8月14日、曇り | 熊猿の仲 ~ゆうえんのなか~

熊猿の仲 ~ゆうえんのなか~

モンチッチのようなヨメが、ツキノワグマのようなダンさまとのゆる~りとした日常を綴ります。
果たして熊と猿は仲がいいのか悪いのか…。
今日も中年夫婦はとことんマイペースに暮らします。

これはあるひとりのおばさんの物語。

おばさんは今から約40年前に、何の変哲もないサラリーマン夫婦の元に生まれました。
月の満ち欠けを無視して真っ昼間に産声をあげた以外は、これと言って特徴のない(ただし全く可愛くない)女の子でした。
平均的な体重・身長で誕生しましたが、お母さんの遺伝子が強かったため、その後はちっとも背が伸びませんでした。

主役をいつまでもおばさんと呼ぶのは寂しいので、その名をチビ子さんとしましょう。

チビ子さんのお父さんは、自分なりのこだわりをいくつも持っているような人でした。
キシリトールを配合していないガムは食べさせないとか、お子様ランチやお子様カレーは頼ませないとか、サッカーパンツでどこへでも出かけてしまうとか…
窮屈な思いをすることもありましたが、一家は独自のルールの中で楽しく暮らしていました。

お父さんは世の流れに乗るような性格ではないので、食べ物や着る物だけでなく、娯楽においてもひたすら己の道を突き進んでいました。
たくさんの人気アニメやアイドルが存在していた時代です。
友達はみんな流行りの歌に夢中でした。
一方チビ子さんは、毎晩落語を聞かされていました。
お父さんが中学生の頃からファンだったので(何とも渋い趣味)、寝る時には枕元のラジカセ(懐かしい!)から5代目志ん生や3代目志ん朝の声が流れていました。
家族川の字、来る日も来る日も落語です。

数々の名人と、彼らの秀逸な芸。
耳が鍛えられないはずがありません。
かくして、チビ子さんは立派なお笑い脳を手に入れました。

最近何やらちょっとした落語ブームのようですが、チビ子さんはややご機嫌ナナメの様子。
にわかファンが知ったかぶりをしているのが気に食わないようです。
こちとら30年選手だぞ、と鼻息を荒くしています。

お笑いナシには生きられなくなってしまったチビ子さん。
今では家にいるほとんどの時間を、芸人さんのテレビ・ラジオ番組に費やしています。
深夜番組はもちろん、演芸・地方番組のチェックも欠かしません。

チビ子さんは、本当に芸事が好きなら咄家さんの顔面なんて話題にしないでほしいと思っています。
秀逸な芸人さんなら自然にイケメンに見えてくるはずですから。
もはや目線が、ファンというよりマネージャーです。

子供の脳をあまりにも早く成熟させるのも考えモノ、というお話。
あまりに好きが高じると、尊敬を越えて気持ち悪がられるんですって。
チビ子さんからの教訓でした。