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「相棒は秋田犬」

相棒は秋田犬 

副題 現代の縄文犬と共に過ごした3989日

村山二朗 発行所 株式会社カンゼン

2022年9月28日 刊 本体価格1600円

 

秋田犬を飼育した篠笛奏者の村山氏が著した

犬との生活記録である。

 

秋田犬の特質を冒頭で要約している。

 

「秋田犬とは可愛い顔をしてはいるが、ほぼ、人に

良く懐いたオオカミである。・・・秋田犬は敏感で利口、

 

思慮深く、独立心旺盛で、防衛本能と力は強く、温和で

優しく、家族を守ります。

 

基本、忠犬ではありますが、誇りは高く何でも人の

言いなりはなりません。隷属ではなく共存・協働を望むのです」

(P4~5)

 

さらに、秋田犬と暮らすための8カ条も引用しておこう。

 

1 覚悟を持って最期まで犬の世話をすること

2 仔犬から育てるならばブリーダーに直接会い譲ってもらう

 

3 愛情をたっぷり込めて、たくさん可愛がること

4 散歩は毎日欠かさず行い、歩行訓練は仔犬のうちから自分ですること

 

5 たかが犬だと思って馬鹿にしてはいけない

6 飼い主と周囲の大人が常に知的な振る舞いで犬に接すること

 

7 犬格を尊重すること

8 事故を未然に防ぐことに努め、事故が起きてしまった場合に

 備えておくこと ⇒個人賠償保険に加入することを勧めている

 

全編、愛情にあふれた文章で、読んでいても心が和む。

写真も豊富に掲載されており秋田犬の魅力を感じ取ることができる。

犬好きにはぜひ一読を勧めたい。

 

映画「破戒」を観る

映画「破戒」を観た。

 

言うまでもなく、島崎藤村の名作である。

三回目の映画化だというが、本作は部落解放同盟創立

100周年の記念事業としても位置付けられているようだ。

 

当初公開の時に見逃してしまったので、やむなく今回は

ビデオで見る羽目になった。

 

ネットで感想を読み返してみると、高評価が多い。

部落差別を知らなかった人からの評価も肯定的である。

ただ、意外に小説を読んでいる人は、一割にも満たない。

小説自体が大作で読みにくいという面もあるのだろう。

 

問題は描き方であるが、主人公の瀬川丑松を中心にうまく

表現できていたし、演じた俳優の出来も良かったと感じる。

 

もともと丑松は父親からの「部落出身であることを隠せ」と

いう「戒め」に囚われた人生を送ってきただけに、最後の

段階で、戒めを破り、自らカミングアウトし、新天地を

目指すという筋書きに抵抗感がある向きには、小説も映画も

不満があるであろう。

 

部落解放運動が狭山差別裁判糾弾闘争でもっとも盛り上がって

いた1970年台前半には、「丑松」は乗り越えるべき対象であり

積極的・主体的に差別と闘う人間像が求められていた。

 

本作でも、丑松は差別と闘うのではなく、いわば逃避して

自分の幸せを追求しようというのであるから、ここを描かないと

ダメだというのは、原作から大きく逸脱してしまうので、

無理難題的な批判であろう。

 

社民党の福島議員が狭山集会での発言のなかで、

国会議員有志が「破戒」の映画を集団で鑑賞し、部落差別への

理解を深めたと報告していたが、残念なレベルである。

 

まだまだ、long way to go のようである。

 

 

「被差別部落に生まれて」

被差別部落に生まれて 黒川みどり

岩波書店 2023年5月刊

本体価格 2500円

 

狭山事件でえん罪となっている石川一雄さんの生い立ち

から、犯人とされるまでの過程、獄中32年の闘い、

仮出獄後の闘いと日常が克明に語られたものを、

黒川氏が文章化したもの。

 

内容は膨大であり、相当、ディテールにも踏み込んでいる

ので、読む方にはそれ相応の覚悟がいる。

この事件や経過について事前知識がある方だと思っていたが

それでも、かなり疲れた。

 

結論は、石川さんが無実で、それを証明するために法廷闘争を

闘っているということなのだが、一人の人間の生い立ちから

始めて、現在までの軌跡をたどるというのは、生易しくはない。

 

本書は石川さんへの聞き取りを中心に、妻の早智子さん、

部落解放同盟で狭山闘争の責任者であり、学生時代から

関わってきた片岡明幸氏も随所に登場し、黒川氏の作業の

羅針盤のような役割も果たしている。

 

現在の東京高裁での第三次再審も先行きについて、予断を

許さないが、そうした緊迫した状況の中で、本書が出版された

意義は大きいと感じる。

 

内容が膨大であるために、誰にも勧められるわけではないが

いま読んで、確信をもって再審に向けた行動を起こさないと

歴史に残る差別糾弾闘争に係る機会を逸すると思う。