羊の手の狼に騙されるな | ひまわりのブログ

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羊の手の狼に騙されるな

 

人 物 

南一樹(17)高校三年生

南隼人(15)中学三年生

すなお)(10)小学五年生

草間

(いち)

(ろう)(35)稲田組組頭

川村愛子(50)聖母院児童施設長

成瀬誠(30)神奈川県青葉署巡査

 

〇聖母院児童施設・外観(夕)

   小高い丘の上に立った横浜港を見渡せる赤い屋根の木造二階建て施設。正面玄関には「聖母院児童施設」と表示。

 

〇同施設・応接室・中(夕)

   シスターの姿をした川村愛子(50)は応接室の椅子に座って、成瀬誠(30)と話している。

成瀬「私は神奈川県警の青葉署の成瀬巡査と

申します。青葉区内の児童施設を巡回して特殊詐欺の予防と捜査協力をお願いしています」

愛子「あのう、特殊詐欺とは…」

成瀬「説明不足ですみません。『オレオレ詐欺』といったらお分かりでしょうか」

愛子「はい、存じております」

成瀬「今は、オレオレ詐欺も組織的に分業化していまして電話をかけるかけ子、お金を受取る受け子の役割分担になってい

   ます」

愛子「その役割とうちの施設の子供とどのような関係が?」

成瀬「神奈川県一体を取り仕切っている稲田組が児童養護施設にいる子供達の養父母になると偽って引き取り、子供達を特

    詐詐欺に巻き込んでいる事件が多発しています」

   成瀬、草間(いち)(ろう)(35)の写真の写ったポスターを愛子に手渡す。

愛子「この男が特殊詐欺の首謀ですか」

成瀬「ええ、変装はしていますが、右手首にケロイド状の火傷の跡があります」

愛子「はあ」

成瀬「この男が養子縁組の話を持ってきたら通報後、話に乗ってもらえせんか」

愛子「稲田組のアジトを押さえるためにご協いただけたらと」

愛子「子供たちに危険はないのですか」

成瀬「犯人に分からなよう警護しますから」

   成瀬、小型発信機を取り出して

成瀬「養子縁組した子供の靴の中にこの発信

機を忍ばせて下さい」

愛子「分かりました。協力させて頂きます」

   成瀬、敬礼をして応接室を退室。

 

〇同施設庭・中(朝)

   南一樹(14)が児童三十名の前でラジオ体操を終えようとしている。南隼人(13)は南直(10)を気遣っている。

一樹「ラジオ体操終了。さあ、みんな施設に戻ろう」

   一樹、隼人と直のほうを見る。

隼人「兄ちゃん、直が最後まで体操できた」

一樹「直、頑張ったな。さあ帰ろう」

   直、もじもじしながらコクッと頷く。

 

〇同施設長室・中(朝)

   愛子は応接室の椅子に座って、草間(いち)(ろう)(35)と話している。

愛子「ようこそお越し下さいました」

   ピン・ストライプ柄のスーツを着た長髪の草間、窓から一樹の姿見ている。

草間「ラジオ体操の指導をしていた背の高い子、名前は何と言うのですか」

愛子「あの子は南一樹と言いまして、高校三年生です。とても頭のいい優しい子です」

草間「あの子を養子にしたいのですが」

愛子「ありがたい事です。あの子は来年18歳なるのでこの施設に入れなくなるので」

草間「それでは是非うちに」

愛子「あの子は三人兄弟でして、三人一緒でないと退所しないと言っておりまして」

草間「三人というと、今施設に向かって歩いてきている子たちですか」

愛子「ええ」

草間「一樹君の右横にいる子は?」

愛子「次男の隼人です。この子は運動神経が抜群です」

草間「たしかに良い体つきをしている。左横の子は?」

愛子「あの子は直といいます。両親が強盗殺人事件に巻き込まれまして、その現場を見て自閉症になりました」

草間「もしかすると、南医院強盗殺人事件の関係者ですか」

愛子「ええ、よくご存じですね」

草間「あの事件は報道で騒がれましたら…」

愛子「あの子らと話をしてみますか」

草間「ええ」

愛子「せっかくですから、朝食を一緒に」

 

〇同施設・食堂・中(朝)

