民法条文研究~虚偽表示(その1)~ | やぱたんのブログ

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専門学校で20年超講師をしている行政書士・宅地建物取引士です。
また公務員対策として経済・財政、民法、憲法、行政法分野も担当しております。
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  権利関係 第7回

 

 10)虚偽表示とは何ですか

 

(虚偽表示)
第94条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

一.94条1項

✅虚偽表示とは、相手と示し合わせて(=通謀して)、ありもしないことを意思表示として表出することです。表出された意思表示に対応する事実はありません。

✅互いに、「虚偽」であることを認識しているので当事者間では保護するべき利益がないことから、当事者間では「無効」とされています。

 

二.94条2項

✅ただ、当事者以外の第三者が「虚偽の外観を信じて」取引関係に入ってしまうことがあり、当事者間が「無効」だからと言って、「虚偽なことを発出した者」の言い分を「虚偽を真実と信じてしまった者」の利益を無視して重視するのはいかがなものかと思います。

✅そこで民法は、虚偽の外観について「善意」の第三者の利益を保護することとしました。

この94条2項は「権利外観法理」の典型的なケースとして極めて有名で重要です。

【民法94条2項】が想定するケース
   A・・・(通謀虚偽表示=無効)・・・B ⇒(売買)⇒ C(善意)
  ※所有権はAから直接Cに移転すると考えるのが判例の立場(最判昭42.10.31)
【権利外観法理】
 (1)虚偽の外観の存在 = AB間で通謀してでっち上げの契約が存在
 (2)外観作出に関する帰責性 = AとBは積極的に虚偽の事実を作り上げている
 (3)外観に対する第三者の信頼 = 虚偽とわかって取引した第三者には利益ない
 上記の(1)~(3)が当てはまるケースでは第三者の信頼した利益を守り、「取引上の安全=きちんと買ったものは何の障害もなく自分のものになるという」を図る。

✅94条2項でいう「第三者」は 

①虚偽表示の当事者ではない

②虚偽表示の当事者の包括承継人(=相続人)でない

③虚偽表示の目的につき法律上利害関係を有するに至つた者

(最判昭45.7.24)

と定義されています。

例えば、

○仮装譲渡された土地を売買契約によって手に入れた者

○仮装譲渡された土地上に抵当権を設定した者

○仮装譲渡された土地上に抵当権を設定した者に対する転抵当権者

○仮装譲渡された財産を差し押さえた者

などは第三者に当たります。

一方で、

×一番抵当権者が仮装放棄した際の二番抵当権者

×仮装譲渡を受けた虚偽表示の相手方の一般債権者

×仮装譲渡された土地上に無断で築造された建物の賃借人

などは94条2項の第三者に当たりません。