夜話 1922 八女の『 五十年来の珍事』 その二 | 善知鳥吉左の八女夜話

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 夜話1922 八女の『五十年来』の珍事 その二

 

         釣鐘落とし


享和三亥年二月十一日 現八女市福島町矢原町の正福寺の釣鐘が落下した。

 

室岡村出身の下男の十八になる宗吉が鐘釣りの結びめを修理していたところ、数十年たった金具がいたみ、鐘を搗くたびに痛みがはげしくなり、ついに落下したのである。

鐘の真ん中 真下で修理無作業をしていた宗吉は釣鐘の中にすっぽり入ってしまった。


落下したときの鐘の音はものすごかった。 

丁度お寺で講が開かれていて大勢の参加者がおり、それらの人により鐘は再び持ち上げられた。


中から宗吉がぬらりと出てきた。

千斤あまりの重さの鐘にすっぽりとはいり 無事だったのは「ひとえに如来さまの慈悲のおかげと皆々よろこびあった。

宗吉の身長は金の高さに比べるとよほど高かった。

宗吉の怪我は足の指さきだけだった。


講の参加者の背に負われた宗吉は台所に連れてい行かれるま気を失っていたが間もなく正気にもどった。

そのご至極元気にはたらきそのときより四十年ほど長生きして天保は十二年六月十九日五十九歳でなくなった。


のんびりした昔話ではある。

落下した鐘のなかから宗吉が「ぬらり」と出てきて気を失うところなど、平和そのもの。

また、五十九歳の死亡は如来さまの慈悲の御かげの長命と思われていたことも。

まさに五十年来の珍事だったのである。