こんにちは。
今回は、小説「宙わたる教室」(「宙」は「そら」と読みます)を読み終えた感想を書いていきます。
なお、この記事はあくまで感想記事であり、小説の紹介記事や考察記事ではありませんので、そのあたりはご了承ください。
作者は伊与原新さんで、2023年に出版された作品です。
ドラマ化もされていますが、私は小説しか読んでおりません。
感想記事なので、あらすじもザックリとだけ書きます。
定時制高校に通う生徒4人と物理教師の計5人が科学部を結成し、いろいろな実験を重ねながら、学会発表という壮大な目標に向かって奮闘する物語です。
ジャンルとしてはヒューマンドラマにあたります。
学園ものでもありますが、よくありがちな青春ものとは違います。恋愛要素もありません。
私がこの小説を手に取ったきっかけは、母が購入したきたためです。
それを借りる形となりました。
私は定時制高校出身です。
在学当時の定時制高校に関する記事も多数投稿しておりますので、もし興味がございましたら「定時制高校」のテーマをクリックして読んでいただけますと幸いです。
定時制高校のリアルな実態と思い出を書き綴っております。
母がこの小説を購入した最大の理由は、息子である私が定時制出身であるからだそうです。
この小説の舞台も定時制ですからね。
実際、私もその舞台設定に強い興味を惹かれました。
早速ですが、読み終えての総合評価を先に書きます。
総評は「まあまあ面白い」です。
物語のプロット自体は確かに面白いのですが、一部の登場人物に感情移入ができず、それが最後まで尾を引いてしまった感じです。
点数にすると、70点です。
では、その理由を書いていきます。
【定時制はそんなに荒れてない】
まず、舞台が定時制高校とありますが、フィクションとはいえ、かなりオーバーな描写になっています。
創作というのを鑑みたとしても現実感がありません。
主人公を含めた登場人物が学校を休んだり、授業を2時限目や3時限目から受けるといったことが非常に多く描写されております。
しかし、実際の定時制は全日制と同じく「単位制」を採用しており、この小説のようなノリで通学していたら、ほぼ間違いなく留年します。
定時制といっても学校によって方針は異なると思いますが、小説では、
「学校敷地内の中庭でタバコを吸い、そのタバコの吸い殻を先生が掃除する」
「授業中にスマホをいじったり、途中退室したり、授業を聞いていなくても、先生から何もお咎めが無い」
「生徒が授業に参加せず、廊下を徘徊するのが日常茶飯事」
「保健室登校できる」
「定時制では、リストカットはよくある事」
といった描写になっております。
確かにフィクションの世界なので多少設定を盛ることは必要です。
そうではあるのですが、私自身が定時制出身なだけに、定時制を知らない人がこの小説を読んで「定時制ってこんなに荒んだ世界なのか」と誤認されてしまう可能性があるのが少し残念に感じました。
私が通っていた定時制では喫煙は絶対にNGです。
校内持ち込みが発覚した時点で即生徒指導、喫煙した事実が発覚した場合は停学三日間(ほとんどの場合は持ち込みと使用発覚のセットで処分が下される)。
それでもタバコ使用を止めない常習者は、問答無用で退学処分。
授業中のスマホ使用(当時は携帯電話)も絶対にNG。
授業中は電源を切るのが大原則で、スマホを取り出した時点で教師から注意を受け、使用の停止を指示されます。
従わない場合は退席させられます。
また、中間・期末試験の最中にスマホが一度でも鳴った場合、一週間の停学処分の上、その期間の試験は全教科受けることができなくなります。
優等生タイプの生徒達は万一のことも考え、試験中は携帯電話を職員室に預けるという完全対策をしていました。
授業中の途中退室もNGです。
いきなり席を立って教室を出ると、すぐに教師がかけつけて事情を聞かれ、正当な理由が無い場合は叱責の対象となります。
授業を聞かない(何もしない)というのもNGです。
プリントまたはノートをとるのを教師が常に目視で確認しています。
何もしていない生徒がいた場合、叱責の対象となり、教師の指示に従わない場合は生徒指導の対象となります。
ただ、さすがに「仕事疲れでウトウトしたり、ボーっとしてしまう」場合は見逃してくれたりします。悪意を持って意図的に授業をサボっているわけではありませんからね。さすがに眠ってしまった場合は起こしにきます(笑)
廊下徘徊も絶対にNGです。
授業が始まる前に教師は廊下を確認し、生徒がいた場合は一声かけます。
そして早退するか、授業を受けるかの二択を決めさせます。
放置することは絶対にありません。
従わない場合は、生徒指導の対象となります。
遅刻などであとから生徒が廊下に出てきた場合も、気がついた教師が授業をいったん中断して廊下に出て、その生徒に注意をします。
保健室登校も原則としてできませんでした。
少なくとも私が在籍していた定時制では保健室登校は認められておらず、必ず教室に出向くことで「出席1」とみなされます。
