何か、借方と貸方がバランスしていない上に、借方に「徴税権」という意味不明な勘定項目が掲載されているバランスシート(もどき)を「国家の連結バランスシート」と披露している面白い人がいるとのことで、吃驚しました。
相変わらず「徴税権」を借方に載せている上に、借方・貸方が同額になっていないのでは「バランス」シートとは呼びません。バランスシートは借方、貸方が一致するから「バランス」シートなのですよ。
とはいえ、会計の知識がない人は、コロリと騙されるんでしょうね。どうせ、それっぽいレトリックを駆使しているんだろうし。
というわけで、正しい日本国家(日本政府と日銀)のバランスシートを作成してみました。
ちなみに、データは普通に日本銀行の「資金循環統計」に掲載されていますので、誰でも同じ図を作れます。
まずは、日本政府(中央政府)のバランスシート。
【① 日本の中央政府のバランスシート(兆円)】
http://mtdata.jp/data_88.html#JPBS
御覧の通り、日本政府は貸方の負債が借方の資産をはるかに上回る、債務超過(純負債)状態にあります(これで良いのです)。
ちなみに、政府の債務超過が874兆円と、先日の財務省の数値よりも多いのは、純資産状態になっている社会保障基金を除いているためです。
政府の負債のメインは、もちろん国債・財投債と国庫短期証券。「クニノシャッキンで大変だ~っ!」と騒がれているのは、この二つの勘定項目ですね。もっとも、国庫短期証券は文字通り短期の国債なので、頻繁に数値が上下します。
借方の資産として「対外証券投資」を計上しておきましたが、これがいわゆる外貨準備ですね。
次に、日本銀行のバランスシート。
【② 日本銀行のバランスシート(兆円)】
http://mtdata.jp/data_88.html#JPBS
御覧の通り、現金(現金紙幣)と日銀当座預金が貸方に負債計上されています。
同時に、国債・財投債が574兆円と借方に巨額計上されています。この国債・財投債(及び国庫短期証券)が、「親会社」の日本政府に貸している形になっているため、連結決算で相殺される部分です。
連結決算とは、「親会社と子会社のおカネの貸し借りは相殺される」「親会社と子会社間の利払いは相殺される」という会計ルールです。
日銀は、借方(資産)サイドが貸方の負債を上回っているため、34.6兆円の純資産状態にあります。連結決済すると、この日銀の純資産が中央政府の純負債と相殺され、中央政府の純負債が少し減ります。
【③ 統合バランスシート(兆円)】
http://mtdata.jp/data_88.html#JPBS
③が、正真正銘の日本国家の統合(連結)バランスシートになります。
日本銀行が借方に保有している国債が、政府の貸方の国債と相殺され、消滅します。(残る国債は、400兆円を切る・・・)
同時に、日本政府の純負債(債務超過)額が34.6兆円減り、約840兆円に減少する。
もっとも、統合政府の債務超過分、日本の民間(特に家計)に純資産が産まれている。というわけで、「誰かの純負債=誰かの純資産」である以上、政府の債務超過は何の問題もないのです。というよりも、債務超過は拡大しなければなりません。さもなければ、我々の純資産が増えないじゃないですか!
ところが、例の「単方向の思考」により、「債務超過、大変だ!」と、「誰かが債務超過になっているとき、誰かが純資産になっている」という当たり前のことを理解できず、ヘンテコバランスシートに騙される人が出てくるわけです。
いいですか、落ち着いて聞いてください。
バランスシートは借方と貸方が同額にならなければならないし、徴税権、といった勘定項目は存在しないし、政府が債務超過を増やせば、国民の純資産が増えるし、国家のバランスシートは別に特殊技術が無くても、日銀の資金循環統計から簡単に作れるんです。
とりあえず、左右がバランスしないバランスシートを提示した人は、何もわかってないか、嘘つきか、あるいはその双方であることは間違いないです。何しろ、会計原則をはなから無視しているわけですから。