【鹿島神宮（かしまじんぐう）】（茨城県鹿嶋市）
@art.mochida.daisuke
常陸の国一の宮【鹿島神宮】は、高天原随一の
武と剣の神「タケミカヅチ」をお祀りする神社です。
かつて「神宮」と名乗ることが許されたのは、
伊勢神宮（三重県伊勢市）・鹿島神宮・香取神宮（千葉県香取市）のみで、
古くから天皇や皇族貴族の崇敬を集めてきたこの社は、
平安時代の延長5(927)年に「神宮」の称号を得たとありますが、
『延喜式』神名帳に神宮と記されるのは上記の三社だけです。
古来、伊勢神宮の上参宮に対し下参宮と言われ、
都から遠く離れた東国の神社が、格式で他の神社と一線を画し、
なぜ皇室の氏神と並び称されたのか。
それは中臣家（藤原家）の氏神が、鹿島・香取の御祭神である
「タケミカヅチ（フツノミタマ）」である事に関係が深いと云えます。
『古事記』によるとタケミカヅチは、アマテラスの命により
葦原中津国に赴き、オオクニヌシとの「国譲り」の交渉に成功しました。
その後タケミカヅチは葦原中国を平定し、
日本統一の基盤を築いたとされます。
また、タケミカヅチは神武東征の際、
苦境に陥っていた神武天皇に剣（フツノミタマ）を授け熊野平定を助けました。
『古事記』でタケミカヅチと共に派遣されたのはアメノトリフネで、
鹿島・香取神宮とともに東国三社の一社に数えられる
息栖神社（茨城県神栖市）のご祭神の1柱です。
タケミカヅチの武威を以て関東を鎮護してきたこの神社は、
天皇家はもちろん武家からも篤い信仰を受けてきました。
源頼朝や足利尊氏、徳川将軍家など、多くの武将らが、
宝物を奉納した記録も残っています。
そうした雄々しい気風は、12年に一度午年に行われる
豪壮な式年大祭(鹿島神宮は御船祭、
香取神宮は式年神幸祭)に今も健在で、
神代の時代から現代まで、多くの人々に崇敬されています。
古来より鹿島・香取両宮が重要視されてきたのには、
フツノミタマを奉斎した古代豪族の物部氏と、
タケミカヅチを氏神として祀っていた古代有力豪族である
中臣氏(後の藤原氏)の両一族の権力の高さも背景に見て取れます。
鹿島神宮の由緒を辿ると両一族と深い関わりがあり、
それ以前は、物部氏がタケミカヅチとフツノミタマを奉じて、
この一帯を支配していたといいます。
藤原鎌足の時代には両宮の運営を掌握していたという説もあり、
『大鑑』には藤原鎌足が鹿島に生まれ、神宮の神官を務め、
蘇我氏に滅ぼされた都の同族に代わり、
祭祀を司るために奈良の都にやって来たと記されています。
のちに藤原氏の庇護を受ける奈良の春日大社に
タケミカヅチとフツノミタマが勧請されたのは必然なのかもしれません。
中臣一族の本来の祖神はアメノコヤネですが、
タケミカヅチとフツノミタマは中臣の氏神として丁重に祀られてきました。
「伊勢」には天皇家の氏神アマテラスを祀り、
「鹿島・香取」は藤原氏が一族の正統性を
証明するために氏神に祀ったという説もあります。
蘇我氏を滅ぼし絶大な権力を得た藤原氏は、
天皇家の伊勢と「氏神」鹿島・香取だけに
「神宮」を名乗らせたともされています。
家格という格式を鹿島・香取両宮を祀る事で
その手にした藤原氏ですが、それ以外にも
常陸の国を重要視した理由が「海運事業」です。
香取鹿島の周辺は日本有数の水郷地帯。
昔の霞ヶ浦は現在よりも内陸まで海岸線が入り込んでいて、
その出入口を挟み込み、まるで監視する
ような形で両神宮が鎮座しています。
利根川の河口一帯は古代から海運水運の重要拠点でした。
『日本書紀』景行天皇の条には、
日高見国(常陸国の北側の地域)は土地が豊かで
広いから討ち取るべきだ、といった話が登場するほど。
この地を治める事により、関東一帯に強い影響力を及ぼし、
海運事業において莫大な利益も得たと考えられます。
下総(千葉県北部)と常陸(茨城県)の海岸地帯は
東国支配の拠点で、鹿島・香取神宮の地政上の意味合いがみられます。
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