引き渡しを終え、満足げな船長。「ガニメデ、今行くぞ」
ミス・プリングル経由でインドラに送信。
インドラから返信。テッド・カンがそちらにいる。文明と宗教は並び立たないとの持論。彼とは議論しないように。愛をこめて・・

16 船長のテーブル
有名な客を迎えても、毎晩18:00に開かれる夕食後のミーティング。
席順をニックネームで決めるのに慣れるのが大変だったプール。
ボルト(構造工学)、チップス(コンピュータと通信)、ファースト(一等航海士)、ライフ(船医と生命維持)、プロップス(推進&動力)、スターズ(軌道計算と航法)
ほら話やジョークを聞きながら、太陽系について学んだプール。
過去に話が及び、クルーたちが二十世紀の環境災害を咎める。
「ぼくを責めないでくれ」とプール。
それよりも二十一世紀の惨状がひどい。無限動力の時代になっての熱危機。地球の半分を反射膜で覆って解決した。
彼らはディスカバリー号の日誌に良く通じていた。
7749という惑星を通過した。それに対し、プールらが探査体を打ち込んだ事も知られていた。その時の事を思い出すプール。
今同様に、13445という小惑星とすれ違うところだった。
平穏無事な旅は続き、新しい太陽ルシファーが行く手を占拠し始めた。

第三部 ガリレオ四大世界
「ツーリストのための外惑星ガイド」から抜粋
木星の巨大衛星に対する記述。
イオは木星の潮汐力の影響で、最も火山活動が盛ん。
エウロパは、ルシファーの熱で氷が溶けた。
ガニメデも新太陽の影響を受けた。テラフォーミングの住人が4万。
カリストはあらゆる大きさのクレーターで覆われている。

17 ガニメデ
目覚めたプール。珍しく寝坊した。百キロ下の下界に畑と見えるものが広がる。船長の来室を受けてガニメデの風景を評するプール。
ルシファーが万年氷を溶かし、景観を変えつつある。
ここの水を金星に運んで行くアイデアを話す船長。

18 グランド・ホテル
グランド・ガニメデ・ホテル。太陽系では「ホテル・グラニメデ」で知られている。唯一のVIPルームが「ボーマン・スィート」と呼ばれていた。
三大与圧ドームはみな直径二キロ。

ドーム内では外界を全く気にせず生活出来る。
イオとカリスト。対照的な環境の違い。
最大の関心事はエウロパ。千年前に対してどんなに変化したかは、目視で見ても分かる。

両生類レベルのエウロパ人は、簡単な建築まで始めていた。
こんな事が千年あまりで起こるのには、あのそびえる高さ数十キロの「グレート・ウォール」にあるのは疑いがない。
モノリスは何らかの目的を持ち、実験の成り行きを見守っている。

19 人類の狂気
インドラへの通信。イオとルシファーとの間で起きる放電現象の壮観。
カン博士にまだ会えていない事への詫び。それから、君を愛してる。

セオドア・カン博士は身長150センチの小男。

ガニメデ唯一の駐在哲学者。宗教論に対する話し合い。

プールも子供の頃の事件を話すが噛み合わない。
かつてチャンドラ博士が、像に向かって祈っていた話もした。
不思議に思っていた話を持ち出す。

「なぜ僕にそんなに会いたかった?」
抱えていたものから解放され、語り出したカン博士。

20 背教者
インドラとの往復通信で、テッドの事が話し合われる。

彼が行おうとしている「神の捜索計画」
テッドとプールの会話。偉大な芸術作品と宗教の関わり。
人類芸術の最高作品は、どんな投票を行っても「アンコールワット」
インドラへの送信。
彼が信じるのところによれば、謎の鍵はエウロパにある。

ここに僕の友人デイブ・ボーマンがいる。
そして何らかの形で「グレート・ウォール」と関係している。

コンタクト出来るのは僕だけだと彼はいう・・・

21 立入禁止
ディム、幽霊を見たことがあるかとチャンドラー船長に聞くプール。

デイブ・ボーマンがほぼ百年に一度、このアヌビスに出ているという。
ディスカバリー号が再起動され、フロイド博士の前に現れた時のもの。
テッドの話では、かつて彼であったものは今も生きている。
人類にとってはTMA・0に進化をキックされたようなもの。

その代償として必要以上の攻撃性を持っている。
推論だが、ボーマンはビッグ・ブラザーの中で人格らしきものが残っている。
エウロパで彼らが生物進化を妨害するなという警告は、アフリカでTMA・0が失敗したからという理屈も成り立つ。
エウロパで次のチャンスに賭けようとしているのか、と船長。
ギャラクシー号救出ミッション以降、クルーが乗った船は力場によって軌道を逸らされる。
ここでプールの役割り。