小説では、養護の先生が「定時制ではリストカットはよくある事」と言っていました。が、さすがに校内でのリストカットは私が在籍していた四年間では一度もありませんでしたし、卒業生達(OB)からもそのような話は聞いていません。
ただ、リストカット自体を校外でしていた生徒は何人かいました。
ようするに早い話が、定時制高校とはいっても校内規則は全日制とほとんど変わりません。
確かに全日制よりも定時制のほうが優しい教師が多く、生徒ともフランクに会話をしたりしてくれますが、規則は規則として厳格に守らせます。
ただ、服装に関する規則はゆるゆるで、ダボダボの寝間着、Tシャツ1枚にサンダルで登校してもOK。上履きじゃなくてもOKです。ただし、廊下を傷付ける恐れのある下駄やハイヒールなどはダメです。
髪を染めるのもOKでしたし、仕事着のまま学校に来てもOKでした(ただし汚れが無い場合にかぎる)。
文化祭などの特別なイベントにかぎり、女子生徒がキャバ嬢みたいな服装をしてきてもお咎めはありませんでした。
車登校もOKでした。
バイクは50ccの原付までと制限がありましたが、車に関しては無制限。
なかには4000ccの型落ちマジェスタに乗って登校する男子生徒もいましたね。
みんなからは「マジェスタ野郎」と呼ばれていて、本人もまんざらでもないようでした(笑)
私も車登校でしたが、乗ってる車は型落ちデミオでした。排気量は1300。
車登校してる生徒は、私とマジェスタ野郎を含めて5人いました。
当たり前ですが、改造車はNGです。マフラーひとつでもダメ。
成人してる生徒はもっといましたが、駅が近いのもあり、電車通学やバス通学などを利用されていましたね。
ちなみに「授業内容のレベルが低い」というのは事実です。
小説では「中学二年生レベル」とありましたが、私の学校はもっと低かったです。
どの教科も小学校高学年レベルの内容からスタートして、少しずつ高校レベルに慣らしていく形でした。
さすがに簿記やプログラミングといった専門的な科目はそのかぎりではありません(私の学校は「商業科」でした)。
1年生の最初の数学の試験では、「1+2」「3+4」という問題が出ました。マジです。
……というわけなので、小説はあくまで創作の世界であると理解した上で、現実の定時制はそこまで荒んではいないし、全日制とほぼ変わらない水準でルールを厳守させられるということをご理解していただきたいなと思います。
私がこの小説のオーバー設定に対して「創作だから」と割り切れずにいる理由は、やはり私自身が定時制出身である事。そして、なにより「定時制で頑張ってるクラスメイト達」をリアルで見てきたこともあり、小説内で定時制が荒れた空間であると描写されているのを見ると(読むと)残念であり、悲しい気持ちになってしまうんですよね。
【主人公や一部クラスメイトに感情移入できない。許せない感情すらある】
私がこの小説に否定的な主な理由は、ここです。
まず、準主人公にあたる柳田岳人。
正直に言います。
キャラクターとして好きになれませんでした。
金髪に耳ピアス、作業着姿と、ヤンキーのテンプレみたいな容姿なのですが、それ以上に性格が最低です。
基本的に気分屋で小説内でも情緒の浮き沈みがとにかく激しい。
決定的なシーンは、第四章で長嶺省造(74歳の男子生徒)と教室で言い争いをするくだり。
授業中に英語教師に何度も繰り返し質問をする長嶺に、岳人が「いい加減にしろよ!」「家庭教師でも雇って家でやってろ!」とブチ切れます。
それに対して長嶺は、「授業とは質問をするもの。それに、君(岳人)や一部の他の生徒達はそもそも授業を聞いておらんじゃないか」と反論。
それに対して、岳人の隣の席に座るキャバクラ嬢の庄司麻衣が「それって違くない?」と岳人の味方をします。ちなみにこの麻衣もスマホをずっといじってて授業を全く聞いていない生徒でした。
そして長嶺が「最近の若者はだらしがない」と発言したところで、岳人と麻衣以外の、同じく授業を聞いていなかった不真面目な生徒達までもが長嶺に反発するようになります。
そして結果的に、岳人と麻衣、そして不真面目な生徒達の計10人ほどが、「長嶺と同じ教室では授業は受けない」という理由で、授業をボイコットする展開になるわけです。
では、私なりの感想と結論を先に書きます。
どう考えても、長嶺省造が1000%正しいですよね。
授業は質問も含め、学習をする場所。
確かに作中、長嶺はやや質問の数が多く、授業の進行が遅れていたかもしれません。
でもその長嶺の行動を、そもそも授業を聞いていなかった岳人と麻衣が糾弾するってのがおかしな話なんですよね。
作中ではその後、長嶺と岳人は和解して科学部のメンバーとして協力関係になっていくわけですが、岳人はこの後も癇癪を起こして長嶺と衝突することになります(それについては後述)。
私は、このブログで約二年前に「定時制高校【18】信用が無い者の言う正論は、風の音と同じ」という記事を投稿しました。
「責任を果たしていない人間には、意見を口にする資格はない」というのが私の持論です。
