先日のブログで、現在教育省の大臣、Margaret Spellings
がCommission on the Future of Higher Educationという委員会を作って、将来の高等教育のあるべき姿について研究をさせている、という話をしましたが、先日その 2nd Draftが発表されました。
http://www.insidehighered.com/news/2006/07/18/commission
確かに両方のリポートの方を見比べてみると、文体が随分違うだけでなく、若干提言の内容も違ってきていることに気がつきます。というわけで、ちょっと今日はそのレポートの検証並びに解説を、自分の出来る範囲で、してみようかと思います。
リポートはこちら
1st Draft
2nd Draft
1st Draft、2nd Draftともに、全部で6分野における提案がされていますが、その提案の内容が前回と少し変わっています。まず、2nd Draftの最初の提案は、Accountabilityに関してですが、以下のような内容になっています。
1. To meet the challenges of the 21st century, higher education must change from a system based on reputation to one based on performance. We recommend the creation of a robust culture of accountability and transparency throughout higher education. Every one of our other goals, from improving access and affordability to enhancing quality and innovation, will be more easily achieved if higher education embraces and implements serious accountability measures.
(意訳:21世紀に高等教育が迎えるであろう様々な挑戦に対して、高等教育はそのシステムを名声・評判重視のシステムから実績重視のシステムへと変化しなければならない。我々の最初の提案は、高等教育全体が、わかりやすくかつ透明性のある評価システムの文化を作り上げていかなければならない、ということである。そのような(今までと比べて)より厳しい評価方法を用いることによって、我々が現在めざしている目標、例えば大学へより多くの学生が通えるようにすることとか、(恒常的に)大学へ通うためにかかる経費を支払い可能なレベルにするといったことから、教育の質を高め、研究開発を促進するといったようなことまで、これらの目標はより簡単に達成されるであろう。)
訳す際に、かなり自分の解釈を入れましたが、日本語に訳すとこのようになると思います。日本語であったとしてもなんのこっちゃ、と思われるかもしれませんが、要するにここで何が言いたいのかというと、
「名声重視ではなく、実績重視の評価システムの文化を構築することが今後のアメリカの大学の発展の鍵である」
ということだと思います。この提案は前回の1st Draftでは一番最後に回されていたのですが、今回の2nd Draftでは一番最初にもってきています。
ここで大事なのが、「文化」という言葉だと思います。大学や認証機関だけに評価を任せるのではなく、文化レベルにおいて評価システムの確立、つまり国民全体が関われ、そして様々な角度から実績の評価が出来る体制つくりをめざす、という見方が正しいと思います。この評価、いわゆるAccountabilityについての論議は、ずっと長い間行われてきました。日本では最近、大学と認証機関におけるAccountabilityが始まりましたが、アメリカにおいてはそれらの一部の団体だけではもう信頼できない、という論調が主流になっています。
そしてSpelling Commissionはこの21世紀型Accountability Systemともいうべき、新たな評価システムの確立における具体的な案として3つの提言を行っています。まず一つ目が、
A.Create a consumer-friendly information database on higher education with useful, reliable information on institutions, coupled with a search engine to enable students, parents, policymakers and others to weight and rank comparative institutional performance
(訳:学生や親、政策立案者やその他多くの人にとって使いやすい、サーチエンジン機能などを用いて、大学の実績をランク付けして比較できるような、そしてかつ彼らに役に立って信頼性のおける情報満載の大学のデータベースを作るべきである。)
要するに大学に情報がつまったデータベースをつくれということですが、このデータベースのポイントは、
1.大学の実績をランク付けできる
2.使いやすいデータベース
3.誰にでも情報が簡単に理解できる
になります。この3つのポイントに関して、Spelling Commissionは、3つの団体を意識しているようです。一つは、 US News といったようなランキング雑誌であり、もう一つは教育省の傘下にある
National Center for Education Statistics(NCES)、そして、最後は非営利団体のNational Center for Public Policy and Higher Educationです。
まず、最初の大学の実績をランキング付けできる、ということに関してですが、現在このランキング分野で一番用いられているのが、周知のごとく、US Newsになります。しかし、US Newsのランキングはいわゆる評判重視の評価システムであり、このランキングは偏っているというのが昔からの批判の大きな理由の一つでした。
個人的にはUS Newsは当たらずも遠からずだからそこまで悪くはないと思うのですが、ただランキングの手法がそこまで実績に重きを置いているわけではないというのはその通りであり、どちらかというとインプット、例えば、教授と学生の比率、入ってくる学生の質、といったようなもの、つまり教育環境といった方に重きが置かれているわけです。
一方、実績、つまりアウトプットの方も多少はランキングに考慮されていますが(例えば、卒業率や、卒業生の寄付金率)、それはまだまだ表面的である、という見方が大半であり、学生が何を学び、どこまで力をつけたのか、などといった質の部分を考慮したランキングが必要である、ということが今よく聞かれます。Spelling Commissionは、それを教育省が主導で行っていくべきだと主張しています。
そして2番目の使いやすいデータベースに関してですが、これはNCESを意識した発言だと思います。NCES (http://nces.ed.gov/
)、ここは教育関係のデータを集め分析し、リポートを発表するというのがその役割なのですが、実は彼らは何もしていないわけではなく、様々な取り組みをしてきました。
