惑星ソラリス  1972年 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

小説のレビューをやったら、やっぱり映画も観たくなり・・・
前回レビュー(小説とドッキング)

 

監督・脚本  アンドレイ・タルコフスキー
原作       スタニスワフ・レム

 

キャスト
クリス・ケルヴィン (心理学者)     :ドナタス・バニオニス
ハリー (クリスの前妻)          :ナタリア・ボンダルチュク
アンリ・バートン (宇宙飛行士)    :ウラジスラフ・ドヴォルジェツキー
サルトリウス (天体生物学者)      :アナトリー・ソロニーツィン
ギバリャン (物理学者)           :ソス・サルキシャン
スナウト (サイバネティックス学者)  :ユーリー・ヤルヴェト
ニック・ケルヴィン (クリスの父)     :ニコライ・グリニコ
アンナ (クリスの伯母)           :タマーラ・オゴロドニコヴァ
ギバリャンの客                :オーリガ・キズィローヴァ

 

感想
導入部は、バートンを父親の友人という事で、ソラリスの特殊な挙動を説明しているのは、まあ成功だろう。

クリスは心理学者なのに、ソラリス研究に引導を渡す役目を負わされているという設定。だからこそ、ステーションに残っている研究者を冷静に判断出来るという事か。

 

今回の再視聴で、クリスが放射線の話をするのにヒロシマを引き合いにしているのに驚いた。

二役のバートンが凄い。基本若い人が老け顔のメーキャップをしているのだと思うが、禿げ上がったおでことか、実に見事。

 

バートンが、車からクリスの父親に向けて電話をかけるシーンに出て来る都市風景は、東京の首都高速での走行が使われており、これを近未来の風景とした。ネット情報では大阪万博会場を撮影しようとしたが、既に閉幕していたため、代用したらしい。

本人はご満悦だったらしいが、かなりの興醒め。

 

昔観た時の印象より、ハリーが多く語っている。

サルトリウスとスナウトに向かって、ひどい人、なんて言ってるし。
この映画の中心は、やはりクリスとハリーの愛。

最初に現れた時にはロクに相手もせず、彼女を宇宙に飛ばしてしまったが、昔死なせてしまった悔恨が形となって現れた事を知った後の、二人目に対する意識の違いが際だっている。

 

30秒の無重力状態は「2001年宇宙の旅」に対抗して挿入されたのかも知れないが、ハリーに寄り添うクリスの心情が感じられて、印象に残っている。

 

何と言っても、この映画の見せ場はハリーが液体酸素を飲んだシーン。何度観ても胸のあたりがゾワっとする。

でも生き返るのをスナウト、クリスとも知っているので、その凄惨さとの対比がシュール。

 

ラストの解釈で小説と映画が異なる。

レムは、ハリーとの再会に淡い期待を持ちつつ、ソラリスの海に生涯を捧げようというクリスを描いた。
映画でも、クリスがソラリスに残る決心をするまでは同じだが、最後は海が作った、父親を含む郷里のノスタルジーにどっぷり浸かって終わる、という形をタルコフスキーは選んだ。
レムはこの映画のラストが気に入らなかったらしい。

 

自分としてはそれほど悪いとは思っていない。

序盤でクリスがにわか雨に打たれてテラスにぼんやり座っているシーンがあり、ラストでは家の中で自分の父親が雨に打たれている。
海が行った実体化の綻びという事なのだろうが、それもこれもみんな含めて、この不完全な領域に身を委ねようという諦観が感じられた。

ノスタルジーとは、ちょっと違うな。

 

タルコフスキーは、水を扱うのが得意な監督と言われているようだが、まさにこの映画でそれを感じる。

 

解釈はいろいろあれども小説、映画ともかなり上質なSFとして、自分の心の中に生き続けている。
今回「100分で名著」という番組のおかげで、いい振り返りが出来た。

 

『惑星ソラリス』上映前のトークの全長版(37分)
講師:西 周成
(於「深谷シネマ」、2012年2月19日)

タルコフスキーの人物解説。まあ面白い。

 

ソダーバーグ版「SOLARIS」予告編

ピンと来ない。ほとんど別モノ・・・

 

あらすじ
休暇中、父母の家ですごしているクリス。

近々惑星「ソラリス」に赴く事になっている。
父の友人、バートンが訪ねて来る。かつてソラリスに行った事のある宇宙飛行士。クリスが明日ソラリスに発つと聞いて、ビデオを見てもらおうと考え、来訪。父親もソラリス研究に関わっていた。