テッドの説だとそこに到達出来る人間がただ一人いる。
リスクを冒す覚悟があるか?との問いに肯定するプール。

22 危険な賭け
インドラへの送信。今、ゴライアス号の備品だったファルコン号に乗ってエウロパに向かっている。
自殺行為とは思っていない。着陸出来ないとしても、何か学びはある。

第四部 硫黄の王国
23 ファルコン号
船長と交信しながら、エウロパまで四十万キロに近づく。
シャトル提供の責任者は船長。それにフライト・プランを出さない限り許可は下りない。
そこで考えたのは、出発後プールの気が変わったという演出。

船長も知らなかったことにするが、何らかの責任には問われる。

知っているのは二人だけ。

24 逃亡
ファルコン号はフライト・プラン通りエウロパ上空二千キロを航行。

千キロに下げた時、早速ガニメデ管制から横やりが入る。

それを無視して降下しながら思いついたプール。
誰かが艇の自由を奪い、誘導されている・・・
デイブ、私はフランクだ。誘導しているのは君か?・・・
ファルコン号が降下を許されていることに、ガニメデ管制も沈黙。
この一千年、ここまでの接近を許された人間はいない。

25 海底の火
エウロパの海洋世界の描写。木星からの潮汐力のおかげで、氷の下に水はあり、一部熱水鉱床の作用で生物も繁殖していた。

ただし酸素がなく硫黄代謝によるもの。
それらは潮汐力が弱まる中で、破滅を運命付けられていた。
それを救ったのがルシファー。

26 チエンヴィル
土壇場で止められる予感を持ちながら、グレート・ウォールに沿って降下するプール。例のチエン号が遭難したことで付けられた地名「チエンヴィル」のはずれに着陸したプール。
着陸と同時に、録音されていた船長の声。

祝辞と、五日後ファルコン号は自動的に戻ることを伝えた。
船長への暗号通信。ディム、この様式は僕が生まれる前にあったスパイ・メロドラマの様だ・・・

27 氷と真空
チエン号が遭難した時のチャン博士からのメッセージ再掲。
その声はチェン号クルー、チャン博士からのもの。船は三時間前に崩壊したという。そしてエウロパには生命が存在すると言った。
船は氷に穴を開けてパイプから水をくみ上げていたが、薄い氷を破って海草の葉と見えるものが這い上がって来た。
声の主はチャン教授。国際天文学連合大会で会っていた。
大型海草のようなそれは船によじ登ってのしかかり、倒壊させた。

たぶん光栄養生物。

光に吸い寄せられた。照明を消すのが遅れ、彼以外は皆死んだ。
光を得たその生物の発芽の光景。そして遅まきながら自身の照明を消すと、その生物は出て来た水辺まで戻り水面下に消えた。
次いで改めて事故の報告を始めるチェン博士。

28 小さな夜明け
空にもう一つの太陽が昇り、生き物がのろい動きで近づいて来た。
海から上がると町に向かって行った。

外部スピーカーで話すが見向きもしない。もう一度試そう。
こちらはフランク・プール。地球という惑星から来ました。私の声が聞こえますか?
「聞こえるよ、フランク。こちらはデイブだ」

29 機械のなかの幽霊たち
驚きと、圧倒的な喜び。彼の接近はずっと監視されていて、着陸を許された。「ほんとに君なのか?」の問いに、そうだと返されるが、機械的で感情に欠けている。
次いで同じ声で「やあ、フランク。こちらはハルだ」

インドラ、ディムへの通信。
ショック状態から抜けていない。たとえ千年前でも、僕を殺した相手をどう考えたらいいのか。だが彼が悪いのではない。
彼はなに者か。確かにデイブ・ボーマンだが、人間性は抜け落ち本のあらすじの様なもの。

それにハル。どちらが話しているか区別できない。多重人格的な扱い。今後はハルマンと称する。
モノリスは宇宙的なスイス・アーミーナイフ(十徳ナイフ)的なもの。

やりたい事は何でもできる万能装置。
四百万年前アフリカで我々の祖先をひと蹴りして進化を促し、月面の兄弟が、我々が揺りかごから出る手助けをした。
木星モノリスがデイブを吸収し、彼を使って地球を探査した。彼の方でもハルの助けを借りてモノリスの目的をつきとめようとしていた。
モノリスはとてつもなく巨大なマシン。だがそれ以上のものではない。
意識は持っておらず、中にいるのはデイブとハルだけ。
背後にほのめかされているものを考えると、身の毛もよだつ。
ブレインキャップを介して、ハルマンとは心と心でコンタクトしている。
モノリスの巨大メモリに保存されていた、千年間のデイブの体験をダウンロードしてそちらに送る・・・
ところは木星、時は二十一世紀初頭・・・

