朝日 新聞小説「荒神」(8) 宮部みゆき 終章
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感想
朱音が奥方様とすり変わった事は、当然予想の範囲内。
朱音が食われ、続いて弾正も食われた後のせめぎ合い。
これもほぼ想定内。
終盤で急に畳み込んだ感じで、今までの流れとのバランスがあんまり良くないナー、という印象。
全体の感想としては、まあ名の通った作家の新聞小説なので、ある水準には達していると思うが、登場人物がやはり多すぎ。香山藩と永津野藩の関係を説明をするのに、人をいっぱい使った割りに、ちょっとかじって打ち捨てられる感じであり、ストーリーを追う妨げになる。
それから、何と言っても「絵馬」ネタ。結局メインの謎とはほとんど関係なかったわけであり、これはハッキリ言って肩スカシ。
また、マンガ家の挿絵で怪物を実体化しすぎたのが、却って話を小さくした印象あり。
話としてもあの怪物は、例えば精神に働きかけるものと言った位置付けなら、柏原家の呪術との関連付けで、ナットクし易かったかも知れない。
怪物の出る場面ではけっこう毎日の展開が楽しみで「新聞小説」らしいと言えば、らしいお話しでした。
宮部みゆき的にはどうなんでしょうね。
篠田節子あたりだったら「イビス」のノリでまた別の面白さが出たかも知れない。
あらすじ
第五章 荒神 387~386(4/13~4/30)
怪物が姿を現した。最初の姿からは一回り小さくなったが、その分より凶暴に、素早くなった。
兵士たちが投網を投げ、弓矢を射掛けるが、怪物の鉤爪はあっさりと投網を断ち切った。
その時、鐘楼の屋根の下で丸くなっていた奥方様が立ち上がり、打ち掛けを脱ぐとそれを和尚の体に掛け、立ち上がった。
篝火に照らされたその姿は朱音だった。
兵士たちは驚愕し、弾正までも狼狽、逆上した。
朱音に向かう弾正の突進を阻んだのは左平次だった。
弾正の肩を掴む。
朱音と向き合って動きを止める怪物。
朱音は怪物から目を離さぬまま、帷子を脱ぎ落とした。
その肌を這い、上に下にと動く呪文。
歌声の様な呪文が朱音の口から流れ出る。
ゆっくりと怪物に両腕を差し出す朱音。
「つちみかどさま」「さあ、参りましょう」
次の瞬間、怪物の頭が動く。大口が開き、朱音の体がふわりと浮いた。そして怪物の口の中に消えて行く。
急激な異変を起こす怪物。
白い斑点がどんどん広がり鱗も消えて行く。
身体の形も変わって行き、うずくまる怪物。
怪物はほとんど人の姿になった。
「-朱音」弾正がふらふらと怪物の前に出て来た。
「これが呪文の力か」「何と美しい」心からの賛辞。
そして弾正は「朱音よ、天下も統べてやろうぞ」
哄笑する弾正をひたと見つめる怪物。そして口をいっぱいに開け、素早く半身を伸ばすと弾正に食いつき、呑み込んだ。
怪物の身体に再び異変。
白かった肌が足先から黒い鱗が戻って来た。
「いかん、早く倒さねば」宗栄が叫ぶ。
怪物が朱音の心を持っているうちに倒さなくては手遅れになる。
宗栄は蓑吉に指笛で源じいに知らせる様叫ぶ。
蓑吉の指笛に応える源じいの指笛。宗栄は源じいに怪物の急所である首の付け根を教えた。撃つ源じい。
怪物の肩に血しぶき。鐘楼の柱に倒れかかる怪物。
兵士たちも集中的に怪物の首を狙って発砲。
体勢を崩し、鐘楼の屋根に倒れ込む怪物。
仰向けになった怪物の腹に次々と攻め寄せる兵士たち。
とうとう黒い鱗が消えうせ、全身が白い肌に戻ると、怪物は動きを止めた。
最後に宗栄の介錯で息絶える怪物。
怪物は頭と足先の両方からじわじわと灰になって行った。
灰は風に乗って天に舞い上がった。
「山神様のお慈悲じゃ」とじっちゃが呟く。
関係する人々のその後が語られる。