クリスは、ソラリス研究の決算に関わる、事務方の立場。

突然のにわか雨でずぶぬれになるクリス。

 

ビデオを見る段になって、父は用事があると席を外す。

そのビデオは何度も見たという。

ソラリス探検の最中に、生物学者のフェルネルが戻らないトラブルが発生。捜索隊を出したが、バートン機だけ帰還が遅れた。

バートンは錯乱状態(宇宙飛行経験11年)。

その後一度も宇宙に出ず。
その後自分の見たものの事実を発表したいと申し出た。
そこで語られる海の挙動。

 

 

 

霧の中に入った時、コロイド状でプロペラ回転が落ち、霧のない円形の場所に出て回避。
そこに巨大な赤ん坊が浮いて動いていた。

その他海上の構造物に関する証言。
ミッシンジャー教授が援護するも、その証言はソラリスのマヒ性大気による幻覚と判断された。
ソラリス研究は、始まった時点で行き詰まったまま。

以後バートン報告は物笑いの種。

 

バートン中座の時に「変な人」とクリス。父も「正直会いたくなかった」。
クリスがバートンにソラリス研究の行き詰まりを訴え、決定を下さなくてはならない時期だと話す。
調査を打ち切ってステーションを軌道から外すか、非常手段で海に放射線を当ててみるか。
不道徳でも目的は遂げられる、ヒロシマのように、とクリス。
君は何を言うんだ、おかしいぞ。

おかしい事はないでしょう、貴方だって幻覚を信じようとなさった。

話は決裂してバートンは帰ると父に言う。

彼は学者ではない、というバートンの言葉に、口が過ぎるぞ、と父。

20年のつきあいだが、止めてもいい。

 

ビデオの解説は続く。
ソラリスの海の研究が進むにつれて、思考力を持つ物質だという仮説が立てられた。今ステーションに居る3人はそれを信じている。

サルトリウス、スナウト、ギバリャンの3人。

 

高速道路を走る風景。バートンが父親に車内から電話を掛け、ミッシンジャー博士の事を話す。彼が、遭難で死んだフェルネルの未亡人を訪ねた時、自分も一緒に行った。そして彼の息子を見た時、ソラリスで見た赤ん坊そっくりだった(ただし大きさは違うが)。

 

湖畔の家。クリスが書類を燃やしている。近づく父と母。

宇宙飛行に際しての書類整理。その中に女性の写真。

 

 

宇宙空間。ソラリス・ステーションに向かうクリスのカプセル。
到着するが誰もいない。

 

 


スナウトを見つけ、ギバリャンとサルトリウスの事を聞くが

「ギバリャンは死んだ」。
特にこの混乱が始まってからはひどいうつ病だった、とスナウト。

またサルトリウスは実験に明け暮れているという。
一休みしたまえ、と言ってスナウトがドアを閉じる瞬間に、ヒトの耳が見える。

 

 

クリスはギバリャンの部屋に入る(入り口に「人間」と書いたメモ)。
荒れた部屋の机に「ケルビン君へ」という手紙。

その下にテープレコーダと拳銃。
録画の再生。これは警告でもある。望んだわけではないが、ここに居る者なら誰でも起こり得る。
これらの調査について、サルトリウス案に賛成。海へのX線照射。

禁止されているが、他に方法がない。

あの奇怪なものに接触するためにはX線を使うしかない。

人の気配を感じてテープを止めるクリス。

 

外へ出てサルトリウス博士の部屋へ行く。

なかなか外に出ないサルトリウス。無理に開けようとするとようやく出る。中に人の気配。上の空で話にならない。そのうち小さい子供が飛び出し、それを押し込めて部屋に入ってしまうサルトリウス。

 

女性が現れ、それについて行くと冷凍室。

そこにギバリャンの死体があった。
スナウトの部屋に戻り、これまでの状況の説明を要求。

君は全くの正常、とスナウト。こちらも話にならない。

 

自分の部屋に戻ったクリスは、入り口に机等でバリケードを設ける。
ギバリャンのテープの続き。
彼らは私を正気でないと思っている。

彼の傍らに女性が。追い払うサルトリウス。
注射器を持ち、自分を裁くのだ、と言う。

あの女は幻覚ではないぞ。これは良心の問題。
クリス、君がもっと早く来てくれたらな。
そこでテープは終わる。

 