30 うたかたの世界
木星本体の大赤班に飛び込んだ。
雲の群れが飛んでいる。たぶんその一個でも都市を飲み込むほどだが、生きている。さしずめ超巨大な羊。他にも雑多な生物が見られた。
彼は調査を続けた。木星の生物圏はまさにうたかた。
桁違いの規模だが、エウロパ同様木星は進化の袋小路。ここからは意識は生まれず、文化は石器時代にさえ到達しないだろう。

31 保育園
インドラ、ディムへの通信。

今でも信じられない。木星の生物たちの電波の声ぐらいはキャッチしなければならなかった。木星を太陽化するために抹殺された。
それはエウロパ人にチャンスを与えるため。

何と無慈悲。大切なのは知性だけか?
次の疑問は「エウロパ人は合格するか、保育園止まりか」

デイブの千年の観察結果では、彼らは海を出た時と変わらない。

食うために海へ戻り、眠るために陸へ上がる。

クリエイティブな面は、金属が好きなこと。
さて、予想される質問。「デイブとは何者なのか」
二人ともモノリスのメモリ内のシミュレーション。この千年の間で活動したのは五十年分程度。彼らはこの宇宙ナイフの部品の一つ。
そしてモノリスは時々デイブ、ハルマンを使って我々を監視していた。だからこの着陸も許された。
あと48時間でファルコン号の出発か。

ハルマンとの接触が出来た今、もうさほどの時間はいらない。

第五部 終局
費やした労苦も
はじめの過誤を改めることはできぬ
雨は海に注ぐも
いまだに海は塩水のまま
 A・E・ハウスマン「さらなる詩集」

32 悠々閑々
プールのその後の30年。離れていると情が深まるとの諺に倣い、インドラと再会した時、互いを身近に感じた。
話は進み、娘のドーン、息子のマーティンも得た。
この間にあった惨劇。ゴライアス号が彗星調査の際、爆発に巻き込まれ、チャンドラー船長含めクルー全員が亡くなった。
医師たちに逆らって地上に降りる事を実現させた。
これは警告されていた通り無謀な行い。

十歩足らずしか歩けなかった。
体を鍛えるため、アフリカ・タワーで遠足散歩をしている時に、あの従者だったダニルに会った。声をかけたが、有名人として知っている以外面識はないと言ったダニル。

エウロパ委員会は、この衛星についてを考えるために発足した。だが次第に組織も化石化した頃、新議長がプール入会の決議を行った。
30年前、短時間ながらハルマンが語りかけてきた。

再び話せる確信はあったが、あれ以来沈黙。
今でも連絡を取っているセオドア・カン博士は、ボーマンとのコミュニケーションに挑んでいたが成果なし。
彼はいったいどうやって時間を潰しているのか、という愚痴を彼から聞く。
晴天の霹靂のようにボーマン自身からの連絡が来た。

33 コンタクト
デイブが、大変重要なメッセージがあると言った。
それはブレインキャップ経由で圧縮データとしてダウンロードされた。
メッセージを聞くうちに、平和な暮らしに終止符が打たれたと気付くプール。

34 決断
エウロパ委員会に7名全員の出席を求めたプール。

例のデータダウンロードの前に、モノリス内にいるボーマンとハルについての説明を加えた。
モノリスの上司にあたる存在は、450光年のかなたにある。

そして二十一世紀初頭の我々の行動が既に五百年前に届いている。その上司が次の司令を出していたとすれば、今ごろが届く時期。
我々を進化させるために干渉した「何者」かが、次の決断に移ろうとしている。そしてハルマンはそれに悲観的。

だが助力は惜しまないだろう。
そして各自、ブレインキャップから情報を受け取り始めた。

35 作戦会議
誰もリプレイを催促しなかった。

この筋書きは空想ではないかとの声に、議長のオコナー博士はさそり座超新星(爆発)の問題も符合すると発言。
初めは木星、こんどはさそり座。次はどこか?
合意が現れるのを待つプールは、委員会の質の高さに驚いた。
議論を整理して議長がまとめる。どのように身を守ったらいいのか?
交渉を提案する者もいたが、相手は五百光年のかなた。
一言も発言していなかった男性が「トロイの木馬だ!」と言った。
それに皆が賛同。粛清を求めた議長が発言者、シルグナナ博士に謝意を述べた。
配送システムはハルマン。モノリスが「保管庫」に閉じ込められたものに対して無抵抗なこともあり得る。それらを合体させる。
プールがしびれを切らせた。「その保管庫」とは?

