食中毒の季節に | 救急医の戯言

救急医の戯言

元呼吸器内科医であった救命医が、患者として2回手術を受けたこと、最近の医療について思うことを思いつくまま書いてみました。

 ある日の23時ころ、20台半ばの女性が救急外来にやってきた。

聞けば、1週間以上下痢が止まらないそうだ。

 1週間止まらなくて、どうして深夜の救急外来に来るのかは、わからない。

 正直言って、快活さというものは微塵もなく。こちらが聞いたことだけにボソボソと答えるのみ。

 一人暮らし。

 変なものは食べていない。

 血便なし。

 

 で、職業を聞いたら、いかにも答えたくなさそうに、細胞とか、細菌を扱う会社に勤めてます、と。おーい、それを早く言わんかい。

 「どんな細菌を扱っているのですか?」

 「えーっと、大腸菌、サルモネラ、あとチフスとか、、、」

 

 あれまあ、

 「で、クリーンベンチで厳重な管理下で扱っているんですよね?」

 「いえ、手袋はしますけど、、、」

 

「じゃあ、これらの細菌に暴露して症状が出ていることは否定できないわけですか?」

「ええ、否定はできないかと」

 

たしかチフスだと第3類の感染症だったような、、、

いずれにしても病原菌が特定できないと話にならん。抗菌剤も出せないし。

 

仕方ないので、採血、点滴をさせていただき、その間に検便をなんとか出していただいた。

翌々日の消化器内科への紹介状をしたため整腸剤を処方しお帰りいただいた。

紹介状には、マズイ菌を扱っているらしいことはしっかりと書き加えた。

 

受診の日、本人から病院に電話があり、少し症状が良くなってきました。今は就職したばかりで休めるようなご身分ではないのです。受診はキャンセルしてもいいですか?と。

 

結局、仕事が捌けた後、受診しやすい救急に駆け込んだら、オオゴトにされてしまった、ということか?

便培養の結果を見たら、キャンピロバクターが生えていた。

鶏肉を加熱不十分で食したか、あるいは、生焼けの唐揚げでも買ってたべたか、まあそんなところで、職域での汚染ではなかったようだ。もちろん、さらなる治療の適応はなし。やれやれ。