夜話 1116 瀬戸内海に藩主の首がどんぶりこ
承応四年三月二十日朝 久留米二代藩主有馬忠頼の首が兄弟二人の小姓によって切り落とされた
参勤の途中の備前塩田浦の沖でのことである
この藩主は性格が奔放で疳癖だったという
ある日 城内で大絵図を見ていたとき 小姓某の袴の裾が絵図にふれた
忠頼は怒って小姓を柱にくくりつけ刀でその股に切りつけた
主君の残忍にうらみをもっていた小姓某は近侍の兄とともに機会があったら復讐をと狙っていた
参勤の船中の朝 忠頼が 首を垂れて顔を洗っていたとき兄弟は主君の首を切り落とし それを抱いて兄弟は海に身を投じた
「藩主は病死 兄弟は殉死とごまかしたので幕府からのとがめはなかったという」と 戸田乾吉の『久留米小史』は伝えている
此の騒動を敏速に処置したのは国老の岸形部だった
大がかりの漁をするといって主君の首と犯人の兄弟の行方をさがしたが発見できなかった
参勤の船はそのまま大阪に向かい 京都所司代に「主君は船中にて発病急死」とどけ幕府の追及をさけたが同船していた後継の四歳になる幼君松千代も船中で病死した
岸形部は松千代の身代わりに現小郡市用丸の大庄屋高松家の四歳の子を身代りにたて三代の藩主頼利としたという
この話が事実とれば難局を切り抜けた国老岸形部は大した人物
作家劉寒吉はこれらの変事に「有馬の猫騒動」をからませた『つくられた明君』という小説を残している
(夜話57を参考)