ベッドでまどろみ、目覚めると、そこに女性が座っていた。

立ち上がり、クリスに近づいてキス。
僕がここに居るって、どうしてわかった?・・・・  どうして?
ねえ、私頭が混乱して思い出せないの。
愛してる? 何を言うんだハリー、ばからしい。
すぐに戻るから、と彼女を残して出ようとするが、いやよ!と断固として拒否する。
まあいい、一緒に行こう。宇宙服に着替えるんだ。
彼女の服の後ろのヒモをほどくが、それは単なる飾りで脱げない服。

それをハサミで切り離すクリス。

 

 

ロケット発射場。ロケットの入り口にハリーを先に入れ、扉を閉じてロック。そして発射。ヤケドを負うクリス。

そこにスナウトが。現れたか?ひどい目に遭わされたな。

今度は廊下へ出てからボタンを押すことだ。
あれは何だ?わからん、だがある程度推理は出来る。
誰かと聞かれ、10年前に死んだ妻だ、とクリス。

彼女のイメージが物質化したものだという。
X線を使った実験の後現れるようになった。

放射線の一部が漏れて海面に作用したらしい。
君は、知った人が現れたからまだいい。

もし想像しただけの怪物が現れたらどうする?
ソラリスの海は、我々の頭脳から記憶の一部を取り出して物質化してしまうのだ。
すると彼女は・・・・ また現れるかも知れんよ。
なぜ早くそれを。 すぐには信じまい。

ステーションを地球に戻すべきだろうか。

僕はそのために来た。君は研究打ち切りに賛成するか?
打ち切るには惜しい。
後で図書室に来てくれ、とスナウト。

 

次に目覚めた時、再び現れたハリー。自分で服を破って脱いだ。

全く同じ服が二枚。ハリーを抱き寄せるクリス。
ハリーを寝かせて部屋を出るクリス。ドアを閉めると、ハリーが中から強引に開けようとし、無理に押す。
血だらけになって裂けたドアから倒れ出るハリー。

急いで手当てをしようとするが、みるみるうちに傷が回復して行き、治ってしまった。
私、どうしたのかしら?

 

図書室に出向くクリス。ハリー同行。
サルトリウスが、彼らの組成が判明したという。

「お客」と呼ぼう。彼らはニュートリノから成っている。

ニュートリノ系は不安定だが、ソラリスの磁場で安定するらしい。
ハリーを指して「ここに見本がある」。
「僕の妻だ」「いいとも、お美しい」彼女の血を分析してみたまえ。

迷いが覚めるだろう。
正規の解剖をするといい、というサルトリウスに憤慨するクリス。
「君はお客と感情を抱いて接触した」「妬いているのか?」

「かも知れん」。
妬く必要なんかない。これは罰だ。何に対する罰だね? 全てさ。
部屋を去るクリスとハリー。

 

部屋で自分の過去のフィルムを見せるクリス。

父と母、幼少期のクリス。そして家の前に佇むハリー。
私、自分のこと何一つ判らないのよ。あの人、私を憎んでいたわね(ハリーの姿を見て)。
違う、君と知り合う前に死んでいるよ。そんな事ウソだわ。
彼女との事を覚えている、という彼女。記憶の混乱。
あの後は? 僕は転勤で別の町へ行った。

私をおいて? 妻が行きたがらなかった。
思い出したわ・・・・・・  眠るハリー。

 

訪れたスナウト。
海は、我々の睡眠中の考えを物質化する。

だから昼間の考えを伝達しよう。誰かの脳電図を増幅して乗せる。
君が消えて欲しいと思えばそれが出来る。
サルトリウスは別の計画も持っている。ニュートリノ系の破壊。

ハリーが眠っていると聞き、眠りを覚えるとまずい事になる、と言う。

 

眠らないハリー。私はハリーじゃない、と言い張る。

毒を注射して死んだ、と。サルトリウスから聞いたという。
私たち、どうして別れてしまったの? クリスはいきさつを話す。
何日かの言い争いの後、クリスは家を出て行った。

ハリーが死ぬと言って余計に腹を立てた。
しかし翌日、家の冷蔵庫に研究用に持ち帰った毒物があるのを思い出した。
ハリーは死んでいて、腕に注射の跡。その腕を見て涙を流す彼女。
僕が愛していないと思ったからだろう。 今は愛している。

 

サルトリウスの部屋で、クリスとハリーがスナウトを待っている。

遅れて来るスナウト。彼の誕生日。
ハリーの手にキスしたスナウトは、我々は宇宙の征服なぢ考えるべきでない、と語る。我々に必要なのは鏡。

宇宙探検にあくせくするのはバカげている(ドンキホーテ)。
ハリーが発言する。
私たちを邪魔者のように扱うけど、お客はご自分の良心なのですよ。

クリスは私を愛してくれます。愛しているのではなく、良心に従っているのかも。愛されなくても構いません。彼に罪はないんです。
でもあなた方は許せません。私は女として言うんです。

