最寄り駅付近には3つの大学がある。
そのうちの1つが音大。
大学から徒歩5分のところに寮があって、楽器を抱えた女の子達が出入りしている。
地方から上京してきて仕方なくとか、家賃を少しでも安くあげたいからとか、時間を気にすることなく練習に励みたいとか、住んでいる理由は様々だろう。
あたしの中に"音楽に精通している人は両家の生まれ"という思い込みがあるからなのか、どの女の子も可愛らしくて真面目そうに感じる。
学生寮を体験したことのある顔見知りが何人かいる。
なぜか全員男性なんだけど。
彼らの話を聞いていると、この世にそんなにも楽しい場所が存在するのかと羨ましくなる。
風呂に入ってる無防備な後輩を水責めにしただの、廊下でロケット花火をブッ放して寮母さんに怒られただの、冬場に全裸で中庭を走り回っただの…
みんながみんな、ハチャメチャに暮らしていたわけではないだろうけど。
とにかく面白そう。
果たして女子寮に住むあの子達にも、そんな経験があるのだろうか。
どんなに想像力をたくましくしても、映像が浮かんでこない。
多分あたしの第一印象通り、大人しく暮らしてるんじゃないかな。
オトコというのは団体になると、急に子供のような表情を見せる。
たとえいくつになっても。
たちまち出会った頃の年齢に戻ってしまう。
おじさんが高校生に、おじいちゃんが大学生に…
オンナだって会って話せば、すぐに当時のノリを再現できる。
だけど、どこかリアリティを捨てきれないところがある。
あの頃のあたしに帰るより先に、主婦であり、ワーカーであり、おばさんなのだ。
彼らの独特な連帯感を、冷ややかな横目でチラリと眺める。
オトコって本当にいくつになってもバカなんだからってヤツだ。
なのに、どこかで憧れずにはいられない。
自分達はあんな風になれないと知っているから。
団体生活をするチャンスなんて、実際にはほとんどないと言ってもいい。
フィクションの世界なら、とことん綺麗なエピソードで埋めつくしたい。

でも、リアルでそんなレアケースを掴んだなら、全力で馬鹿馬鹿しいことをするべきだ。
涙涙の感動話や友情物語なんかより、バカやったことの方が思い出に残るはずだから。