例えば最近NCESが作ったデータベースで、College Opportunities On-Line (通称:Cool)というものがります。ここでは全米7000の大学のプロフィールが載っていて、個人的には政府が作ったものとしては、かなり使いやすく出来ている部類に属すと思うのですが、ここではPerformanceといったような実績部分までは当然踏み込むことは出来ず、大学の簡単な情報が紹介されているのみにとどまっています。Spelling Commissionは、このデータベースをさらに発展させたものをイメージしているのだと思います。
http://nces.ed.gov/ipeds/cool/
そして最後の団体、 National Center for Public Policy and Higher Educationですが、これは情報のわかりやすさという点で重要な役割を果たしてきました。
このNational Center という非営利団体は、2年に一回、各州の高等教育にA-F段階で成績をつけるという斬新な手法をもちいたことで有名で、彼らのリポート、「Measuring Up」 (http://measuringup.highereducation.org/survey.cfm
)は、そのわかりやすさから、多くの政策論議の場で利用されてきました。
Spelling Commission は、Measuring Upのようにわかりやすい評価を、州レベルではなく大学レベルで行う非営利団体を支援すべきだと、このレポートでは提案しています。
さて、このデータベース創設に関するアイデア、それ自体は素晴らしいと思いますが、実際そんなのどうやってつくるのか、というのが率直な疑問です。Spelling Commissionは教育省にデータを集めさせる、といっていますが、はたしてこれがどのような形で実現するのか、7000もある大学をどうやって序列化するのか、実績を評価するためにどの様なデータを使うのか、まだまだ見えない部分は多いです。
それでは、次にAccountabilityに関する提言その2に移ります。
B.Increase publicly available information on the quality and cost of higher education
訳:大学の質と費用に関する情報公開度を高めるべきである
この費用と質、というのは実はアメリカ高等教育において一番皆が知りたがっている分野でありながら、実は一番その真実がわからない分野にあたります。
まず費用に関してですが、例えば、いつかのブログで学費が上昇しているという話をしましたが、それはいわゆる外向きの価格のみであって、奨学金などを差し引いた本来の価格は大学関係者意外は誰もわかりません。一般世間では、学費の上昇が声高に叫ばれていますが、政府からすれば、じゃあ実際価格でどれだけコストが上がってきているのか、学費だけでなく、教授の給料や人件費はどれくらい上がってきているのか、こういった情報は、財政政策を立案する上で非常に重要になっているのですが、実はこれらの問いに答えられる人は今現在存在していないわけです。
その問いに答えられるシステムを作ることが大事である、とSpelling Commissionはいうわけです。そのシステムがすなわち、Student Unit Record (前回のブログ参照)になります。SURによって、一人一人の学費、そして奨学金やローンなど、費用に関するデータを全て網羅できるようになり、正確な費用の情報がわかるようになる、ということがSpelling Commissionの目指す先にあります。
一方、質に関する話ですが、ここでは批判の矛先が明確に第3者認証機関に向けられています。現在の評価手法は、インプットとプロセス重視、言い換えれば、組織運営の方に意識がむけられていて、卒業率や学生が何を学んだかといったような実績は評価する際そこまで考慮に入っていない、ということを指摘しています。また、大学間での比較を可能にしたり、大学レベルではなく学部レベルでの比較、また一般公開度を高めるべきだ、なんてことを提唱しています。
正直、Accreditationに関しては自分はあまり知識を持ち合わせていないので、これに関してのコメントは避けさせていただきますが、Accreditation システム自体が政府の要請に応えていないということは、最近よく聞く話でした。
ともあれ、ここでのポイントはやはりStudent Unit Record(以下SUR)だと思います。SURの最大の目的は、まさにこのコストに関する情報を集めることにあります。僕自身も、上がり続けるコストをかんがみた時、SURの創設は絶対に必要であると思います。
それではAccountabilityに関する最後の具体的提案にうつりますが、
C.Encourage higher education institutions to measure and report meaningful student learning outcomes
訳:大学に学生の学習習得度を測定できるようなシステムをつくることを訴えていく
学生の習得度は、まさに実績を基にした評価システムを構築していく上で重要なキーワードであり、いかにこの習得度を測定できるかが今盛んに議論されています。
しかし学生の習得度を測定するということは、本当に可能なのか?しかも大学レベルで?正直僕としてはわかりません。一つの方法として、学力テストみたいなAssessmentを行うことが一つの提案としてなされていますが、それでは何をもってこの学生は大学で学んだといえるのか?大学で学ぶということはかなり主観的な部分だと思うのですが、それをいかに客観的に測定するのか、今後の展開に注目です。
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さて、最初の提案だけで、ここまでかなり長くなってしまいましたが、このAccountabilityならびに評価に関する提案の根底に流れているのは、大学教育に対する社会の不信感になります。やはりアメリカであっても企業などから、大学で学生は本当に学んでいるのか、という声がよく聞かれるわけで、それが学生の習得度を測れ、という意見がでる大きな一つの理由なわけです。どこの国も抱えている問題は一緒だということですね。
また、上昇し続ける学費がさらに費用対効果に対する疑問を増幅させています。そこまで高い額を支払っているからには、質は保証してくれるんだろうな、という論理ですね。その質の保証を客観的に証明できないのが、現在のアメリカのAccountabilityシステムの弱点であるわけです。実際そのようなAccountabilityシステムをつくることが可能なのか、私にはわかりませんが・・・。
ところで実はこの提案、特に目新しいものではありません。このリポートで報告されているようなことは、何年も前から多くの人が主張しきていることだし、今まで言われてきたことをただ簡単にまとめたようなものだと僕は思います。問題はこれをいかに、誰が実現するかであり、その世論つくりがこのSpelling Commissionの役割だと僕は思っています。正直、このAccountabilityにおける改革はちょっと現実的ではないように思います。しかいこの提言が実現されたら、確かにアメリカの高等教育界、特に教育政策の発展は一気に進むだろう、とは思います。
最初の提案だけでこんなに長くなるとは思ってもいませんでした・・・。あと5つ提案が残っているのですが、どうしようかな・・・とまよってます。