   愛子、長い長方形のテーブルに座った児童たちの前で草間を紹介する。

愛子「今朝は、稲田グループの専務さんが見学に来てくださいました。一樹君の隣で朝食を食べてもらいます」

   草間、児童達におじぎをして

草間「草間と言います。よろしくね」

   草間、一樹の右横に座り

草間「一樹君、よろしく」

一樹「はじめまして」

   草間、座ってコーンスープをスプーンですくう。右手の手首にケロイド状の傷が見える。一樹の左横に座っている直

        が怯えた顔をする。直の横に座っている隼人が気づいて

隼人「どうした?直、具合でも悪いのか」

   直、震えながら隼人の腕をつかむ

隼人「愛子先生、直の具合が悪いので、医務室に連れて行きます」

愛「隼人君、お願ね。先生も後から行くわ」

一樹「ぼくも行くよ」

愛「一樹君は、草間さんのお相手をして」

一樹「わかりました」

草間「あの子、直君だっけ。身体が弱いの」

一樹「ええ」

草間「僕はね、君たち三人のことが気に入って養子にしたいと思っているんだ」

   一樹、目を大きく見開いて

一樹「三人ともですか」

草間「ああそうだよ。もちろん直君もね」

一樹「草間さん、一樹の病気の事を知っているんですか」

草間「愛子先生に聞いた」

一樹「知っていたんですね」

草間「君たち、南医院の子供だろう」

一樹「ええ」

草間「南先生に恩返ししたいと思っている」

一樹「そうですか。三人一緒に養子にしてく

れるなら、僕何でもします」

草間「何でも?」

   一樹、真剣な眼差しで

一樹「ええ、弟達を学校に行かせてくれるなら何でもします」

  草間、一樹の右肩をポンと叩いて

草間「安心しなさい。君たち三人はちゃんと学校に行かせるから」

一樹「本当ですか」

草間「ああ本当だ。ただし…」

一樹「ただし…」

草間「三人には、僕のビジネスの手伝いをしてもらうよ。もちろん学校と宿題が終わってからだけどね」

一樹「僕にできるようなことですか」

草間「ああ、アルバイトのようなもんだよ」

一樹「わかりました。弟達に話してみます」

草間「一週間後に迎えに来るよ」

 

〇同施設・玄関・前(朝)

   T・一週間後

         草間、ライトバンを同施設の正面玄関に横づけする。正面玄関には、一樹、隼人、直が立っている。三人を取り囲む

        ように愛子、児童達が見送りの体制を作っている。草間、ライトバンから出て来て

草間「愛子先生、これまで三人の子供達を育ててくれまして有難うございました」

愛子「本当にありがとうございます。三人の事をくれぐれもお願いします」 

   一樹は助手席に、隼人、直は後部座席に乗り、草間は車を発射しようとする。直は震えながら隼人の手を握ってい 

   る。愛子、児童達は、車が見えなくなるまで手を振っている。

 

〇本牧埠頭倉庫・プレハブ小屋・中(朝)

   草間、本牧埠頭倉庫前に乱暴に一樹、隼人、直を降ろす。直、よろつきコンクリートの床に倒れる。

草間「ここがお前たちの仕事場だ」

一樹「草間さんの家の養子になるという約束じゃないか」

草間「おまえ、そんな誘いを信じたのか」

一樹「南医院に恩返しすると言っただろう」

草間「そんなの嘘っぱちさ」

一樹「弟達を学校に通わせるという約束も」

草間「おまえらはここで死ぬまで特殊詐欺の仕事をするんだ。おまえは頭がいいからかけ子、隼人は足が速いから受け子 

 だ。直はお前たちが逃げないように人質にする」

   草間、プレハブ小屋に一樹と隼人を連れて行き、一樹にはかけ子のシナリオを、隼人には住所録を投げつける。

一樹「騙したんだな」

草間「南家の人間は皆、お人よしだな」

   一樹、蒼ざめて

一樹「まさか母さんと父さんを騙して殺したのはおまえか!」

草間「ああそうさ。南医院の土地に稲田組のパチンコ屋を建ててやったさ」

   直、必至に起き上がって草間の腕に嚙みつく

一樹「直、止めろ、逃げろ!」

   一樹、直を助けようとするが、草間に蹴飛ばされる。倉庫前でパトカーのサイレンの音がし、武装警官が突入。一樹、安堵してその場で意識を失う。