この意見を言うと、必ず「日本国は法の下で言論の自由をすべての国民に認めている。ゆえにすべての国民は平等に意見をする権利がある」と反論してくる方がいます。
でも、それは違います。
私は法律がどうとかそういう話をしているわけじゃなくて、「人間という感情のある生き物が形成するコミュニティにおいては、それがたとえ正論であったとしても、その正論を口にする人間が普段から堕落した態度で生活をしていて、周囲からの信用がない場合、その人間が口にする正論が人々の心には届くことはない」という意味の話をしております。
「何を言うか」じゃなくて、「誰が言うか」なんですよね。
話を戻しますが、小説内での柳田岳人と庄司麻衣こそがまさにその「責任を果たさずに意見だけをする人間」なわけです。
岳人も麻衣も、長嶺が授業中に質問ばかりするのとは関係なく、そもそもいつも授業なんか聞いてないんですよね。
それなのに岳人は、この日この瞬間だけなぜか「授業の進行を妨げるな!」と怒り出し、そしてこれまた同じようにいつもスマホばかりいじってる麻衣もこの岳人に同調します。
最終的に、この二人に同調した「授業を聞いていない他の生徒達」も同様です。
私は、岳人や麻衣のような人間が大嫌いです。
心の底から大嫌いです。
不良によくありがちなんですよね。
ルールを守らず自由奔放に生きてるくせに、自分が窮地に立ったり、気まぐれの正義感に目覚めた途端に一丁前に権利を主張するわけです。
権利を主張するぐらいなら普段からもっと真面目に生活してろよ、と私は思うわけです。
長嶺と岳人はこのあと和解して物語が進行していくのですが、物語終盤でまたもや長嶺と岳人の衝突があります。
それは越川アンジェラという同じ科学部のメンバーが実験中にミスをしてしまい、それが原因で越川が腕に怪我をし、同時に実験器具が壊れてしまったことが原因でした。
岳人はブチ切れ、越川に「何やってんだよバカ!」と怒鳴り、ミスによって腕を怪我してしまった越川よりも、破損した実験器具のほうにかけ寄るのでした。
それを見た長嶺が、「仲間の安否よりも、実験器具のほうが心配か?目に当たったら大惨事になっていたところだぞ」と岳人を諭します。
それに対し、岳人は「たらればなんか言ったってしょうがないだろ」という、最低な言葉を吐き捨てます。
その後、長嶺と岳人は二度目の和解をして物語はエンディングへと向かっていくわけですが……
私はどうしてもこの柳田岳人という人物が好きになれませんでした。
麻衣も同様です。彼女は物語終盤で科学部に差し入れを渡すという献身的な一面を見せてくれますが、それでも私は岳人同様、麻衣も好きになれません。
私が定時制高校に通っていた当時、実際にクラスに柳田岳人と庄司麻衣と同じタイプの生徒がいたのも、私がこの登場人物を拒絶する理由のひとつになっています(二人とも1年の夏休みがくる前に自主退学しました)。
この「宙わたる教室」という作品は、わりと短めの物語で内容もアッサリとしています。
小説自体もそんなに分厚くなく、時間さえ確保できれば数日でサクッと読み終えることができるボリュームです。
それゆえに人物描写が簡潔に描かれている面もあり、この柳田岳人もまた、「科学部が学会発表に向けて奮闘する」というメインテーマに押し出される形となって、最後まで「不良がただ真面目になっただけ」みたいな感じで終わってしまいました。
ドラマ版では実際の俳優が役を演じるため、俳優の表情の変化や喋り方のトーンの強弱などで人物の心情変化や葛藤を表現することも可能でしょう。
でも小説では、ページに書き綴られている文字こそが全てです。
この小説は、人物の容姿説明が決定的に不足しているというマイナス点もあります。
準主人公である柳田や主人公である藤竹こそ容姿の説明がありましたが、科学部のメンバーである名取佳純には女生徒であるという説明だけで、容姿の説明が一切ありません。
脇役の庄司麻衣もキャバクラ嬢でネイルをしているという説明以外、容姿の説明がありません。
丹羽要という男子生徒にいたっては、容姿説明どころか性別の説明さえありません。
私は丹羽要のことを、作中で「僕が~」というセリフを見るまで女生徒だと勘違いしながら読んでいました。
小説のあとがきを読みますと、実在した定時制高校の科学部をモデルにして執筆したと書かれており、作者としてはその「科学部の奮闘」「実験内容」という点をフォーカスすることに意識が向いてしまい、人物描写やヒューマンドラマ部分の掘り下げがおろそかになってしまったのではないか......と私は感じました。
物語のベースは面白いんです。
クライマックスである学会発表の章は読んでいてドキドキしましたし、物語の締め方も美しく終わった感じがします。
ちょっと上から目線な評価になりますが、長編にして人物描写に焦点を当てていけば、もっと壮大で深みのある作品になったのではと思います。
以上で『「宙わたる教室」を読んだ感想』の記事は終わりとなります。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました!
では、また!













