深夜の救急搬送と、2024年問題 | 救急医の戯言

救急医の戯言

元呼吸器内科医であった救命医が、患者として2回手術を受けたこと、最近の医療について思うことを思いつくまま書いてみました。

 4月以降、私達が働く町では午前2時以降タクシーは走らなくなった。大都市ではまさかこのようなことはないだろうが、田舎町ではそもそも深夜にタクシー需要はほぼない。

 あるとすれば、酔っぱらいが帰宅する場面ぐらいなので、タクシー会社にしてみれば泥酔したごく少数の客(料金を払ってくれるかどうかもわからず、しかも吐いたりするし、暴れるし)を乗せるために会社を動かしているメリットがない、と判断したのだろう。

 

 病院は、大変困っている。

 救急搬送される患者さんの7割以上は実は重症ではなく帰宅可能だ。夜は特に急な発熱、腹痛(尿管結石が多い)、泥酔して動けなくなった患者搬送(警察は引き取ってはくれない)が大半で、残り3割が掛け値なしの重症患者さんだ。で、救急車を呼ぶ動機が半分は他に交通手段がないから、という理由なのだ(一人暮らしだったり、全員酔っ払っていたりなどなど)。当然、帰宅する足はない。どこかの自治体で、救急車を呼んで結果入院に繋がらなかったら、その搬送について7700円を申し受けている、という事例が報道され問題になったが、流石にわが病院は救急搬送に7700円は申し受けていない。

 

 なので最近は、夜間救急搬送のホットラインが鳴ると、患者さん情報の大事な要件として、帰宅する手段はありますか?という1項目が増えた。

 

 一昨日も泥酔して路上で転倒し、顔面が血だらけだという60歳台の患者さんの搬送依頼があった。電話は0時30分。酔っ払ってはいるが、立つことはできるそうだ。話もできると。案の定一人暮らしで、一緒に居るのは酔っ払った友人のみとのこと。

 病院到着は0時45分。泥酔しているとはいえ、歩けるし、話もまあ通じる。なんとかなるかも。頭と顔面のCTを撮ったら、深刻な損傷はない。他の患者さんの診察、処置をしながら看護師さんに、顔の血液を洗ってもらっていたら、右眉のあたりに4cmの深いキズがあって縫合の必要がある、との報告(1時15分)。局所麻酔をし、傷の中を生理食塩水で丁寧に洗う(1時30分)。縫合は5分とかからず終わるだろう。この段階で、タクシー会社に電話した。2時には業務終了らしいので、タクシーは1時45分に来るそうだ。縫合を済ませ、破傷風の予防接種をし、数日分の抗菌剤などを出し、抜糸の予約などについて患者さんに説明し(理解できたかどうか?)、なんとか到着したタクシーに押し込んだ。

 

 いっそ酔いつぶれていたら、最初から入院扱いとして、朝まで救命センターでお休みいただく。こちらのほうがむしろどれだけ楽か。その代わり、意識障害による救命救急センターへの入院となるので1泊約10万円也、となる。ホテルのスイート・ルーム並だ。