サルトリウスが「君は女でもなければ人間でもない。まだ理解出来んのか」と返す。ハリーはいない、君は彼女の複製に過ぎんのだ。

コピーだ。
そうでしょう、でも私は人間になります。感情だってあります。

信じてください。彼なしではいられません。愛しています。

私は人間です。あなた方はひどすぎます。
「勝手にしたまえ」とサルトリウス。
あなた方は各人各様に人間ですわ、だから議論するのです。

 

酔って乱れるスナウト。この不幸な現象の意味を命がけで調べている男が、酒を飲んではいかんのか?
そして言づてとして17時ちょうどに30秒間無重力になると予告。

 

図書室でハリーがタバコを吸っている。壁には旧い時代の寒村を描いた絵が何枚も貼ってある。舐めるようにそれを追うレンズ。
クリスの少年時代がフラッシュバック。
ハリーが気付いて「あら、ごめんなさい。何かあったの?」 

「別に、何もない」
そして30秒の無重力状態。体を寄せ合う二人。

ステーションの外の海の挙動。

 

割れた魔法瓶。液体酸素を飲んだハリーが倒れている。
スナウトがやって来て「困ったことになったぞ。君が人間扱いするからだ。サルトリウスを見習え」。
「生き返るのを待つさ」

「地球へ帰る時はどうするんだ。彼女はここでしか生きられんぞ」
「困ったな、私は彼女を愛している」「この彼女か、ロケットの彼女か?」
惑わず科学的に考えたまえ。そろそろ生き返るぞ。
苦悶し、のたうちながら蘇生するハリー。
クリスは、これが罰かサービスかは判らない、もうどうでもいい、とハリーを抱きしめる。
こんな私はイヤでしょう、と泣くハリー。

 

目覚めると、ハリーを残してスナウトの元に行くクリス。
窓の外を見て、海が活動を始めた、とスナウト。

クリスの脳電図を照射していた。


自分の感情が説明出来ないクリス。

愛情は自分で感じても説明する事が出来ない。観念だ。
今まで我々が愛したものは、自分とか女とか祖国とか・・・・人類や地球には届かなかった。

もしかすると、我々が人類愛を初めて実感するのかも知れない。
いつのまにかハリーも近くにいる。熱があるようだ。

クリスを支える二人。
ギバリャンは何で死んだと思う? 「あとで話そう」
恐怖ではない、恥のために死んだんだ。

恥の意識がなければ人類は救われないぞ。

 

ベッドで目覚めるクリス。地球の湖畔の家。若い頃の母親。

母親がクリスの腕の汚れを、水さしから流して洗う。涙ぐむクリス。

 

再び目覚めるとハリーがいない。
スナウトがハリーの置手紙を見せる。
クリス、貴方から去るのは苦しいけど、これが最善と思います。

二人のためなんです。私から頼みました。もう誰も恨まないでください。

彼女の思いやりだよ。
君の脳電図を送ってから、お客は誰も来なくなった。

それに海の様相も変わりつつある。島が出来始めた。
海が我々を理解したというのか? まだ判らん。

だが希望が湧いて来た。

 

クリスの自問。人間、幸せな時は哲学的な問題には興味を示さない。そんな事は死ぬ間際に考えるもの。
知識は不安を招く。人間には秘密が必要。

幸福の秘密、死の秘密、愛の秘密。
私の使命は終わった。だから地球に戻るべきか?戻れば仕事も友人も出来るだろう。だが興味は続くまい。
ソラリスの海、これは忘れられないだろう。

何十年も謎を投げかけている巨大な海。これを捨てられるか。
残るべきか。彼女が残していった思い出の中に、残るべきだろうか?
彼女が帰って来るか?その望みは薄い。
ただ待つしかない。何か新しい奇跡が起こるのを待つだけだ。
見つめ合うクリスとスナウト。

 

故郷の岸辺を歩くクリス。湖畔の家に近づく。窓から中を覗くと、家の中で水が落ちて本を濡らしている。その先に父親の姿。父親の肩口にも水が掛かって湯気を立てているが、父親は意に介さない。
クリスを認めた父親がドアを開ける。その足元にひざまずき父の足を抱きしめるクリス。その肩をそっと手を置く父。

 

次第に引いて行くカメラ。家が小さくなる。そこは周囲数百mほどの、島のようなエリアで、海に浮いていた。霧でかき消える風景。