”『砂の女』(日本・1964年)” | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

 

ジェーン・ドゥさんのところで記事アップされている。
結末を忘れていたので再視聴(小説の過去レビューでは結末不明・・・)
心情的なものはリブログ参照。

監督 勅使河原宏
脚本 安部公房
原作 安部公房
音楽 武満徹

 

キャスト
男(仁木順平) :岡田英次
女(砂の女)   :岸田今日子
村の老人    :三井弘次

 

感想
初めにも書いたが、小説は数度、映画も2回ほど観た筈なのに、結末を忘れている事に愕然とした。
これも老化現象か、とやや落ち込む・・・・・ でも気を取り直して。
小説が見つからないので映画で代用。脚本も安部公房だから、まあ内容は一緒だろうという事で。

 

オープニングで、書類に見立てたキャスト表にハンコがポン、ポンと押されて行く演出。
砂浜で昆虫を探す男は教師。

三日間の休暇を取って訪れたが、結局取り込まれる。
冒頭で語られる、世の中で必要な数々の証明書。証明のし忘れはないかという不安。
男女の関係にもそれは侵食している。妻との会話。理屈っぽいのは俺のせいじゃなく、証明を要求するこの事実。

 

証明で成り立っているこの社会で、三日間だけの休暇しか許されていない男が、いわば拉致された。
考えられない理不尽な部落。

それに何となく順応している女への反発。

 

道を外れる恐怖というのは、自分自身にもあった。その恐怖を特殊な手法で目に見える形にする。
かつて常識人だった筈の男が、穴の外に出るため衆目の前での情事を迫る。精神のタガが外れて行く過程が秀逸。

この期に及んで村人との契約が成立すると思っている。

 

逃げなければ、戻らなければという男の心が変化したのは、貯水の事実を見つけた事から。
実際にこんな事があるかどうかはかなり怪しい。

それは「箱男」でも「他人の顔」でも、ちょっと怪しげな技術展開の提示を行う、安部の得意とするところ。

 

エンディング。男にとってはもう、女や腹の子供に対する興味などなく、心にあるのは貯水装置だけ。
結局男なんて、そんなものかも知れない。
最後に残る「せつなさ」。安部モノの感想はいつもここ・・・・

 

オマケ

使った食器を砂で洗うという演出にがく然とした。原作にそこまでの表現はあったか?

 

女がやっていた内職。穴の空いた細かいビーズに、糸を通した針を突き立てると、丁度穴と針が対向した時に針を通るので、一回刺す度に数個のビーズが通る。根気の要る仕事。
誰がやっているのを見たのか。母親とは幼い頃に死別しているので、親戚の家で見たか、友達の家か・・・・

 

砂にぶちまけられたビーズの回収も印象に残った。

ふるいの上にざーっと砂を入れると、砂だけが落ちてビーズが残る。

この映画を象徴している様で、いつまでも心に残った。

 

 

あらすじ

 

砂丘で昆虫を探す男。探しているのはハンミョウの新種。
近づいて来る老人。役人かどうかを気にしている。
疲れて寝ていると、さっきの老人が再び声をかける。
バスはもう出ないと言って、宿を紹介される男。

 

大穴の中に建つボロ家に縄ばしごで降ろされる。
喜々として食事の準備をする女。食卓の上に掛けられる傘。

その理由はすぐに判った。

 

食事の後、砂掻きをする女。村人が、集めた砂を滑車で持ち上げる。

翌朝出発しようと準備し、金を置いて行く男だが、縄ばしごがない。
女を問い詰めるが「すいません」と言うばかり。
不法監禁だと騒ぐが話にならない。

男は崖を登ろうとするが崩れるばかり。

 

女を縛り上げる男。

砂を持ち上げるロープにつかまるが、途中で落とされる。
包みが落ちて来る。酒とタバコ。男手がある家には週一で配給される。

 

女を監禁してしばらく過ぎ、水も底をついた。
仕事(砂掻き)をしないと食料、水は配給されない。

 

やむを得ず女の縄をほどく。

やけくそで焼酎を飲むが、よけい喉が渇いて苦しむ男。
家を壊して梯子を作ろうとする男。止める女。抱き合って転がる。
男はようやく諦める。
水が降ろされ、むさぼる様に飲む二人。

 

男も砂掻きを始めて、奇妙な生活が軌道に乗り始める。
理屈ばかり言う男。

生きるための砂掻きか、砂掻きのために生きるのか・・・
砂を掻かなかったら、誰も私の事かまってくれない、と女。

男は、女に隠れて布を裂き、ロープを作っていた(出来たロープは砂に隠す)。

 

ある日、女にも焼酎を飲ませ、行水を頼む男。

男の身体を拭きながら興奮する女。

 

女が寝入ってから、家の屋根に上り、ハサミで作った引っ掛け具を付けたロープを何度も外に投げる。
何とかそれが掛かり、脱出する男。村人の追跡。
逃げる途中でアリジゴクの様な砂地にはまり、動けなくなる男。
次第に体が沈む中、助けを呼ぶ。

 

村人に助けられ、また穴の底の家に戻される男。

逃げられた女の不信感。
「奥さんいるんですか?」「あんたとは関係ない」ピンで止められた虫。
カラスを捕まえようと、砂地に桶を埋めて新聞紙をかぶせた罠を作る男。カラスの足に手紙を付けて助けを呼ぶという。

 

三ヶ月も経ち、週刊誌を読み焼酎、タバコの毎日。
見回りの男に、もう逃げないから一日に一度だけ外に出して欲しいと頼む男。否定も肯定もしない村人。

内職に精を出す女(ビーズ通し)。ラジオが欲しい。
週刊誌の挿絵に笑った後、突然怒り出した男は、内職のビーズをひっくり返した。
根気よくそれを戻そうとする女に、中味の昆虫を捨てて、入れ物の箱を渡す男。いろりの中で燃える昆虫。

 

村人が集まって声をかける。
「二人で、表でアレを見せたら出してやる」
どうしようか、と女へ振り向く男。「バカバカしい」と女。
一応チャンスだから、と真剣に考える男。そして女を家から引きずり出して脱がそうとする。
はやし立てる村人たち。必死で逃げる女はしまいに泣き出す。
呆然と座り込む男。


カラスの罠の中に水が溜まっていた。雨はずっと降っていない。
毛細管現象だ、と気が付く男。水の心配はなくなるかも知れない。

喜ぶ男は早速図面を描き始める。
表面の蒸発が地下の水分を吸い上げるポンプの役目をしている。

この砂全体がポンプ。
研究次第では貯水装置も作れるかも知れない・・・・

 

嵐が来る。もうすぐ12月。
女が腹痛を訴え、外に助けを呼ぶ男。
村人が二人降りて来た。

女の匂いを嗅いで「子供だな」と言い、女に「いつから?」
「10月から」。あまりに痛がる様子から「子宮外妊娠かも知れない」

女は布団にくるまれてロープで外に出され、病院に連れて行かれた。「イヤだよ」と言い続ける女。
村人に水の研究成果を話そうとしたが、思い留まる。

 

村人が去った後、縄ばしごが残されていた。それを登る男。
海岸に出て海を見つめる。そして男は穴の家に戻った。
貯水装置のフタを開く男。

あわてて逃げ出す必要はない。貯水装置の事を誰かに話したい。話すならこの村人以上の聴き手はいない。
今でなければ、その翌日にでも考えればいい事・・・・・・

 

失踪宣告の書類。期間7年以上。 氏名:仁木順平


 

著者