36 恐怖の部屋
歴史は悪夢に満ちている。

痘瘡、ペスト、エイズなど恐ろしいウイルスなどは駆逐されたが、後世の研究のため、いくらかは保存する提案が出された。
激しい議論の末、月の「雨の海」にある孤峰ピコの地下一キロに建設した施設に、それらが入れられた。

ここには毒ガス、化学兵器も送り込まれた。
ピコ保管庫の三種目は、コンピュータ・ウイルスと言われるプログラム。
この脅威に対して最も効果的だったのがブレインキャップ。
またブレインキャップが、試着の段階で精神的に危険な兆候を発見出来るようになり、狂信者が衰退して行った。
サイバーネット犯罪が撲滅された後に残ったのは、数百種ものコンピュータ・ウイルス。そうしてこれらもピコ保管庫に密閉された。

37 ダモクレス作戦
兵器が次第に形をとり出したが、プールはそのチームに関与しなかった。
作戦は「ダモクレス」と呼ばれ、計画を知るのは五十名足らず。
モノリスが、かなりの頻度でメッセージを受け取っているとの情報。
何かが起こりつつあるのは疑いがない。

遂にすべての部品が組み合わされ、兵器が完成した。

見た目は標準的なタブレット。
いやいやそれを受け取ったプール。
ミッションの第一段階が成功するかさえ自信がない。ハルマンにはこの計画を知らせておらず、プールがガニメデに出向いて行う。
あとは相手の意向に期待するだけ。

ハルマンが「トロイの木馬」になる過程で消滅するかも・・・

38 先制攻撃
何十年かぶりのホテル・グラニメデ。早速セオドア・カンの電話。
。だがその時はハルマンとのコンタクト中。早々に切った。
ハルマンが話す危惧。彼らのとてつもない力。
プールは密閉されたブリーフケースを開けた。このプログラムを使えば、モノリスが人類に脅威を与えるのを防げるのではないか・・・
破壊的なものが二十種。ワクチンが存在しないものもある。

これを解き放って欲しい。
モノリスの機能が止まった時の自分の状況が分からない、という問いにはペタバイトのメモリに退避を提案。
ハルマンの協力は取り付けた。
それを実体として届けるのは無人艇。チエンヴィルまで送る。

39 神殺し
アヌビス・シティの全ての住民と共に、セオドア・カン博士も深夜に警報で起こされた。
窓の外を見ると、いつも光っているルシファーの光がない。

その方向に広がる漆黒の円盤。
グラニメデ・ホテルでハルマンからのメッセージを聞くプール。

感染が始まった。我々の回路にもウイルスが紛れ込んだ。
退避がもし出来なかったら、我々のことを忘れないでくれ・・・
市長が、ルシファーが消えたわけではないと市民にメッセージを送った。
その円盤はモノリスの集合体だった。

食は一時的なもので、円盤は次第に散って行った。
その後エウロパのグレート・ウォール、月のTMA・1、地球のTMA・0も消滅した。
エウロパに上陸したプール。

エウロパ人へのおみやげ用の銅線を持っていた。
残されたペタバイト・タブレット。

彼の友人がここに入っている。同時に恐怖も封じ込められている。

40 真夜中-ピコ
この数十日を考えると、これ以上の平和な情景は想像出来ない。
空にかかる地球の光を受けて「雨の海」を光らせる。
月面車が保管庫の入り口に着いた。
プールはガニメデから運んで来たタブレットを引き渡した。
「さようなら、親友たちよ」
彼には、ハルマンの知識が再び必要になるだろうことが想像出来た。
エウロパの召使いが消えたと気付き、反応が返って来るまで九百五十年。
トンネルから、タブレットを運び終えたロボットが戻って来た。
ロボットはトンネルの重い扉を閉めた。
防護メガネをしろとの警告。

そしてロボットは、閃光と共に金クズの山となった。
「消毒終わり」

何という皮肉。自らの狂気を操って人類が救われた。

ここからどんな教訓を引き出すのか。
青く美しい地球が見える。今から数週間後には初孫を抱ける。
どんな神的、霊的な存在がいようと、重要なのは「愛」と「死」だけ。
彼の肉体はまだ百歳には達していない。

どちらを得るにも、まだたっぷりと時間は残されている。